ハルは思い出した

 ハルたちは今回の黒幕ことオーサーの家へ向かった。

 住人たちが彼を追及すると、自分が生命力を奪う仕掛けを作ってそれをお祭り会場に設置したことを白状した。


『なぜそんな事をしたのですか?!』

 という住民からの追及に対し、オーサーはなぜ今回のようなことをしたのか、その経緯を語った。


 オーサーには体の弱い娘がいる。そんな彼女は一か月前に生命力欠乏症という病気に罹ってしまい、医師からは余命幾ばくもないと言われていた。治すには大量の生命力を注入する必要があるとの事。


 そこでオーサーは、住人に頼んで生命力をちょっとずつ分けてもらおうと考えた。が、それは逆効果であると医師から言われる。曰く、彼女には「楽しい」「嬉しい」と言うポジティブな感情がこもったエネルギーが必要なんだそうだ。

 仮に住人が生命力を分けることに同意したとしても、そこにはポジティブな感情はこもっていないだろう。むしろネガティブな感情がこもっている可能性すらある。


 そこでオーサーはお祭りを開くことで住人に楽しんでもらい、その最中にエネルギーを少しずつ奪おうと考えたのだ。そしてそれは一部成功した。確かにある程度の量の生命力を奪う事には成功したのだが……。オーサーの知らぬところで想定外の事が起きていた。

 生命力と奪うといってもある住人から数%ずつ奪うような魔法にしていた為、住人は奪われても体調を崩すことなく祭りを楽しめるはずだった。しかしながら、小さな子供は数%奪われただけでも体調を崩すという事態が起きていた……と言うのが今回の事件の一部始終だ。


『そ、そういう事だったのか……』

『オーサーのやったことは決して褒められることではないが……』

『気持ちは分かるから何とも言えないわね……』


 住人たちは、オーサーを許すわけにはいかないけれど、彼の娘さんを救う事には賛成と言う様子。


「とりあえず、ある程度の年齢の人だけでお祭りを続行するのは? このまま見捨てるわけにはいかないよ!」


『そうね……』『私も賛成』

『ああ。ただ、あとどれくらい生命力を集まれば娘さんを治してやれるんだ?』


『分からない……。が、今のペースだと無理そうだ……』


 オーサーはそう言って頭を抱える。どうやら、娘さんの健康状態は改善していないそうだ。


『娘さんの様子を見ても? 私ならある程度分かるわよ』


 ミミとココのお母さんがそう名乗り出た。そこで彼は、住人(女性だけ)を娘の部屋へと案内した。ハルも着いて行く。


「!!」


 ハルは驚いた。病気の娘さんがハルと丁度同じくらいの年の女の子だったからだ。彼女は布団にくるまって「寒いよう……」と言っていた。


『これは……想像以上の重傷ね』


『そうなのか……娘は、娘は、治らないのか?!』


『……今の状態は生命力を取り込めない状態にまで深刻化しているわ。どれだけ彼女に生命力を渡したとしても、それが彼女の中にほとんど入っていかない。多少症状を抑える事は出来るかもしれないけど、焼け石に水ね。だから……どう頑張っても彼女を助けられない』


 ミコミミとココの母親は、淡々とそう言った。下手な嘘は患者や家族を傷つけるだけ、彼女は言いにくい事を正直に言ったのだ。


『な……?!』

「そんな……」

『こんな小さい子が……』

『何とかならないんですか?』

『優秀なヒーラーに頼むとか!』


『優秀なヒーラーなら……。いいえ、それでも厳しいと思うわ。回復魔法が彼女の中に入っていかないの。それこそ、彼女に強制的に生命力を注入するスキルがあれば話は別だけど……そんなもの聞いたことないわ』


(どうしよう、ハル、何にも出来ない……。ヒメちゃん、ハルはどうしたら……。あ……!)


 とここにきてようやく、今朝ヒメからもらった手紙の事を思い出したハル。

 ハルは「きっとここに答えが書いてある!」と思ったハルは、手紙を取り出して、中を読むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る