ミカンさんの洋服作り、後編

◆ Side ミカン


 部長は今回の衣装製作を部活のメンバー全員で行う事を決定した。部活メンバーも、こんな貴重な素材を扱える機会にワクワクすると同時に緊張しているみたい。


「それで、ロリータファッションを希望してるんだよね? もう少し具体的な意見ってあるのかしら?」


「えーっと、すみません。聞いてないです。今からメールしてみます~」


~~~


ユズ「ヒメちゃん、ヒメちゃん! お姉ちゃんからメールが来たよ。『どんなお洋服が欲しい?』だって」


ヒメ「あれ、ロリータファッションって前に言ってんじゃあ? もう少し詳しくって事かな? そうだなあ、私は可愛ければなんでも。ハルちゃんとリンちゃんはアイデアある?」


ハル「ハル、最近パジャマが破けちゃったから、新しいのが欲しい!」


リン「夏は涼しく、冬は暖かい服」


ユズ「リンちゃん、そんな服、作れないよ~」


リン「言ってみただけ」


ヒメ「いや、作れるはずだよ? 魔方陣を工夫すれば大抵のことは実現できるはずだから」


リン「え? そうなの? それはすごいね」


ユズ「そっか、じゃあそう伝えるね~」


~~~


「あ、返信来ました~。……」


「なんて言ってるの?」


「『可愛いくて、パジャマで、夏でも冬でも快適な服』だそうです……」


 部室のみんなが「無理じゃん……」という顔を私に向ける。そりゃそうだよ、こんなの作れない! だって、ロリータファッションでパジャマで通気性も保温性もある服なんて、夢のまた夢じゃん~!

 だけど、部長は違った。真剣な顔で私たちにこう言ったの。


「いえ、そういう服は存在してるわ。【アイテム職人】による魔法付与を使えば、そういう服を作ることは可能よ。日本では主流じゃないけど、海外、特にセレブが多く住む国ではそういう服が売られていたりするわ」


「なるほどね。部長の知り合いにアイテム職人っていたりするの?」


「いないわ。当たり前だけど【アイテム職人】って基本的にダンジョン攻略の助けになるようなものを作ってるから。私の父の会社は一般向けのファッションブランドだから……」


 あーなるほど! 姫香ちゃんはこれを知ってて、こんな無茶ぶりをしたのかな? 私は「あのう」と手を上げ、自分が【アイテム職人】であることを告げた。


「え?」

「うっそ、マジで?!」


「はい、実はちょっと色々あって……」


「ねえ、もしよかったらどんな事をしてジョブを手に入れたか教えてくれないかしら? もちろん、報酬は積むわ! 望むなら何千万でも出すわよ、お願いできないかしら?!」


 部長がずいと私に近づいてきて、そんなことを言った。やっぱりそういう反応になるよね?! 姫香ちゃんがなんでもない事みたいに教えてくれたけど、やっぱりこれって極秘事項だよね?!


「その、私も人から教えてもらったので……」


「な、なるほど。そうなのね。分かったわ、もし可能ならその人の連絡先を教えて貰えないかしら?」


「えっと、聞いてみますね、ああ、変なところで送っちゃった?!」


~~~


ヒメ「あれ、ミカンさんからメッセージだ。えーっと『部長が【アイテム職人】になる方法を知りたいそうd』? あれ、途中で切れてる?」


ユズ「お姉ちゃん、時々間違って途中で送っちゃうから~」


ヒメ「なるほど。『服を作るのを手伝ってくれる人ですよね? もちろん教えても問題ないですよ。他に知りたい人がいたら、どんどん教えちゃってください~』っと。ああそれと『魔方陣については私よりもミカンさんのほうが詳しいと思うので、ミカンさんが直接教えた方がいいと思います』『あ、それと、お洋服よろしくお願いしますってお伝えください』っと!」


リン「ヒメ、打つの早いね?」


ヒメ「そうかな?」


~~~


「えーっと、広めても問題ないって言われました~。返信しないと……、ああ次のメッセージが。また、また!」


「見せてもらえる? ……なるほど。文面からして、私たちと直接やり取りするのは避けたいみたいね。それと、この洋服製作を行うメンバーには広めてもいいって事みたいね。……本当は正式な契約を行うべきだけど、それも避けようとしている感じね。美柑さん、そしてみなさん」


 部長は真面目な声色で私たちにこう言った。


「今回の依頼を成し遂げるにあたって、【アイテム職人】の就き方を伝授してもらえることになりました。ただし、ここで知りえたことは他言無用です。絶対に広めてはなりません。うっかり漏らしてしまいそうと思う人は、退出するように」


 誰も退出しなかったけど、代わりにみんな緊張の表情を浮かべている。


「それでは美柑さん。お願いできますか?」


「はい」



 一週間後には全員が【アイテム職人】に就いていたよ! それから研究に研究を重ねることで、私たちはいくつかの魔方陣の構築に成功したの♪


・温度調節:暑い時には熱を逃がし、寒い時には熱を貯める効果がある。

・硬度調節:布の硬さを調節できる魔方陣。これを組み込んだ布でスカートを縫えば、外出時はふわっと膨らませ、パジャマとして使う時は柔らかくなる、みたいなことができる。

・自動修復:多少の傷なら自動で修復する。

・自動洗浄:多少の汚れなら勝手に落ちる。

・キラキラエフェクト:動いたときに、キラキラ~というエフェクトが出る。


 主要なのはこんな感じ、すごいよね、私だけじゃあこんなの開発できなかった!



 こうして、私たちは合計5着の衣装を完成させた。4つは姫香ちゃんたちに渡す用、残り一つは発表用。なんと、私達はこの衣装を正式な場で発表することになったみたい。もちろん、姫香ちゃんには許可を取ったよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る