幼女……ではなくドライアドと一緒に山道の両サイドに花を植えていたリン。しばらくしてドライアドが『休憩しようです』と言ったことで、一休みすることになった。


『こっちです。こっちにドライアドの町があるです』


「町?」


『はいです』


 そう言ってドライアドはリンを山道の先へと連れて行った。



『見えたです。あそこが私たちの町です』


「!」


 ドライアドが指さした先にあったのは、無数の巨木、いや、巨木なんて平素な言葉で言い表すのも憚られるような、畏怖の念すら感じてしまうようなサイズの木が生えている場所だった。

 数百メートル離れている場所を歩いているにも関わらず、木に生る果実の一つ一つを識別出来る。地面を這う木の根の一本一本を追う事が出来る。そんなサイズの樹木なのだ。

 また、木の枝と枝は複雑に絡み合っているように見えるのだが、それによって森全体が一つの生命体であるかのような錯覚に陥る。


 そんな森を目の当たりにしたリンは、未だかつて感じたことがないような圧力すら感じた。魔物と対峙したわけでもないのに、危険はないと分かっているのに、リンの背中に冷や汗が流れ、彼女の全身に鳥肌が立った。


 ドキドキと脈打つ胸に手を当てながら、リンは一歩ずつ森へと近づいた。


「おお。すごい……」


『すごい、です?』


「うん……」


 先ほどまでは人が居住できるとは思えない場所に見えていたが、近づくことでそこが確かに居住地であることが分かった。木に生っている果実一つ一つはドライアドが住む家らしい。地面を這う根は道路になっていることが分かった。また、無造作に絡まっているように見えた枝は、木と木と繋ぐ橋として機能しているようだ。


 さらに近づくと、隣り合う木と木の枝が癒合している箇所があるのが分かった。……癒合しているというよりも、最初からくっついていたように見える。不思議に思って他の場所を見ると、枝と枝だけではなく、根同士は一続きになっており、境目がない事が分かった。


「ねえ。これってもしかして、たくさんの木じゃなくて一つの生命体?」


『そうです。よく気が付いたです!』


 森全体が一つの生命体。それは錯覚ではなく、真実であった。

 そんな受け入れがたい事実を知ってしまったリンは、ぽつりと「……そっか」とつぶやいた。


 それっきり、言葉を出せなくなったリン。放心状態で歩く事数分、ドライアドの家に到着したのだった。



『どうしたです? なんだか目がうつろです?』


「! 私は今、人類が如何いかに矮小な生き物なのかを痛感してた。私、今後もっと謙虚に生きようと思う」


『よく分からないです。でも、謙虚なのは良い事です。あ、お菓子を用意しますです。ちょっと待っててです』


 そう言ってドライアドはトテトテとキッチンへ走っていった。

 その間に、リンは窓からの景色を楽しんだ。そこからは巨樹に生る無数の果実が見え、そしてそれら一つ一つがドライアドの家であると分かる。ダンジョンの中でしか見る事が出来ないであろう摩訶不思議な風景に、リンは改めてダンジョンが神秘的な場所であると感じた。


「ユズにもこの風景を見せてあげたい。……ホームはこんな風なデザインにしたらいいかも」


 ふとリンが思い出したのはGCを貯めることで買う事が出来るホーム。そこは自分たちのプライベートな階層であり、日常生活と非日常ダンジョンが共存する場所であるともいえる。

 そんな「ホーム」になら、このような住居を作る事が出来るかもしれない。リンの夢が一つできた瞬間だった。


『持ってきたです。窓の外を見てるです? 何かいるです?』


「うんん、ただきれいだなって。凄く素敵な場所」


『故郷を褒められるのは、なんだか照れくさいです。あ、果物を持ってきたです。一緒に食べるです』


「ありがと」


 ドライアドが持ってきたのは様々なフルーツがバスケット一杯に入ったもの。

 リンゴ、ミカン、サクランボ、ブドウ、キウイ、マンゴー、スターフルーツ。日本のフルーツから南国のフルーツまであって、ちぐはぐな印象を受けるが、今日ばかりはツッコまずにフルーツを堪能することにしたリンだった。



「ごちそうさま。とっても美味しかった」


『気に入ってくれてよかったです。この後はどうしますです? 町の中、散歩するです?』


「いいの?」


『もちろんです。着いてくるです、案内するです』


「ありがと」




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