嫌な感じ

 ハルと二人の巫女幼女はお祭りを満喫していた。食べ物で言うと、焼きそば、フランクフルト、たこ焼き、チョコバナナ、ベビーカステラなどなど。全部三人で分けっこした食べた。遊びで言うと輪投げや千本つりなど。それはもう楽しんだ。


 しかし、その途中途中で、二人の巫女ちゃんに異変が生じた。


『……?』


「わわ! どうかしたの?」


 急にハルに抱き着いてきたものだから、ハルはびっくりしてしまう。


『あ、ごめんなさい……。なんかふらっとした……』


「あー、疲れちゃったのかな?」


『うんん、大丈夫。躓いただけだと思う』


 最初は特に気にしていなかったハルだが、そんな事が何度かあったものだから流石に不安になってくる。


「ねえ、やっぱりどこか悪いんじゃない? 熱中症とか……」


『そういうのじゃなくて、うーん、なんていうか……』

『なんかね、嫌な感じがするの。ぴゅ! みたいな』

『そうそう、そんな感じ!』


「ぴゅ?」


『『うん』』


 初めて聞いた擬態語に混乱するハル。


「えっと、意識がもうろうとする感じ?」


『うんん、違う』『ぴゅ!って……』


「?? 何かを取られる感じ?」


『うん、そんな感じ!』


「うーん、そう言われても……。あ! もしかしたら決心ってやつかも!」


 とそこでハルは、ヒメとリンがとある病気について話していた場面を思い出した。その病名は小児欠神けっしんてんかん、子供に見られるてんかん発作である。ハルは「決心」と勘違いしているが、漢字が間違っている。

 ちなみに、どうしてヒメとリンの二人はこんな話をしていたのかと言うと、リンが小児科医をテーマにした医療ドラマにはまっていたことがきっかけだったりする。


「うーん、そうだとするとハルにはどうしようもない……。取り合えず二人のお母さんと会って話すべきかも? 二人とも、お母さんの所に行った方がいいかも!」


『うん、そうする~』

『会場の中央にいると思う』


「分かった、すぐに行こう!」



『あ、おかーさん~』

『ママー』


 二人の親は、和服を着た、すらっと背の高い綺麗な女性だった。


『あら、美々ミミ心々ココ~。どうしたの~? あら、その子は~?』


 ここにきて二人の名前が判明。ミミちゃんとココちゃんと言うそうだ。

 二人合わせて巫女ミコだ。安直過ぎる……! きっとダンジョンは名前を考えるのが苦手なのだろう。


『森で見つけたー』『お友達~』


「あ、えっと。こんにちは!」


 二人がハルを紹介するようにグイっと背中を押し、ハルは慌てて二人のお母さんに挨拶する。


『そうなのね~。二人と遊んでくれてありがとね~』


「いえいえ、それで……という訳でして」


 ハルは二人のお母さんに先ほどの事を話す。


『んー。二人は特にそういう病気はないはず~。ねえ、それが起こった場所って覚えてる~?』


「えっと、一回目はかき氷やさんの前で……。んーっとその次は輪投げをしてちょっと歩いたところで、それから……? すみません、全部は分かんないです。どうしてですか?」


『うんん、実はね、似たような話を時折聞くの~。小さい子がふらっとするって話が~。最初は熱中症って思ったのだけど、二人が言う「ぴゅ!って何かが抜かれる」って言う表現が気になったの~。もしかしたら、生命力を抜き取る呪いがあるのかもしれないわ……』


「呪い?!」

『確かに!』『いやーな感じがしたの!』


『二人は巫女だから、そういう事に敏感なのよ~。杞憂だったらいいのだけど、もしかしたら何かあるのかもだわ~』


「それは大変です! すぐに何とかしないと!」


『そうね……。ねえ、頼みごとを聞いてくれるかしら?』


「なんでしょう? でも、ハル、呪いとかよく分からない……」


『そんな難しい事を頼むんじゃないよ~。これ、地図を渡すから、患者さんにどこで発症したのか聞いて、マークしてくれない~? 何かの手掛かりになるかもだから~』


「なるほど、分かったです! なんだかスノーさんみたい! 頑張ります!」


 なお、ハルのいう「スノーさん」とはイギリスの医師、ジョン・スノウの事だ。彼はこれらの発生がどこで起きているのか地図上にプロットしたことにより、コレラの発生源を突き止めた業績から「疫学の父」などと呼ばれている偉人である。

 なお、これもリンとヒメが話していたから、ハルも知ったようだ。



 その後、ハルは聞き取りの末に「謎のふらつき」が起きた場所を示した地図を作成することに成功した。


「なんだか、規則性がある?」


 プロットした点はある地点を中心に放射状に並んでいるように見えた。

 それを報告すると、ミミとココの母親をはじめとする大人組が、より詳しい調査に乗り出して……。


『見つかった、これね』

『強力な生命与奪の魔方陣じゃの……』

『お祭りの参加者から奪ったエネルギーをどこかへ転送しているみたい……』

『逆アセンブルして、場所を割り出しましょう!』

『こんなこと、許されないわ!』


 そして、これを仕掛けた犯人と思しき人物が分かった。

 その人物とは……この街の町長を務めているオーサーという人物のようだ。


『これは……追求しに行くしかないわね』


 そんなシリアスな雰囲気の中、ハルはふと思った。


(アーサーじゃなくてオーサーなんだ……。まさかとは思うけど町の王様だからオーサー?!)


 違う違う。

 そうではない。










 町のおさだからオーサーである。



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