楽しいお祭り

 一万円を手にしたハルは、そのまま三人でお祭りに繰り出した。

 ところで、一般的にお祭りの時にもらうお小遣いは中学一年生で1500円程度とされている。一万円ともなれば、豪遊と言っても過言ではなかろう。それが中学生の普通の感覚だ。


「ハル、こんな大金を持ったの初めてー! あ、初めてじゃない、前に真珠を売った時は6万円もらったっけ?」


 予期せず手に入れたまとまったお金に、ハルの心はルンルンである。……知らなかったとはいえ、推定2500万円の刀をポイした人間とは思えない言動である。


(あ、でもこのお金って外には持って帰れないのかな? となると使い切らないともったいないよね! でも、ハルだけじゃあ使いきれないよね)


 そうハルは考えた。そしてこれは正しい。ここで手に入れたお金はこの特殊階層でしか使えない仕様になっている。

 さて、その事実に気が付いたハルは一緒にいる二人の女の子の分も払ってあげようと考えた。


「二人も欲しいものがあったら言ってね」


『いいのー?!』

『ほんとにー?』


「うん! あ、でも一万円は超えないようにしてね?」


『もちろんー』

『はーい』


 こうしてハルと二人の幼女の屋台めぐりが始まった。



「あ、ハルあれ食べたい!」


 ハルが指さしたのは綿菓子屋さん。お祭りの定番と言えよう。


『わたがしー?』

『おいしそー!』


 二人も欲しがったので、ハルは三人分買おうと列に並んだ。


『はい、いらっしゃい、お嬢ちゃんたち。一個300円ね』


「三人分ください!」


『いいわよ。けど、食べきれるの? 特に二人は小さいし……』


 店番のおばあちゃんが心配そうにそう尋ねる。


「あ……」『確かに……』『他のも食べたいし……』


『それなら三人で一つ分にする? 小さいサイズを作ってあげるわよ』


「いいんですか?! どうする?」


『『さんせー!』』


「はーい。はい、どうぞ。飛んでいかないように注意するのよ」


 なお、ここで売られている綿菓子は比重が空気よりも軽く、目を離すと手の届かないところまで飛んでしまう事がある。幸いハルたち三人は無事食べ終える事が出来たが、飛ばしちゃって小さい子がギャン泣きする事がよくあるそうな。風船かな?



『おねーさん。私、スーパーボールすくいしたいー!』

『私もー』


 今度は幼女ちゃんの希望。スーパーボールすくいをしたいようだ。


「いいね! どこでやってるの?」


『『向こうー』』


「あ、ほんとだ! こんにちはー!」


『おう、嬢ちゃん。いらっしゃい! 一人400円、持って帰っていいボールは二個までだ。……だがおまけで三人で1000円にしてやろう!』


「ありがとうございます! ほら、二人も」

『『ありがとー』』


『いいってことよ!』


「じゃあ、赤色を狙うよー! それ! やた!」

『私、青色ー』『私もー』『『やった!』』


 おめでとう。三人とも好きな色のスーパーボールをゲットできたようだ。なお、これは持って帰る事が出来る。


 余談だが、このスーパーボールは魔力を込めることでびっくりするくらい良く跳ねるようになる。マックスで魔力を込めた状態にすると、反発係数が2くらいになる。つまりその場から落とすと弾むごとに上昇してしまうのだ。

 そんな事も知らずに自室で思いっきり投げたハル。無意識の内に魔力を込めていたようで、それはもうすごい跳ねた。幸い物が壊れたりハルが怪我したりはしなかったが、この一件以降ハルは「おもちゃは予期しない動きをする事がある」と学習したようだ。めでたしめでたし?



『あ、あのトラさんかわいい!』


「? おー、あれは射的?」


 幼女ちゃんが見つけたのは射的の景品のぬいぐるみ。面白そうだからチャレンジすることになった。


『へいらっしゃい、一回2発で300円だよ! 当てる事が出来たら景品ゲットだ!』


 落とさなくてももらえるらしい。これだけ聞くと良心的だが……。


「わ! 的がすっごく遠い! お店自体の長さは普通なのに! なんで?!」


『はっはっは、空間拡張魔法を使っているからだな! 使う銃はこれだ。人に向けても安全なように設計されているが、それでも適当には扱うなよ?』


 というカラクリがある。的が普通の射的とは比べ物にならないくらいの距離にある。おおよそ50メートルくらいだろうか? そして、渡される銃もハンドガンである。スケールが色々とおかしい。


『まずは私! えい! えい!』


 二回とも外れた。


『どんまい。次は私。スーパースナイプをとくとご覧あれー。えい! えい!』


 一回目は外れ。二回目はお目当てとは違う景品に当たった。


『お、手鏡ゲットじゃん。おめでとう!』

 と店主は称賛を送るも、お目当てのぬいぐるみは手に入れられず、しょんぼりする幼女ちゃんたち。


「任せて、私がとって二人にプレゼントするよ! まずは一発目! それ! それ!」


 長く【魔法少女】として活躍しているだけあって、射撃能力には長けているハル。一発目は少しずれてしまったが、二発目で見事商品をゲットすることに成功する。


『すげー! おめでとう!』


 店主が目を見開いて驚き、ハルを称賛した。そしてぬいぐるみをハルに渡す。


「ありがとうございます! はい、二人とも、どうぞ!」


 そしてハルはぬいぐるみを幼女ちゃんに渡した。


『いいの? ありがと、おねーさん』

『あ、あの。じゃあ、これを代わりにどうぞ!』


 こうして幼女はトラのぬいぐるみを、ハルは手鏡を入手した。

 ちなみに、この手鏡。どこで使おうとも、背景が花畑になるという特殊効果付きである。




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