お祭り?
「あ、面白い形の木の実だ! ねえ、ヒメちゃん、これって……。あれ、みんながいない?!」
変な形の木の実を見つけたハルは、それをヒメに見せようとして気が付いた。自分が一人になっているという事に。
「ヒメちゃんー! ヒメちゃんー! どこー!!」
ハルは大きな声でヒメを呼ぶ。しかし、返事がない。ハルは不安に駆られ、泣き出しそうになる。
「ヒメちゃーん!!」(ガサガサ)「ヒメちゃん?!」
鳴くのを我慢して、代わりにひときわ大きな声でヒメを呼んだ直後、彼女の後ろで茂みが動く音がした。ヒメと思って振り返るも、そこにいたのはヒメではなく……。
『わ! 可愛い服のおねーさんだー!』
『ふりふりだ~』
そこにいたのは二人の女の子だった。二人が着ているのは巫女装束だろうか、白と赤のコントラストが映えている服を着ている。頭には葉っぱや花で出来た飾りをつけている。
「え?!」
まさかこんなところに子供がいるなんて思っていなかったから、ハルはびっくりしてしまう。と同時に「この二人を守らないと」という思いに駆られ、不安がすーっと消えた。
「えっと、二人はどうしてこんな所に? えっと、お母さんは?」
『誰かの声がしたから来てみたのー! そしたらおねーさんがいたんだ!』
『ママは向こうでお祭りの準備をしてるよ~』
「お祭り?」
『あれ、知らないのー? 今日ね、みんなでお祭りをするんだって!』
『急に決まったんだ~』
『もう屋台もいくつか出てるはずだよ! 一緒にみようよ!』
そう言って、二人の女の子はハルの手を取った。二人に引っ張られ、森の中を歩く事数分、そこには沢山の屋台が立ち並ぶ広場があった。
「わー! すごい!」
『おねーさんはお祭りってはじめて?』
「うん! ハル、こういうお祭りは初めて!」
中学の文化祭にはもちろん参加した事があるが、こういう縁日系のお祭りは初めてのハル。ワクワクを抑えきれないといった表情だ。
「あ、でも、ハルお金がない……」
『そうなの?』
『その袋の中は~?』
二人が指さしているのはハルの腰辺りについているマジックバッグ。この中にはハルの個人所有のアイテムが入っている。食べ物やキラキラした石、あとは兄に渡す用の電子部品などなど。
「魔物を倒した時に手に入る、ドロップアイテムっていうのが入ってるんだけど……」
『おおー!』
『じゃあ、それを売ったら~?』
「そんなことできるの?!」
確かにこの中に入っているものは価値ある品。だけど、それらは売る事が出来ないと聞いていたものだから、驚いてしまう。
というのも「このお肉を売ったら、漫画買えるかな?」とリンに聞いてみたところ、リンは「ハルは知らない人が持ってきたお肉を買う? 買わないよね? つまり、それは売れない。お母さんに渡したら、お小遣いをくれるかもだけど」と言ったのだ。それに納得したハルは「これは売れない」と思い込んでいた。
『うん、出来るよー』
『向こうで買い取ってくれるよ~』
二人はハルを「アイテム買います!」と書かれたログハウスに案内した。中に入ると、いわゆる「冒険者ギルド」みたいに窓口がずらっと並んでいた。
『あら、いらっしゃい。アイテムを売りに来たのかしら? それとも依頼?』
受付嬢は優しそうなおばあちゃんだった。漫画でしか見たことがないような、やけに小さい眼鏡をつけている。
「売りに来ました! お祭りで色々買いたいの!」
『あらあら、それはいいわね~。じゃあ、アイテムを出してみて?』
「はい、これです!」
『査定するわね。〈査定〉』
キラキラ! 魔方陣が光ると、それぞれの市場価値が表示される。
『合計で1万円よ』
「いち・まん・えん?! そんなになるの?!」
『ええ、今はお祭り前だから、食べ物は高く買い取っているのよ』
「あ! それ、授業で習った! 需要と供給ってやつだ!」
『難しい言葉を知っているのね~。はい、入金したわよ』
〔1万円を獲得しました〕
(あ、ゲームコインみたいに、現金じゃあないんだ……)
なお、ハルは知らないが、ダンジョン外にあるアイテム買取窓口でこれらのドロップアイテムを売ろうものなら、軽く百万円は超える。例えば「きれいな石」こと魔石は、この大きさだと10万円はする。食べ物に関しても、なかなか手に入らない貴重なドロップアイテムとして、お金持ちが高く買い取るそうだ。
ではこのおばあちゃんが嘘をついているのかと言うとそうではない。ここではこの値段で正しい。むしろ、本来の値段は8500円だったものを、おばあちゃんの厚意で1万円にしてくれていたりする。
『すごーい! 一万円なんて初めて見たー』
『大金持ちだね~』
「これで色々見て回れるね!」
こうして、ハルと二人の女の子はお祭りへと繰り出した。
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