ビッグビッグフェスタ、決勝戦


『いよいよ決勝戦ピョン!』

『緊張するぴょん……』


「……」


 ユズは驚いていた。予選が終わって、自分たちの決勝進出が決まるや否や、いきなり次の日の決勝戦直前になっていたからだ。一瞬の混乱の後にユズは「CMでも間に入ったのかな?」という感想を抱いた。

 アニメあるある、CMが明けると場面が切り替わっている。それと似たようなものだとユズは考えたのだ。その理解はいささかどうかと思うが、本人が納得しているのならそれでよしとしよう。


『どうしたぴょん?』


「うんん、緊張するな~って思ってただけ。ま、全力で楽しもうね♪」


『『『ぴょん!』』』


 四人は、ふさふさのメンバーたちは、会場へと入っていった。



 決勝戦の場所はまさかの王城内。しかも、観客席は完全に一般開放されており、そこである程度お祭り騒ぎしていい事になっているようだ。威圧感を放つ巨大な城門をくぐった先に、観客席やステージがあるという状況に、ユズは「なんだかちょっとシュール」と感じた。

 王城ってもっと大切な場所では? こんなイベント会場にしちゃっていいの? ま、まあ。そのあたりは、この物語特殊階層の設定なのだろうと、ユズは受け入れることにした。

 少しだけ、いつもツッコミ役をしているリンの気持ちが分かったユズであった。


 さて、開会式までしばらく時間があるとのことで、ユズは王場内を散歩していた。すると、兵士たちの声が聞こえてきた。


『最近は治安がいいとはいえ、これはさすがにどうかと思うよな~。いくら俺らが警備したって、セキュリティーガバガバだぜ?』


『ほんまそれ! そのせーでワイらの仕事が増えるっちゅうんやから、ほんま勘弁やでな』


『うんうん。王城内に一般人を呼んでお祭りとか、何考えてるんだろうな、ほんと?』


『なー。ほんま、どーゆー事やろな? 今回のビッグビッグフェスタだって、急に「今すぐ開催するぞ!」って言いだしたもんやし』


『何もかもが謎だよなー』


 そんな兵士たちの愚痴を聞いてユズは、少しの疑問を抱いた。

 ユズは今回のビッグビッグフェスタを「この世界の恒例行事」と考えていた。地上にも漫才のグランプリやコントのグランプリがあるが、あんな感じで毎年開催されているのだと思っていた。

 だからこそ、王城をイベント会場にしてしまうのも「そういう世界観」として納得したのだ。だけど、あの兵士が本当のことを言っているなら、そうではないらしい。


 この大会の意味はいったい?


 だが、これらの違和感を、明確に言語化できなかったユズは、この問題を先送りにすることに決めた。



『さーて始まりました! ビッグビッグフェスタ、決勝戦! 国中から集まったエンタメの精鋭が、ここ「ワシンニャン城」に集結しています!』

『誰が最高に面白いエンターテイメントを披露するのか、ドキドキが収まりそうにありません!』

『さて、ここで主催者たる獣王陛下から、優勝者に与えられる賞金についての説明をしていただきましょう』


『おほん。それでは説明させてもらおう。観客からの投票で一位に輝いたチームは優勝賞金として金貨1000枚が贈呈される』


 おお~!と観客席から歓声が上がる。金貨1000枚がどれほどの金額なのかは不明だが、おそらくそこそこの大金であると推測できる。


『そしてそれとは別に、ワシから特別賞を授与する。特別賞が与えられたチームには、ワシがかなえられる限りなんでも用意しよう。特別賞は優勝チームに贈られるかもしれないし、それ以外かもしれん』


 おお~!!!と先ほどの三倍ほどの大きさの歓声が上がった。


『あ、改めてすごい報酬ですね……』

『しかもこれ、税金ではなく、王様のポケットマネーから支払われるって言うんですから、とんでもないですよね!』

『そうですね~。では次に観客席にいる皆様への諸注意です』


・飲食は自由。ただし、演者の妨げになるような大きな音で食べるのはダメ。

・お酒はNG。

・拍手や歓声を上げることも問題ない。

・ブーイングやバッシングと言った舞台を邪魔するような行為はNG。


 などなど。「ちょっと自由過ぎない?」と裏で聞いていたユズは思った。

 もしかしたら、この世界は娯楽が少ないのだろうか。だからこういう機会に思いっきり楽しもうという魂胆とか?

 いずれにせよ、観客たちが楽しんでくれたらそれでいい。ユズはそう思った。



 そして、ユズたちを含め、全10組のパフォーマンスが終わった。


 ユズたち「ふさふさ」の順位は……








 3位



 優勝できなかった。




『そ、そんなあ。ピョン』

『う、う、うぅぅぅ。ぴょん』

『仕方ない。けど……。うう。ぴょん』


「な、なんかみんな、無理やり語尾に『ピョン』を付けてない……? それに、まだ諦めちゃダメだって~! 特別賞の可能性もあるじゃん!!」


『そ、そうだピョン!』

『う、うう。ぴょん、そうだね……』

『可能性はある。ぴょん……』



 今度は王様から特別賞が発表される。果たして、特別賞が贈られるチームは……?!


『特別賞だが……』


 王様の言葉に、会場が沈黙に包まれる。


 出場者も、観客も、司会者も。


 皆が彼の次の言葉を待っていた。



……

………



『すまない、今回、特別賞を贈るべきチームは現れなかった』




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