天魔祭

 一時間ほど練習して、私の飛行能力は一気に成長した。最初は「ゲームと違って難しい……」って思ってたけど、今は「ゲームよりも直感的に操作できるから楽」って思えてる。


「飛ぶって凄く楽しいですね!」


『気に入ってくれたようで何よりだわ。これで明日の天魔祭もばっちりね』


「はい、頑張ります!」


 私がそう答えた瞬間、暴風?が私を襲った。体がぐらつき思わず目を瞑る。

 風のヒョーォォという音が消えるのを待って、再び私が目を開けると……。


『それでは、今年度の天魔祭を挙行します!』

『『わあああああ!』』


 場面が変わって、天魔祭が始まろうとしていた。

 まあ暇を持て余さなくて済むのはありがたいけど、これはちょっと強引過ぎないかなあ……。



 と、強引なシーンスキップに乾いた笑いを浮かべながら、私は周囲を観察する。私が立っているのは円形闘技場の中心付近。ただ、大天使さんが横にいるし、今すぐ試合という訳では無さそう。目の前には露出の多い服を着た悪魔っが。ただ見かけの年齢は……8歳くらい? 一見、ただの子供に見えるわね。


『ふははは! 今日こそお前を倒し、悪魔族の誇りを取り戻してやるわ!』


 一見悪者のセリフだけど、言っているのが八歳児コレだから、むしろ可愛らしささえ覚える。


『それは阻止しないとね~』


 一方、大天使さんは余裕の表情だ。


『むー! 余裕そうな顔をしていられるのもここまで! ティアラを盗まれたお前が勝てるはずがないわ!』


『あら? どうして私のティアラが盗まれたって知っているのかしら?「もしかしたら、失くしちゃったのかも~」って思ってたのに。やっぱりあなたが盗んだのね? それはダメなんじゃない?』


『ぎくう! ななな、何のことかな? 私がそんな卑怯な事をするはずないじゃない!』


 あ、子悪魔ちゃん的には、隠してるつもりだったんだ。隠せてないけどね。


『まあ問題ないわ。ティアラがない私の代わりに、代理人を用意したから!』


 ちらっと大天使さんが私に目配せしてくる。了解、じゃあ自己紹介しましょ!


「〈マイク召喚〉! こんにちは、天使と悪魔の皆さん~! アイドルのヒメです! 今日は頑張るからみんな応援よろしくね~」


『『わあああああ!』』


 主に天使さんが、そして一部の悪魔さんが声援を送ってくれた。


『ぬな! ティアラ持ちの天使?! なんで? なんで?!』


 目の前の子悪魔ちゃんはびっくりしている。


『さあ、なんででしょうねー』


『むー! まあ、サイキョーの私に怖いものなんてないわ! ヒメって言った? 覚悟してなさい!』


 ビシッと私を指さす子悪魔ちゃん。なんだか可愛いわね。


「うん、一緒に良いステージにしようね!」


『な、何たる余裕……』



 とそこで、司会のお姉さん達(天使と悪魔のコンビ)が『では両者とも、スタート位置に転送しますね』と言った。足元に魔方陣が現れ、私は上空に強制転移した。すぐに体勢を整えて小悪魔ちゃんを見据える。


『スリー』


『ツー』


『ワンー』


『ファイト!』


 試合が始まった。



 試合が始まると、観客席からハープの演奏がなり始めた。天使たちは普通のハープ、悪魔たちはグラスハープを使って一つの音楽を作り出す。

 この音楽のタイトルは『天魔そらの住人』、天使と悪魔が戦う様子をイメージしたテンポが速い楽曲よ。


 まずは様子見で〈マジカルバースト〉を放ってみる。小悪魔ちゃんはそれをひょいと避けて、私に向かって黒色の炎を放ってきた。

 これはマジカルバリアでは防ぎきれない攻撃なので、避けざるを得ない。斜め前方向に避けつつ、私は小悪魔ちゃんに接近する。


『近づいてきた?!〈ダークフレア〉〈ダークフレア〉!』


「よっと〈マジカルバースト〉!〈マジカルバースト〉!」


 まさか急接近してくるとは思っていなかったようで、一瞬動揺を見せた小悪魔ちゃん。しかし、すぐに私を狙って攻撃を仕掛けてきた。

 彼女の小さく可愛らしい手から放たれた暗黒の炎は的確に私を狙って飛んでくる。それを私は最小限の動きで避けながら、マジカルバーストを放つ。


『なかなかやるようね!』


「そっちこそ!」


 互いに魔法で攻撃しながら、相手の背後を取って有利になってやろうと動き回る。時にフェイントをいれ、時にフェイントに騙され。私たちのドッグファイトは激しさを増す。



『なかなか手ごわいわね! こうなったら、私の必殺技を使うわ! 〈暗黒の舞踏会(ダンスパーティー)〉!』


 小悪魔ちゃんがそう言った直後、あちこちに真っ黒な炎が生成される。そして、それらの炎から私目掛けて黒色の弾が発射された。ゲームでみたそれよりも、はるかに激しい攻撃が私を襲う。


「! すご!」


『どうだー! 参ったかー!』


「そんな訳ないでしょ! こっちだって本気を出すわよ〈私の歌を聞いて〉!」


 さあ、歌うわよ! 思いっきり、ここにある闇を全部消すつもりで!



