大天使のパーフェクト飛行教室

「それで、飛行練習ってどんな風にすれば……」


『そうね……ここだと危ないから場所を変えるわね。私につかまってくれる?』


 私は大天使さんの腰にぎゅっと抱き着く。


『いくわよ!』


「!」


 すると大天使さんは私を抱えて急上昇した。ひゃああああ!

 下を見ると、地面がどんどんと離れていくのが分かる。天高くから見下ろす大自然はとってもきれいだけどちょっと怖いわね……。

 上昇する事5分ほど、大天使さんの動きが止まった。


『このくらいなら大丈夫かしら?』


「大丈夫というのは……?」


『あなたが間違って落下しても、地面に激突する前に救出できるって意味』


「こわ! ま、まあ。落ちなければ問題ないですよね」


『そうね。まずは〈光の羽〉を発動してみて?』


 天使族になった際に貰ったスキル、〈光の羽〉。読んで字のごとく、光の翼を生やして空を飛ぶ魔法ね。


「〈光の羽〉!」


 唱えると、確かに私の背中に光の羽が生えた。わあ、キレイ! キラキラ光っていて、なんとも神秘的ね。


『いいわね! じゃあ、あとは「飛びたい」って思ったら飛べるはずよ! それ』


 大天使さんはそう言って、私を宙に放り投げた!


「きゃああああ!」


 こうして私は紐無しバンジーをする羽目になった。



 正直すっごく怖いけど、怖がっている場合じゃない。「びくびく震えてたらそのまま地面とごっつんこしました」なんて事になったら、バーカバーカって馬鹿にされるわよね。


「すー。はー」


 私は目を瞑って、深呼吸する。その間も体が落下し続けているのが分かるけど、怖がってはいけない。


(大丈夫、私は出来る。私は出来る。だから、『落ちないで』!)


 落ちないで、そう願った瞬間、ふわっとした浮遊感を感じ取った。恐る恐る目を開ける。


「よし。飛んでる!」


 誰にも支えてもらっていないにも関わらず私は空中に静止していた。ふと背中に視線を向けると、光の羽がばさりばさりと動いているのが分かる。やった、私、飛んでる! ほんとに飛んでるよ!!


『すごいじゃない! 大成功ね!』


 いつの間にか隣にいた大天使さんに褒められた。ふふん~!


「ありがとうございます!」


『じゃあ、次は体を動かす練習ね。空中散歩よ、着いてきて』


 バサ! 翼をはためかせて大天使さんが私から離れていく。


「あ、待ってください~!」


 大天使さんに追いつくべく、私は『前に進んで』と願う。その思いに応えるように、私の背中に生えている光の翼が羽ばたいた。


「だ、大天使さん、ちょっと早いですよぅ」


『そうは言いつつ、着いてこれてるじゃない? いやあ、ヒメちゃんって飲み込みが早いわね! じゃあ、もっともっと加速するわよ!』


「スパルタだあ!」


 大天使さんは徐々にスピードを上げ、さらに複雑な動きをするようになった。前後左右への移動だけでなく、上昇/下降も織り交ぜた立体的な動きで私を翻弄する。待って~!



『だいぶ慣れてきたみたいね』


「はい、おかげさまで」


『じゃあ、次のフェーズに行ってもいいかしら?』


 30分ほど飛行練習をした後、大天使さんがそう聞いてきた。


「はい、お願いします」


『じゃあ……それ!』


 大天使さんが手を振ると、空中に光の球体が数十個浮かび上がった。これは……。


『次の練習は飛行しながらの攻撃よ!』


「なるほど。つまり、あの光の球体を攻撃すればいいわけですね?」


『ええ、そういう事。少しでも当たれば球体は消えるわ』


「了解です!」


 それじゃあ行きますか! まずは一番近くにあるあの的から!


「〈マジカルバースト〉! 次はあっち! 〈マジカルバースト〉!」


 空中を縦横無尽に飛び回り、私は的を撃ち落としていく。

 すっごく楽しい! ゲームと違って、生身の体で飛んでいるんだもん、すっごく楽しいよ!!


「終わりました!」


『すごいわね……! もしかして経験者?』


「まさか」


『そりゃあそうよね……。じゃあ、もっと難しいステージも作るわよ……それ!』


 大天使さんが手を振るうと再び球体が数十個ほど生成される。けど、さっきとは違って球体がガラス瓶のようなものに入っている。


「あれは……」


『全部の的が、ガラス瓶に入っているわ。瓶に攻撃が当たったら失格だから注意してね』


「なるほど? つまり、瓶の口目掛けて魔法を放って、中に入った的に命中させる必要があるという訳ですね?」


『そういう事よ』


 要するに、先ほどとは違って「こっち向きから攻撃してください」と指定されているの。


「じゃあ、行ってきます!」


『頑張ってね~』


 まずは一番近くにあった的。瓶の口は向かって右を向いていたので、右に回り込んで〈マジカルバースト〉を叩きこむ。


「まずは一個。次は……あー」


 次の瓶の口は真下を向いていた。私は急下降して的の下方へ向かい体をひねって瓶の中身を攻撃する。あ……不味いかも!


 パキン!

 ガラスが割れた……。


『あらま、まあそのまま続けてみましょ』


「はい……」


 結果、4/50のガラスを割ってしまった私。『まずは焦らずにやってみたら?』と言われた。

 悔しかったけど、それも一理ある。ひとまず、ゆっくり落ち着いてクリアを達成した後、徐々にスピードアップを目指すのだった。






◆ あとがき ◆



 ここまで読んでくださりありがとうございます。少し宣伝をさせて下さい。


 百合と言う物と改めて向き合いたいと思って、百合短編小説を書きました。


※本作とは無関係です

https://kakuyomu.jp/works/16817330659732626105


 4000字ほどの小説ですので、「ちょっと百合を摂取したいなあ」と言う時にでも読んで頂けると幸いです。


 それでは、お邪魔しました。


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