私の歌は貴方を癒す力
ハルはミミとココのお母さんに自身の能力を使ってオーサーの娘を助けられるかもしれないと言った。自身のスキルについて詳しく説明すると『それはやってみる価値があるわね』と言った。
「ここでスキルを発動して大丈夫かな?」
『そうね……。いえ、場所を変えましょう。ここだとあなたが楽しく歌えないわ』
「えっと……」
『あなただって、ここだと思いっきり楽しく歌えないでしょ?』
義務感で歌ってはいけない、心の底から楽しいと思って歌う必要があるのだ。それがこの子を助けるために必要である。
「それはまあ……。じゃあどうするの?」
『幸い……って言っていいのかは分からないけど、オーサーが用意したこの魔道具があるわ。これを使えば、あなたはお祭り会場の中心に居ながらにして、この子にエネルギーを届ける事が出来る』
「なるほど……!」
『とは言え、少し魔道具の性質を書き換えなきゃだけど……。ここをこうして……、はい、できた。聞いていたわね、みんな? この魔道具を会場の中心にある舞台に設置するわよ!』
『『『了解です!』』』
『そうだ、歌う必要があるって事は、演奏も必要よね。楽団の皆さんに今からライブをするって伝えてきてくれる?』
『『『了解!』』』
◆
この特殊階層で手に入る曲のタイトルは『それは笑顔の
伴奏は大太鼓や笛を使ったいかにもお祭り風の音楽になっている。歌詞の方は、要約すると「今日はお祭り、みんなで楽しもう!」という、一見単純明快な歌詞である。
しかし、実はその解釈だとつじつまが合わない箇所がいくつか存在する。そこで、この歌詞をしっかり読み込むことで、この歌詞に出てくる「お祭り」という言葉が字義通りの意味ではなく「何気ない毎日」を意味していると読み解くことができる。
つまり「私にとって、何気ない毎日も楽しい楽しいお祭りのようだ。だから今日も私は歌声に笑顔を載せてみんなに届けるんだ」というような意味と解釈できる。
とまあ長々と説明したが、ハルはそんなこと一ミリも気が付いておらず「お祭りっぽい歌だ!」くらいにしか考えていない。けどそれでもいいのだ、とにかく楽しいという思いが伝わればいいのだから。
軽くリハーサルした後、ハルは舞台に登って下にいる人たちを見た。前の方に座っている事情を知らなさそうな子供達に向かってハルはこう言った。
「みんな! お祭りは楽しんでるー? ハルはとってもとっても楽しいよ! だからその思いをみんなに届けるね!! 良かったらみんなも歌ってね! それじゃあミュージックスタート、〈私の歌を聞いて!〉」
…
……
………
『面白いスキルね……エネルギーが目に見える形で飛んでいるわ』
『ええ、すごいですね。……このエネルギーがあの子に上手く届いていると良いのだけど』
『きっと問題ないわよ。ほら』
『え? あ!!』
そこにいたのは車いすに座ったオーサーの娘。先ほどまで生死の狭間をさまよっていたとは思えないほどに、彼女の体には生気が戻っている。
『娘の為にここまでしてくれて、本当にありがとう。そして、皆に相談せず勝手なことをして本当に済まなかった……』
『父が御迷惑をおかけしました』
オーサー親子は大人たちに向かって深々と頭を下げて謝罪する。
『あなたが悪事の為に生命力を集めていたならどうしてやろうかと思ったけど。まともな理由がだったから今回の件は水に流すわ。それと、お礼はあの子に言ってあげて』
『そうだな』
『素晴らしいスキルですね。思いを届けるスキル。とっても素敵です』
………
……
…
歌が終わって静寂が訪れる。拍手と歓声、そしてオーサー親子の感謝の声に包まれながらハルの視界は徐々にホワイトアウトし……。
◆
〔特殊階層『私の歌は貴方を癒す力』を攻略しました〕
〔再挑戦は不可能です〕
〔この特殊階層に攻略ランクはありません〕
〔
〔
〔
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます