2月になった
少し時間は過ぎて2月になった。2月と言えば、そうバレンタインの時期よ! 愛する人に思いを伝えるロマンチックなイベント。
そして私はハルちゃん、ユズちゃん、リンちゃんの三人にチョコをプレゼントしたいと思ってる。そして、せっかくの機会だから思いのこもった手作りチョコを渡したいと考えているの。
「という訳で、今日はカカオを取りに行くよ!」
「わーい! ハル、ヒメちゃんの作ったお菓子大好き!」
「おおー。って、カカオから作るの? それ、上手くいかない未来が見えるのだけど」
「も~! リンちゃん、そういうのはやってみないと分からないじゃない~!」
え、渡す相手に事前に渡すって知られてもいいのかって? いいのいいの。
「リンちゃんの心配もよく分かるよ、普通にやったらチョコとは言い難いサムシングができちゃうだろうからね。素人が片手間で出来るものじゃないわ」
「じゃあ、どうするの? 誰かに頼むとか?」
「そうだね、難しい部分、例えばローストや磨り潰しは専門家に頼むよ」
「ヒメの知り合い?」
リンちゃんにそう尋ねられ、私は返答に困った。うーん、知り合いと言えば知り合いだけど……。
「まあ、楽しみにしてて!」
「「「?」」」
◆
ミシ……
ミシ……
木々が不自然に揺れ動き、嫌な音を立てている。
「なんだか怖いね……」
ユズちゃんがリンちゃんに抱き着いている。そんな彼女を安心させようと、リンちゃんはユズちゃんの手を握って「大丈夫」と言った。尊い。
私たちがいるのは144層。ここはトレントっぽい魔物、つまり樹木型のモンスターが生息している階層の一つだ。そしてここに探している敵がいるはずで……。
「いた、あそこよ!」
「なにあれ?! おっきなアーモンドがぶら下がってる木があるよ!」
ハルちゃんはあれが「大きなアーモンド」に見えたようだけど、それはハズレ。正解は。
「私知ってる~! あれってカカオ豆だよね~♪」
ユズちゃんが正解にたどり着いた。まあ、チョコを作るって言ってたし、簡単だったかもね。
「そう、名前はそのまま『カカオトレント』よ。カカオ豆を弾丸みたいに飛ばしてくるわ。ちなみに、攻撃に使われるカカオ豆はしばらくすると消えちゃうから、拾って食べることは出来ないわ」
「なんだ、残念。おっと、〈マジカルバリア〉」
早速カカオ豆が私たちに向かって飛んできた。リンちゃんと私はマジカルバリアで他二人を守って、その間にユズちゃんとハルちゃんが〈マジカルバースト〉でカカオトレントにダメージを与える。
ちなみに、〈マジカルフィーバー〉とか〈私の歌を聞いて〉を使うと周囲の木々に火が燃え移る可能性があるから、今は〈マジカルバースト〉を使って攻撃しているわ。
ミシミシミシ!!!
怒ったカカオトレントがものすごい数のカカオ豆を飛ばしてくる。これはまずいわね。
「ユズちゃん、ハルちゃんもバリア!」
「「〈マジカルバリア〉」」
ギリギリ防御が間に合い、カカオ豆攻撃を完全に防ぎきることに成功した。今のはちょっと危なかったわね。
「これでとどめ。〈マジカルバースト〉」
リンちゃんがラストアタックを決め、カカオトレントはドロップアイテム「カカオ豆」を残して消えた。さーて、まだまだ集めないとね!
◆
それから五日ほどかけて、私たちはそこそこの量のカカオ豆を集めることに成功した。次の工程はローストね。
「という訳で、今日は今まで集めたカカオ豆をローストをするよ!」
「ローストって?」
「簡単に言うと、カカオ豆を高温で焼いて、香ばしいチョコの味を出すことだよ」
「なるほどー! じゃあなんでハルたちはダンジョン前にいるの?」
うん、もっともな質問だよね。
「それはね、ローストが難しいからだよ。カカオ豆のローストはやりすぎると焦げるし、足りないと良い風味が出ない、いわば職人技なの。そんなの私じゃあ出来ないから、専門家に頼むの。その専門家とは……ズバリ139層にいるローストサラマンダーよ!」
「「「はい?」」」
ローストサラマンダーは体が燃えているトカゲの魔物。見た目通り火の魔法を使うわ。そして、この魔物には隠された役目があって、それがカカオ豆のローストなの!
ローストサラマンダーが「がああ」と咆哮しているところを狙って、私はカカオ豆を投げ込んだ。
「それじゃあ、申し訳ないけどあの子を倒そうか」
「はーい」
「いくよ~、〈マジカルバースト〉♪」
こうすることで……なんと完璧な具合にローストされたカカオ豆がドロップするの! すごいでしょ?
「わあ! いい匂いー!」
「チョコっぽくなってきたね♪」
「……マジか」
リンちゃんの驚きあきれている顔が可愛かった。
◆
サラマンダーからドロップする物はカカオニブと呼ばれるもので、
ここからは砕いてカカオバターにして、砂糖と混ぜて……と色々な工程がいるのだけど、これも実は魔物が全部やってくれる。それが……。
「はい、このスライム君です」
「おおー! スライムってそんなこともできたんだー!」
「久しぶり」
「久しぶりだね~♪」
リンちゃんとユズちゃんがスライムをぺちぺち叩いている。スライムは必死で抵抗し、消化液で二人の手を溶かそうとしているが、全く効いていない。
ちなみにだけど、スライムの消化液のpHは10~11くらい。お肌がすべすべになる温泉くらいのpHよ。ただ、肌が弱い人とかかぶれやすい人はあんまり触らない方がいいかも。
「じゃあ、カカオニブをあげよっか。ほれほれー」
私はカカオニブを手に握った状態でスライムを触る。スライムは私の手もろとも食らいつく。
「三人もやってみて」
「はーい! どうぞ、スライムさん」
「分かった。ほれ、食え食え」
「食え食え~」
するとスライムが茶色くなった。いい具合の色合いになったところでスライムを倒すと、チョコレートがドロップする。
「すっごーい! チョコレートだよ!」
ハルちゃんが喜んでいる。さっそく食べようとしているが待ってほしい。
「食べちゃだめ! それ、砂糖が入ってないカカオ100%のチョコだから、物凄く苦いよ」
「えー!」
「家に帰ってから、砂糖と混ぜて甘さを調整しようね」
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