天使と悪魔

 大天使さん(名前は無いらしい)のお城は山の頂上にあった。正確には山じゃなくて巨大な一個の樹木らしいけど。森を一望できるテラスに案内される。


「綺麗ですねー!」


『ふふ、気に入ってくれてよかったわ』


 大天使さんはそう微笑みながら、手ずから紅茶を淹れてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


『いえいえ。天使特製のハーブよ』


 さて、お味は……。おお!


「すっごく美味しいです! 全然苦くなくって、それでいてフルーティーな香りがして!」


『気に入ってくれてよかったわ。お代わりもあるわよ。で、飲みながらでいいから聞いてほしいのだけど……』


「? ああ、ティアラの事ですよね!」


 ええ。私にもね、専用のティアラがあるの。「大天使のティアラ」っていう名前で、天使の姫の象徴なの。

 天使の姫には格別した力を与えられて、その力を以て一年に一回ある悪魔との大会「天魔祭」で悪魔の姫と戦わないといけないの。この勝ち負けで領土を奪い合うの。

 去年、私は大勝利を収めたから、ハニーバターの森を手に入れたの。だけど、悪魔の姫はそこの木の実が大好きだったみたいで、激怒しちゃって……。「今年、どんな手を使ってでも絶対取り返してやる」って思ったみたいで……。私のティアラを盗んだの!


「ええ?! それって……」


『そう。ティアラを失った私は力がなくなってしまったわ。そして試合は明日。どうにかティアラを取り返そうと思った結果、あなたのティアラを間違って奪っちゃったの。本当にごめんなさい』


 え? 「そんな大事なものを奪われるなよ」って? しー、それは声に出しちゃいけません!


「なるほど、そういう経緯だったんですね。謝罪を受け入れます。それよりも、大天使さんはどうするんですか……?」


『そうね……。返してもらうのが一番なんでしょうけど、返してくれないでしょうし……』


「ティアラの予備とかはないんですよね?」


『ええ』


「そうなんですね……。あの、じゃあコレ、お貸ししましょうか?」


 私は自分のティアラを差し出そうとするも、大天使さんはそれを手で制した。


『お気持ちはすごくうれしいのだけど、それは出来ないの。人間用のティアラは私には使えないから……』


「そうなんですね……」


 大天使さんと私は「うーん」と頭を抱える。けれど、何かいいアイデアが出るはずもな……。


『あ、そうだわ!』


 突然、大天使さんが手をパチンと鳴らしながらそう言った。


「え?! こんな万事休すみたいな状況なのに、何かいいアイデアが思いついたんですか?!」


『ええ! ねえ、ヒメちゃん。天使代表として、天魔祭に出場してくれないかしら?!』


「え、えええー!?」


 なんだってー、まさかそんな事になるなんてー(棒)



「と、とりあえず天魔祭ってどんな感じなのか教えて頂けません?」


『ええ、もちろん。って言ってもルールは単純よ? 魔法を飛ばし合って戦うの。戦闘不能になるか地面に着いてしまったら負けね』


「なるほど、確かに単純ですね。……? 地面に着いてしまったら負け?」


『ええ』


「いやいや、ちょっと待ってください。私、飛べませんよ?」


『あ……! 大丈夫よ、天使の秘薬を使えば一時的にあなたに翼を授けられるわ! すぐに持ってくるわね!』

『すでに用意しています。こちらです、ヒメ様』

『あら、用意がいいわね~!』


 いつの間にか隣にいたメイドさんが私に小瓶を渡してきた。

 中に入っているのは紺色の液体。けれどただ青い液体という訳ではなく、中にキラキラと光る粒が入っている。星空を思わせるような見た目ね。


「うわあ、キレイ~! これを飲めば、私も空を飛べるようになるんですか?」


『ええ! 最初は難しいかもだけど……。大丈夫、あなたなら問題ないと思うわ!』


「じゃ、じゃあ」 ゴクゴク……


『あ……』


「ふえ?」


『うんん、なんでもないわ。ダイジョーブ、ダイジョーブ』


「え、何その言い方?! すっごく怖いんですけど?! っ!」


 頭が痛い! 知ってたけど、これは想像以上!!


〔種族が一時的に【人間】から【天使族】に変化しました〕

〔種族変化に伴い、種族特性スキル〈光の羽〉を獲得しました〕


「はあ、はあ。あのーすっごく頭が痛くなったんですけど」


『初めての種族変化って頭痛がするらしいわ……。で、でも大丈夫! 体に悪影響はないから!』


「本当ですか?」


『ええ、本当よ』


「そうですか……。まあいいや、飲むって決意したのは私ですし。ただ、先に一言言っておいてほしかったです」


『え、えへへ?』


「可愛いので許しましょう。ただ、飛行練習には付き合ってくださいね?」


『もちろん!』


 こうして私は(一時的に)天使になった。



 冷静に考えると、ここまでの話をまとめると「ティアラをひったくられたと思ったら、犯人の家に連れていかれて、そこで怪しい薬を飲んだら、すっごい頭痛に襲われた」だよね。うん、理不尽! ゲームでも思ったけど、理不尽!


 まあ、そういうイベントなので諦めよう。それに、空を飛ぶなんて体験、そうそうできない。こんな貴重な体験、逃すわけにはいかないよね!






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