ビッグビッグフェスタ、予選

『すごいピョン! きれいな歌声だピョン!』

『音程もばっちりだったぴょん。すごいです……!』

『音符のエフェクトがすごくよかった』


「ありがと~! みんなの演奏も良かったよ! すごく楽しく歌えた♪」


 三人のウサミミ族からなるバンド「ふさふさ」のオリジナル曲『ぴょんと飛べば』を歌ったユズは、三人に絶賛された。それもそのはず、元々それなりに高かったユズの歌唱力が、この半年でさらに上昇したのだから。


『どうか、どうか私たちのバンドに一時的に加入してくれないピョン?』

『お願いしますぴょん!』

『私からもお願いしますぴょん』


「うん、もちろんいいよ♪」


 なお、この時のユズは既に「あ、これは特殊階層なのね~」と気が付いていた。だから、この申し出も受けないと物語が進まないのだろうと思って了承したようだ。


『『『ぴょん!』』』


 三人のウサミミ族はぴょこんと跳ねて喜んだ。この可愛らしい姿を見れただけでも、了承してよかったと思ったユズであった。



 その後、四人は歌について、演出についてあれこれと話し合いながら町の方へと向かった。ウサミミ族曰く、彼らが今いるのはアニマル合衆国の首都「ワシンニャンD.C.」の郊外だそう。そして、ビッグビッグフェスタは首都の中央付近にある広場で行われるそうだ。


「わー、可愛い町~!」


 ワシンニャンD.C.はヨーロッパの歴史ある街並みといった雰囲気だった。

 石畳が敷かれた道路の両脇には花壇が備え付けられており、色とりどりの花が咲いている。町中を流れている川には木製のゴンドラが行き交っている。

 立ち並ぶ家の窓にも花が植えられており、華やかさである。また、お店と思われる建物一つ一つがおしゃれな看板がかかっており、見ているだけで楽しい。


 地球で言うならばフランスのアルザス地方に近いだろうか? ただ、行き交う人が皆、民族衣装を着た獣人であることもあって、地球のそれとは印象が全く違う。童話の世界に紛れ込んだようとはまさにこの事である。


 実は、国名と首都名を聞いたユズは「もしかしてすっごい大都市……? 会場も物凄い規模なんじゃあ……」と緊張していたのだが、この街を見て「そんな大きな国じゃないのね」と思って安心していた。


『ここが町の入り口ピョン!』

『いつ見ても大都市だぴょん……』

『あっちにもこっちにも人、人、人……』


 一方で、三人は町の規模に驚いていた。三人は田舎出身のようだ。



 ビッグビッグフェスタの会場は大いに賑わっていた。次から次へと挑戦者が壇上に上がって何かを披露する。マジック、ダンス、歌。ユズは文化祭のステージを思い出したとか。


『エントリー済ませてきたピョン! 前に5組くらいいるから、20分後くらいに私たちの番だって!』


「そっか! 緊張するね~」


 さて、ここでのパフォーマンスは数名の審査員によって審査され、特に良かったチームだけが明日の決勝に進む権利を得るそうだ。


『私達、残れるピョン……?』


 不安そうな表情をするロッピー。そんな彼女を見て、ユズはこう言った。


「そんな不安そうな顔をしちゃだ~め! ねえ、ロッピーちゃん。ピピちゃんにファジーちゃんも。私たちの仕事って何だと思う?」


『音楽を奏でること、ピョン?』

『え、えっと。観客を楽しませること、ですぴょん?』

『? 質問の意図が分からないピョン』


「うん、なるほどね。あのね。私は、私たちの仕事は『気持ちを伝える事』だと思うの。音に自分の気持ちを詰めて、観客にプレゼントするの」


『音に』『自分の気持ちを詰めて』『観客にプレゼントする……』


「そう。だからね、私たちが不安を感じたら、それが観客に伝わってしまうわ。それはダメでしょ? 私たちが誰よりも楽しむ。そして、その『楽しい』って気持ちをみんなと共有する。それが私達なの! だから三人とも。結果とか関係なく、まずは私たちが楽しむよ!」


『!』『なるほど……!』『ぴょん。なるほど、すごく納得』


「三人とも、いい顔になったね♪」


 ちょうどその時、チーム「ふさふさ」が呼ばれた。


『よし。みんな、楽しむぴょん!』

『『「ぴょん!!」』』



♪ ♪ ♪


「コンなきれいな歌声、聞いたことない~!」

 観客の一人、狐の獣人がそう言った。


「ワンダフル! 演奏、歌声、歌詞、すべてが心惹かれるワン!」

 犬の獣人が感動のあまり声を漏らした。


 会場が盛り上がる。さあ、ここからだ。ここからが見せ所!

 サビに入る。すると、ユズはくるくると踊りながら、ギターを弾くロッピーの所へ向かった。顔を上げたロッピーちゃんが、ユズに笑顔を向けた。ユズもそれに笑顔で返す。

 次にユズはベースのファジーの所へ向かった。歌詞に合わせて二人はハイタッチする。

 最後にドラム、ピピの所へ。二人は微笑み合った。


 そうして全員の所を巡ったユズは、再び舞台の中央へ戻るのだった。


「ニャンて素晴らしい演出ニャのー! 音符エフェクトも可愛いし、これは決勝進出間違いなしだニャン!」

 そう猫の獣人がそう言った。


「モーっと聞きたいねー」

 演奏の終わりには、牛の獣人がそう言った。


♪ ♪ ♪



「見て! 私達、決勝進出だって!」

『『『ぴょん!』』』





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