アイドルが成長する
ヒヨコの親子、蛙の子供
「今日までに倒した魔物の数は……だから……ってことで……。ん、このくらいかな?」
今までに倒してきた魔物の数や使った魔法の種類から、今のレベルを大まかに計算した結果、今の私たちのレベルは100近いと分かった。少なくとも90は超えているはずね。
そうなると、とある重要イベントが発生するはず。
◆
という訳で私たちがやってきたのは149層。ここはちょっと特殊なルールがあるから先に説明しておかないと。
「ここは動物園階層みたいに、攻撃しちゃダメな敵って言うか、野生動物もいる階層なの。魔物はどす黒いオーラを纏ってるから簡単に区別できるよ」
「はーい!」「分かった」「りょうかい♪」
しばらく歩くと、木々の間から黒いもやを
またしばらくするとヒヨコの親子がぞろぞろと道を歩いていた。ピーヨピヨピヨ♪と陽気に鳴きながら歩いていたのだけど、こちらを見て鳴くのを辞め、ピヨピヨと会釈してきた。
可愛い! 私達も「こんにちは」と挨拶する。あ、もちろんこの子達は野生生物よ。
ヒヨコ達はそのまま森の奥へと歩いて行った。
「可愛かったね~」
「うん! ハル、ヒヨコの親子って初めて見たかも!」
ユズちゃんとハルちゃんはヒヨコ達に手を振っている。リンちゃんは無言で手を振りながら、私の方を見てこう言った。
「……ヒメ。一応聞くけど、ヒヨコの親って鶏だよね? それとも、私だけ常識が異なる異世界に迷い込んでる?」
「大丈夫だよ、リンちゃん。この世界でもヒヨコの親は鶏だよ」
ついでに言うと、
「じゃあ、さっきのは何?」
「考えちゃダメなパターンかと」
「そっか。ところでさ、ヒメ。ダンジョンとは関係ない話なんだけど」
「なあに?」
「昨日、3匹の大きな蛙と3匹の小さな蛙のイラストが出てきて『子供は何匹でしょう』っていうクイズを見たんだ」
「ふむふむ」
「答えは『蛙の子供はオタマジャクシだから0匹です』だったんだけど、納得がいかない。オタマジャクシから蛙になったばかりの個体は大きさも小さく生殖能力も未発達。つまり、小さい蛙は人間の思春期に相当するわけで、子供だと思う。よって答えは3だと思う。ヒメは、みんなはどう思う?」
いつの間にかユズちゃんとハルちゃんもリンちゃんの話に耳を傾けていた。二人はリンちゃんの主張を聞いて「確かに……!」と納得している。それから少しの間を空けて「あ、ヒヨコの親って鶏じゃん!」とびっくりしていた。
うん、気が付くのが遅いよ!
えーっと、何の話だっけ。あ、そうそう。蛙の子供に関してだったね。
「私は0匹だと思う」
そう答えた私に、リンちゃんは意外そうな顔で「なんで?」と尋ねた。
「そもそも、子供と言う概念が出来たのはいつか知ってる?」
「? どういう事?」
「中世ヨーロッパでは、7才くらいから既に働いていたの。当時も『親子』という関係性の中での子供の概念はあったと思うけど、『大人や社会の庇護下』と言う意味での子供という概念はなかった」
「そっか。あ、じゃあ蛙に関しては……!」
リンちゃんは私が言わんとしていることに気が付いたみたいだ。
「うん。人間ですら『子供』の概念が生まれたのは17世紀以降とされている。ましてや蛙には子供の概念なんてあるはずがない。だから答えは0だと思うの。あ、逆に、『親子関係の中での子供』と言う意味で子供の人数を聞きたいのなら全員になるよね。だってすべての動物は誰かの子供なんだから」
仮に親が亡くなってしまったとしても、「誰かの子供であった」という事実は残っているからね。私のお父さんはもういないけど、「私に父親がいた」と言う事実は未来永劫消えない。
「そっか、その観点は見落としていた。さすがヒメ。ありがと、すごく納得した」
「それは良かった」
……ダンジョンにまで来て、なんでこんな話をしてるんだろ、私達。
◆
そんな風に最初はみんなでワイワイ話しながら歩いていたのだけど、いつの間にか誰も話さなくなった。そしてそのことに違和感を覚えず、私はいつも通り迷宮を歩いていた。そして……。
「あれ、いつの間にか一人になってる! わーお、流石ファンタジー!」
思わずそうつぶやいた。知ってはいたけど、それでもいざ目の前で起こるとびっくりしてしまう。この階層に全員がレベル90を超えている☆4キャラパーティーが足を踏み入れると、いつの間にか分断されてしまう仕様になっているの。
そこで各自が試練(?)に取り組み、無事乗り越える事が出来たら新たな力を手に入れるの。
「……ちゃんとヒントも渡しておいたし、大丈夫。いざとなったらやり直せるし。よし、じゃあ私は私のクエストをクリアしなくっちゃ!」
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