そして動物の国は光を取り戻す

 アニマル合衆国の女王であり要であるテラス様が愛想を尽かせてしまったという話を聞いて『そんな事になっていたのか』と驚き、ざわめくビッグビッグフェスタの参加者たち。そんな中、ユズは「あの!」と声を張り上げた。


「もう一度挑戦したいです! 私達の歌をテラス様に届けたいです!」


 とお願いした。


『うーむ、まあ時間はあるし、ワシは構わないが……』


『俺も賛成。一位の俺達はマジックショー、二位もアクロバット。どちらも最後には向いてないと思うしな』


『最後の悪あがきって事で、みんなで歌うってのも面白そうですわね』


 王様や他の参加者たちも好意的に受け止めてくれ、最後にみんなで歌って踊ろうという事になった。


「『ぴょんと飛べば』、みんなで歌いましょう!」


『『『わああ~!』』』

『『『ヒューヒュー~!』』』

『ワオーン!』『パオーン!』『ヒヒーン!』


 カン、カン、カン、カン


「〈私の〉……違うね、〈私たち・・の歌を聞いて!〉」



 こうしてユズと多数の獣人たちによる大合唱が始まった。ユズが「みんなで一丸となってこの思いを届けたい」と願ったからだろうか、ユズを始め一緒に歌うふさふさのメンバーやライバルだった他チームの人たち、観客、王様、みんなから音符が飛び出した。


(すごい♪ すっごく綺麗~!)


 その光景にユズは息をのんだ。色とりどりの音符オモイが空間を満たし宙を舞う様は、とても非日常な空間であり、感動に値するものだったのだ。



 それら音符は届けたい人の元へ向かう。テラスの部屋の入り口にぶつかり、結界にひびを入れる。


『モー少しで壊れそう!』

『ここからサビだし、キャットきっと壊しきれるニャン!』



「さあ、ピョンと跳ねよう、明日へ向かって♪」


『『『ぴょん!』』』



 ピシシ……!


 ピキ


  パキ


 パキパキ!



 カシャン。結界が割れる音がした。



『『おお~!』』



 結界が割れると、テラスの部屋の中に音符がザアーっと流れ込んだ。中からは『きゃ! え、何、何、何事?』という声が聞こえる。まあ、突然自分の部屋に謎の音符が飛び込んで来たら驚くだろう。





『おお、テラス……!』


『……どうも。で、これは一体どういう……?』


 部屋から外に出ると、目の前でお祭りが開かれていた。そんな状況に置かれ、混乱するテラス。そして王様がテラスに事の経緯を話すと、テラスは大きなため息をついてこう言った。


『お父様ねえ、あなたって人は……!』


『ど、どうしてそんなに怒っているんだ……? ちゃんと息子は罰したし、制度の見直しも行った。対応が遅かったのは謝罪する。だからもう怒らないでくれないか……』


 娘にぺこぺこと謝る王様。大丈夫か、この国? ま、まあそこは考えてはいけない。神話とは大抵そういう物である。


『そういううわべだけの話をしているのではないです。例えばこの祭りを催すのに、どれだけ周囲に迷惑がかかったのか分かっているのですか?!』


『そ、それを言うなら、元はと言えばお前が引きこもって話を聞こうとしないからじゃあないか!』


『確かにそこに関しては謝罪します。ですが、ちゃんと引継ぎの書類は置いて行ったはずです。私が居なくても問題ないはずでしょうに。ポケットマネーとやらで、新しい人材を採用すればいいだけでは無いですか』


 ごもっともな指摘である。


『うぐ……』


『はあ、まったく。みなさま、この度はお騒がせしてしまい本当に申し訳ございません』


『いいってことよ!』

『楽しかったしな!!』

『俺のハートもドッグんドッグんしてるぜ!』


『あはは、そう言って下さるなら何よりです。それに、今更とやかく言っても遅いですしね。これも国民と王家の親睦を深めるイベントと考えればまあ良いとしましょう』


『うむ。おっとその前に。この度の活躍に敬意を払って、ふさふさのボーカルの……えっと、ユズ殿、に特別賞を授与しようと思う!』


『『『おお~』』』


「え、え、ええ~!」


『さあ、ユズ殿。何が欲しい? 地位? 名誉?』


「え、えっと、そんな、あの……」


『丁度テラスが人事と言っていたし、この国の宰相の座とか……『勝手なことを言わないでくださいまし!』ふべら!!』


 適当な事をべらべら言い出す獣王をハリセンで思いっきり叩くテラス。……そのハリセン、どこから出した?


「えっと……」


 混乱するユズ。さもありなん。


『ユズさん、と呼べばいいでしょうか?』


「あ、はい!」


『何か欲しい物は、と言いたいところですけど、あなたは見た所、旅人のようですね? 近い内にこの国から去るご予定なのでしょう?』


「あ、はい。その予定です」


『でしたら、地位や名誉、ましてや職業なんて枷にしかならないでしょう?』


「そう、ですね。私には帰る場所があるので……」


『なるほど……そうですね。では、こんなのは如何ですか?』


 そう言ってテラスは一つのブローチをユズに見せた。


「わあ、綺麗なブローチ♪」


『これはアニマル合衆国との友誼の証です。どうか受け取って頂けませんか?』


「あの、本当にいいのですか、こんな高級そうな物……」


『ええ、勿論です』


「あ、ありがたく頂戴します……。きゃ!」


 ユズがブローチを受け取った直後、ブローチがまばゆい光を放った。まぶしさのあまり目を瞑ってユズに、無機質な音声がこう伝える。




〔特殊階層『そして動物の国は光を取り戻す』を攻略しました〕

〔再挑戦は不可能です〕


〔この特殊階層に攻略ランクはありません〕


特殊技能スキル〈ききみみずきん〉を獲得しました〕

特殊技能スキル動物との友誼アニマルフレンドシップ〉を獲得しました〕

特殊技能スキル召喚サモン〉を獲得しました〕




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る