ユズは思い出した

 ビッグビッグフェスタにて、王様が特別賞に値するチームがいなかったと言ったことで、場は混乱を極めた。


『どういうつもりですか?!』

『まさか最初から誰にも渡さないつもりだったんじゃあないでしょうね?』


 そりゃあそうだ。みんな特別賞を狙っていたのに「全員失格」なんて言われたら、文句を言いたくなる気持ちも分かる。


『ああ、急にこんな事を言ったら納得できないだろう。……本当は言いたくなかったのだが、このビッグビッグフェスタの真の目的を説明せざるを得ないようだ』


『『『真の目的……?!』』』


 彼には二人の子供がいるそうだ。姉のテラスと弟のスサノー。

 二人が子供のころは、仲の良い姉弟だったそうだ。しかし、二人が大きくなるにつれ、周囲の大人が二人を比較するようになった。「テラス様は真面目なのにスサノー様ときたら……」と。その結果、二人の間には徐々に溝ができ始める。

 そして、テラスが政治家として手腕を発揮し始めた頃、スサノーはと言うと簡単に言うとグレてしまった。酒場でバカ騒ぎするなんてまだましな方、喧嘩騒ぎを起こすこともしばしば。

 それらは全て、獣王らが金銭等で補填することで無かったことにしていた。獣王夫婦からしたら、どんなにグレていても、息子は息子。いつか改心してくれるはずだと信じて、更生の猶予を残していたのだ。


 とそんな事情があって、スサノーは厳重注意されるだけで見逃されていた。……しかし、それを許さなかった者がいた。彼の姉であるテラスだ。


 彼女は「スサノーの行動を放置する事は今の政治への信頼を損ないます」と何度も訴えた。しかし、誰も彼女の言葉に耳を貸さなかった。裁判所や警察も「まーまー、やんちゃしたい時期もあるさ……。市民に不満も残らないようにしてるしさ」なんて言う。

 そんな状態に怒ったテラスは強硬手段に出ることにした。彼女は「関わらないでください」「立ち入り禁止!」という張り紙を残して、部屋の中に閉じこもってしまったそうだ。しかも、部屋には簡易決壊が張られていて、誰も開ける事が出来ないという徹底ぶり。


 政務における重要な役目を担っていたテラスがいなくなっては、国が回らない。ここにきてようやく、国はスサノーを罰することを決定し、彼は魔の森へと追放されることになった。

 しかし、もう愛想を尽かせてしまったテラスは、部屋から出てきそうにない。そこで、獣王らは名案を思いついた。それが……。


『こうして王場内で、それもテラスのいる部屋のすぐ前でお祭りをして、テラスに外へ出て来させようとしたのだ。テラスに興味を持たせたチームに特別賞を授与するつもりだったのだ』


『な、なるほど……。そんな事が……』

『あ、もしかして、あそこに張られてる「立ち入り禁止!」って書かれている場所って……テラス様のお部屋だったりします?』


『ああ、まさにその通りだ』



『ニャンか想像以上の大事にニャッてたようだね……』


『テラス様が、今そんな事になってるなんて……。なんとかしなくてワン!』


『どうにかしたいピョンね……』


 王様の言葉を聞いて、ざわめく会場。ユズは小声で「テラス様ってどんな人なの?」と聞いた。


『テラス様と言えば、平民にも優しい、まるで太陽のようなお方らしいぴょん』

『私達が住んでいたような田舎でも、その名前を聞くくらいだピョン。きっと王都ではすっごい有名人だったに違いないピョン!』


「そっか~。どうにか、また外の世界に希望を持ってもらいたいね……。何かいいもの持ってたりしないかな……あ!」


 その時、ユズはマジックバッグの中にヒメから貰った手紙が入っていることを思い出した。困ったときに開けてほしい、これはきっと、今の事を指しているのでは? ユズは封筒を開くことにした。






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