GCショップ

 GCショップで買えるものは、基本的にゲームの攻略とは無関係の物だった。ホーム画面をデコレーションしたり、キャラ同士のストーリーを見るためのアイテムだったり。ゲームだとただのおまけ要素だったけど、リアルだと違う。もしここで買ったソファーがリアルでもって帰れるとすれば、それはすごくないだろうか?

 可愛い家具をたくさん買って、今のぼろぼろ家具からリフォームしたい! お母さん曰く「買い替えるの面倒だし」だそうだが、言うまでもなくこれは買い替える余裕がないことを隠しているのだと思う。(←勘違い)


 GCショップへは、階層ごとのチェックポイントに転移する感覚で、『GCショップに行きたい!』って念じたら行くことができた。ゲームとは違って、ここでは本当にショッピングモールみたいに買い物ができるみたい。もしかしてラインアップもゲームとは違うかも?


「ここがGCショップ! 広いねー! けど、誰もいないからちょっと不気味……」

「朝早くだし、開店してないのかなあ~?」


 他の客どころか店員すら一人もいない。正直かなり不気味な空間だ。

 私もそこはかとない恐怖心を覚えていたが、リンちゃんは平然としており、周囲を観察している。


「地図とかパンフレットとか置いてないかな? あ、あった。パンフレット」


 リンちゃんがパンフレットを見つけて持ってきてくれた。私たちはそれを覗き込む。


「区画ごとに売っているものが違うみたい。この辺りは『インテリア雑貨』、向こうは『電化製品』。あっちには『家具』だって」


「二階は?」


「二階はフードコートがあるんだって。あと『観葉植物やペット』ってコーナーもあるみたい。それからぬいぐるみとか美術品とかを売っているお店もあるのかな」


「ペット! ハル、ペット欲しい!」

「私はぬいぐるみが気になるかなあ~♪」

「私は電化製品」


「私は家具かなあ。あー全員バラバラになっちゃったね」


「別行動する?」


「うーん、それはちょっと不安じゃない?」


「まあそうだよね。一緒のほうが安心だし」

「ここを一人で歩くのは怖いよ~」

「ハルも、一人で探検は嫌!」


 結局、全員一緒に行動することになった。誰の希望から叶えようかな?


「じゃあ……まずはハルちゃんの言ったペットコーナーから見に行こっか?」



 ペットショップに入ると、脳内にメッセージが響いた。


〔現在、ホームを有していないため、商品の購入は不可となっています〕

〔ホームは家具エリアにてご購入頂けます〕


「ふええ! びっくりした!」

「もうこれ、祝福の声じゃなくてアナウンスって呼んだ方がいいんじゃない?」

「ホームっていうのが必要みたいだね~。あ、でも店内には入れるんだ」


「ヒメ、ホームって何? 家を買う必要があるって事?」


 リンちゃんが私にそう尋ねるが、ごめん。私も分かんない。


「ごめん、分かんない……。まさかこんなことが起こるって知らなかったから……」


「そっか。とりあえずペットを見ていこうか。これは金魚かな……。はあ、またか……。ヒメ、これ見て」


 リンちゃんに手招きされて、私は水槽を覗き込む。そこにいたのは金魚だった。大きなひれをパタパタと動かす様がとっても愛らしい。あれ、ちょっと待って。


「気のせいかな? この金魚、空中を泳いでない?」

「私もそう見える」


 えっと、ラベルに張られた説明書きを読むと……


~~~~~

※魚空は一文字で「魚編に空」という謎の文字。

【金魚空(錦舞姫)】

金魚空の中でも大きなひれが特徴の品種です。ホームの中を優雅に踊りながら泳いでくれます!

1匹:1500GC

10匹:10000GC


~~~~~


「駄目だ、何にも分からない」

「魚空って何て読むんだろ。そもそも、こんな漢字、存在するの?」

※存在しない……はず



 リンちゃんと私が何とも言えない顔をしていると、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。ハルちゃんとリンちゃんだ。


「みてみてー! このワンちゃん可愛い!」


 二人が見ていたのは可愛らしいダルメシアン。見た目だけは普通のダルメシアンなのだけど……。


「このワンちゃん、すごいんだよ! バイオリンが上手なの!」

「凄いよね~! かわいい♪」


 なぜかバイオリンを演奏していた。本当に訳が分からない。


「あっちにはシマウマの子供がいてね、ピアノを弾いていたよ!」


 リンちゃんがダンジョンの謎仕様に頭を抱える気持ちがよく分かった。



 一通りペットショップを見終わった私たちは、今度は家具エリアに行くことにした。目的はもちろんホームとやらについて調べるためだ。


「あ、あそこかな? 『ホームの購入、拡張、内装の変更はこちら』って書いてるね」


「カウンター席になっているし、何か教えてくれる雰囲気? でも、店員さんはいないし……」


 不審に思いながらもそこに近づくと、店員を呼ぶベルが付いているのが目に入った。私は恐る恐るそれを押してみる。


『え、お客さん?! うわあ、すごい! 人間だ~!』


 小さな店員さんが出てきた。背中には羽が生えていて空を飛んでいる。


「「「「妖精?」」」」


『そうだよ~! 妖精だよ~! あ、お客さんだよね? いらっしゃいませ!』


「あ、えーっと」

「ホームって言うのについて詳しく知りたくて……」

「さっきペットショップに行ったら『ホームを持ってないから買えません』って言われたんです~!」


『なるほど~。じゃあ、まずはホームについて基本的な説明するね!』


 妖精さんは無邪気に笑いながら、パンフレットを差し出してきた。




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