♪ ♪ ♪



『おおーっと、我らが姫様が最強にして最恐のスキル「暗黒の舞踏会」を使ったみたいです!』


『闇があちこちに生成されて、ヒメさんを狙い始めましたね! これは万事休すか?! な、なんですかあれは!』


『ヒメさんの周りに音符が浮かび始めました! いったい何が起きている?』


『『?!』』


『こ、この歌声はヒメさんの!』

『素晴らしい歌声ですね……! 思わず聞き入ってしまいます!』


『そして、彼女の歌声が闇を壊し始めた~! 我らが姫様、ピンチです!』


『無数の音符が悪魔の姫様を取り囲んでいます』


『ここで決着か? 決着か? 決着だああ! 天使チームの勝利です!』


『『わああああああ』』



♪ ♪ ♪



 ふう。なんだか楽しく歌っているうちに、いつの間にか私が勝ってたみたい。


『おめでとうございます!!』


 司会者の天使さんと悪魔さんが私のもとにやってきた。


「ありがとうございます」


『そして、悪魔の姫様も、お疲れさまでした』


『負けてしまった……グスン、グスン』


『おやおや、泣いているんですか?』


『泣いてないし!』


『とのことです!』


 ウソ泣きではなく、本当に泣いていたみたいだ。可愛そうだけど、これは仕方がない事なの。


『それでは天使側が悪魔側に要求することは?』


「そうですね、まずは大天使さんのティアラを返してください。そして、大天使さんに謝ってくださいね」


『……ごめんなさい』


 小悪魔ちゃんは大天使さんの所へ行って、頭を下げた。大天使さんは「もうこんな事はしないように」と言った。


「それから小悪魔ちゃん、それと大天使さん」


『はい……』

『何かしら?』


「ハニーバターの森の事なんですけど、そこの木の実、少しだけでいいから悪魔ちゃんに分けてあげる事ってできませんか? 一日に一個とか」


『え?!』

『あら、どうして?』


 初めから気になっていたんです。こんな試合で国の領地を決めるなんて変じゃないかって。とはいえ、それは人間の感性。もしかしたら天使と悪魔では違うのかもって思って飲み込んでいました。

 ですが、この試合を通して確信したんです。あれは一部本当だけど一部嘘だって。だって、先ほどの演奏、天使側も悪魔側も息ぴったりでしたし。明らかに天使と悪魔の間に交流があるってことですよね。


 それに司会者同士の息もぴったりだったし。あと、観客席で「どっちが勝つと思う?」みたいに天使と悪魔が話しているところも見たし。


 そうなると、ハニーバターの森の木の実だって、天使側で独占しているとは考えにくいなって。仮に領地が天使側になったとしても、悪魔の姫様が食べられないことはないんじゃないかって。

 ここから導き出される結論は『悪魔の姫様はもともとその木の実ばかりを食べていた。それを心配した大天使さんや悪魔の皆様が天魔祭にかこつけて、それを禁止した』って感じかと。


『え、そうだったの?!』


 小悪魔ちゃん、びっくりしている。


『ええ、正解よ』


『な、なんだってー!! そんな、どうして! どうして!』


 小悪魔ちゃんが涙目になる。

 そんな彼女に私は近づいてこう言った。


「小悪魔ちゃん。甘いものばかり食べるのは良くないからだよ」


『なんで?』


「だって、甘いものばかり食べてても大きくなれないからだよ!」


『そんな訳……! そういえば去年一年で身長がすごく伸びた……。もしかして……』


「うん。だから、この場でみんなに言おう、『他の物もバランスよく食べます』って。そうしたらきっと大天使さんも木の実をくれるはずだよ」


『そっか……。み、みんな! 私、他の物もバランスよく食べます!』


『本当?』


『うん!』


『分かったわ、それなら一日一個までね。ただし、野菜を残したら駄目よ』


『う……うん! ピーマンも人参もシイタケも食べます!』


『よろしい』


『やったー!』


 小悪魔ちゃんはぴょんと飛び跳ねて喜んだ。


 一通り喜んだあと、小悪魔ちゃんは私の方を向いてこういった。


『ありがとね! お礼にこれあげる! 受け取ってくれるかな?』


「これは……? きれいな黒色のビー玉?」


『うん! 私の闇のパワーが詰まった宝石だよ』


『あらあら、ヒメちゃん。いいもの貰ったじゃない。じゃあ、私からもこれを』


 今度は大天使さんが私の手に向かって、正確には手の平に乗った黒い宝石に向かって何かの魔法を放った。


「わあ! 宝石の中に星空が見えます!」


『ええ。天使と悪魔の両方から愛されたものに贈られる、特別なギフトよ』

『大事にしてよね!』


「うん! ありがと! あ……!」


 手の平に乗った宝石が、キラキラと光り輝きながら私のティアラに向かって飛んで行った。


『あら、ティアラにくっついたみたいね』

『すごく似合ってるよ!』


「そ、そうですか? なんだか照れますね。ありがとうございます」


『っとそろそろ時間ね。お祭りの片づけをしなくちゃ。ヒメちゃん、本当にありがとうね。また機会があったら会いましょうね』

『またね、ヒメ!』


「え? あ……!」


 二人の姿が光で覆われてぼやけてしまう。

 光はどんどん強くなり、どんどん強くなり、そして……。



〔特殊階層『三人の姫』を攻略しました〕

〔再挑戦は不可能です〕


〔この特殊階層に攻略ランクはありません〕


〔報酬『天魔そらの宝珠』を入手しました〕




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る