凛華(リン)の朝
すーすーすー。
アンティークな木のベッドの上で静かに寝ている中性的な顔立ちの女の子。彼女の名前は凛華、友人からはリンと呼ばれている。
ちゃんちゃらら~♪
5時になると、部屋の一角に置かれているオルゴールがなり始めた。流れているのは某有名なクラッシック音楽で、リンのお気に入りの音楽の一つだ。
「うーん? ……。よし」
リンはむくりと起き上がり、部屋に置いてあるコーヒーメーカーを使って一杯のコーヒーを淹れた。そして勉強机に座って一冊の本を手に取って読み始めた。これがリンの日課である。朝から30分、オルゴールの音を楽しみながら、コーヒー片手に読書をする。
ちなみに読んでいる本は有名なラノベの
まあ、それはあくまできっかけ。今では別の意味があり、それは……。
(こういう事をしている自分って、大人)
そう思えるからだ。自分自身を尊敬できる、それは健やかな生活を送るうえで重要な心の在り方と言えよう。もっとも、
……なお、そんなリンを見たヒメは「こういう所は子供っぽいよねー」と思っていたりする。大人っぽく振舞っている時点で、それは子供なのだ。
◆
リンとヒメの出会いは小学3年生である。クラスで一人浮いているリンに、ヒメが「一緒に話そ!」と言ったのがきっかけだ。
リンは当時、クラスメイトに対して「私はこんなお子ちゃま達とは違うんだ」と思っていた。だから、バカバカしいギャグを連発するクラスメイトを「うるさい」と一蹴したりと、クラスメイトとの間に壁を作っていた。
壁は徐々に高くなり、亀裂となり、溝となり、海峡となった。リンは他のクラスメイトから孤立してしまった。
それを先生が心配したものの、リンは
周囲からリンは怖い存在と思われてしまい、ますます彼女は孤立した。
心のどこかで寂しさを感じているにも関わらず、それを誰にも打ち明ける事が出来ない。また、自分自身も認める事が出来ない。そんな中、リンは三年生に進級した。
そしてヒメと同じクラスになったのだった。
ヒメはリンの心の内をいち早く察して、彼女に声をかけた。初め、リンはヒメに拒絶するような言葉を発したが、それでもヒメはしつこい程にリンに声をかけた。リンが本心から拒絶している訳じゃないと分かったからだ。
徐々に徐々に、二人の間に会話が増えていった。リンの方からヒメに話しかけるようになった。
そんなある日、リンはあることをヒメに聞いた。「どうして私と話すの?」と。ヒメには別の友人(ハルやユズ)もいたのに、それでもなおリンに積極的に話しかけてきたことが、どうしても理解できなかったからだ。
「んー難しいことを聞くね。……リンちゃんって可愛いから、かな?」
ヒメはそう答えた。
「? 私、よく可愛げがないって言われるけど」
「そうかな? 私は全然そんな風には思わないよ。だってリンちゃん、とっても子供らしいし」
「そんな事はない」
少しきつめの口調で返すリン。それに対して、ヒメは一切ひるまず、むしろ優しくリンの頭を撫でながらこう言った。
「そんなことあるよ。自分に正直になれない女の子。とっても子供っぽくって可愛いよ」
「……! そっか、私、子供っぽいんだ……」
「リンちゃん? え、ごめん、泣くほど嫌だった?!」
「違う、そうじゃない。……ありがと」
リンはヒメに抱き着いて、静かに涙をこぼした。
リンはこの時、今まで自分を縛り付けていた
さて、リンは読書家であり博識である。勉強する中で数多くの偉人の逸話を聞いてきただろう。それでもなお、リンに「一番尊敬する人物は?」と尋ねると、彼女は一切迷わず「ヒメ」と答える。
◆
朝6時になると、ヒメ達とダンジョン攻略するために東京中央ダンジョンへ向かう。ダンジョンの入り口に着くと、そこにはすでにヒメがいた。
「おはよ、リンちゃん」
「ん、おはよ」
自然と二人は肩と肩をくっつけて壁にもたれかかった。
リンにとってダンジョンはびっくり箱である。
何事も冷静に見てしまう彼女は、好奇心と言うものを失いつつあった。例えば理科の実験、小中学生ならワクワク楽しんでするものも、リンは「どうせ結果はこう」と思ってしまうのだ。
しかし、ダンジョンではそうはいかない。常に理解不能な事が起きて、彼女を驚かせてくれる。そんな場所なのだ。
程なくしてユズとハルもやってきて全員が集まった。いつもならここで、ヒメが今日の目的を発表する。しかし、今日はいつもと様子が違った。
「今日は新しい階層に行くんだけど……その前にみんなにはこれを渡しておくね」
ヒメが三人に手紙を渡した。リンは青色の封筒を受け取った。
封筒には「リンちゃんへ」と書かれている。
「あ、まだ開けたらだめだよ! この手紙は、三人がどうしても困ったときに開いて読んでみて。どうしても困った時だよ。それまでは開けちゃダメだからね!」
(ヒメがこんな事を言うって事は、絶対何かある。……おそらく近いうちに離れ離れになるイベントがあるのかな。個人の強さを測られる、的な)
そう考えた。
そしてその日。リンはみんなとはぐれてしまった。
「やっぱり。さて、それじゃあクリア目指して頑張ろう」
リンは冷静に、しかしどこかワクワクしながらそうつぶやいた。
◆ あとがき ◆
三話連続投稿、楽しんで頂けましたでしょうか?
今回のストーリーを通じて、ハルちゃん、ユズちゃん、リンちゃん、三人の魅力が少しでも伝わっていたらいいなと思います。
さて、これにて第二章『アイドルが駆ける』の幕を閉じ、次話からは第三章『アイドルが成長する』が始まります。
今話では四人が分断されてしまいました。ダンジョンではあるあるのギミックですね。リンは「個人の強さを測られる」と予想していますが、果たしてこの世界のダンジョンはどんな試練(?)が待ち受けているのでしょうか? 乞うご期待!
最後に作者からの感謝とお願いです。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂けたならブックマークや評価、レビューをして頂けるとすごく助かります。
よろしくお願い致します。m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます