ミカンさんの洋服作り、前編
◆ Side ミカン
私の名前は
今日は妹とその友達たちが持ってきたすべすべな木綿に色を付けることになってるの。布に色を付けるって本当は難しいはずなんだけど、姫香ちゃんが「アイテム職人ならできます!」って言ってたから、多分何とかなると思うよ。
「それで姫香ちゃん~。まずは何からすればいいの~」
「まずはこちら、調合釜というアイテムです。普通は【魔法薬師】や【薬師】がポーションを作るのに使いますが、【アイテム職人】も使えるはずです」
「わあ、大きなポット~! うち、五人家族だから、このくらいの鍋、欲しかったんだ~♪」
姫香ちゃんはマジックバッグから大きな大きなポットを取り出した。このくらいのサイズの鍋ってなかなか手には入れないんだよね~。
「あ、料理には使わないでくださいね? 得体のしれないサムシングができるかもしれないので」
「?! そっか、やめておくね~」
得体の知れないサムシングって何~?! 怖いから試さないけど、漫画でしか見たことがないような紫色の毒々しい料理ができたりするのかな?
「えーこの中に素材を入れて下さい。一反の木綿……の切れ端と、染料を入れて……」
「じゃあ、イエローを入れるね?」
「で、後は何かしらの魔法を使えばいけるはずです! 何て名前の魔法かは私は知らないんですが、【アイテム職人】のジョブを持っている以上、『染色したい』って思えばおのずと魔法名が頭に浮かぶはずです」
「そ、そうなの~? ううん……。〈溶媒生成〉?」
なぜか分からないけど、私の頭にその言葉が浮かんだ。それを唱えると、調合釜の底からポコポコと液体が出てきた!
「液体が出てきましたね?」
「どこから湧いたんだろ~?」
姫香ちゃんも結月も興味深そうに調合釜の中を覗き込んでいる。そんな二人を「危ないから」と遠ざけてから、私は次の魔法を使用したよ。
「〈合成〉」
私がその魔法を唱えた瞬間、釜がピカ~!と光り輝いた! 何が起こるか分からなかったから、私もその場から離れ、三人で様子をうかがう。
10秒ほど経つと、光が収まって、釜の中には黄色の布が入っていた! 成功だね~!
「一応水なんかで洗ってみます? それで流れちゃったら意味がないですし」
「そうだね~」
確かに、これだけで成功って決めつけるのはよくないよね。私たちは洗面所で黄色くなった布をじゃぶじゃぶと洗ってみた。……落ちなさそう! 成功だね♪
「これで色んな色の布が作れるね~! で、どんなお洋服を作ってほしいの?」
「あー実は何にも考えていなくって……。ユズちゃん、何かアイデアある?」
「え、え~っと……。あ、じゃあ、お姫様みたいなフリフリの服をみんなで着てみたい~♪ なんて言うんだっけ、そういうファッションって?」
「ロリータファッション?」
「そうそう、それだと思う~」
「なるほど、ロリータファッションね~。う~ん、あれだけ複雑なものだと、私だけじゃあ作れないなあ~。友達と一緒に作っても大丈夫~?」
「もちろん問題ないですが、ただでやってもらう訳にはいかないですし……」
「じゃあじゃあ、前の糸を提供したらどうかな~? あれって絹糸だし、そこそこの値段になるんじゃない~?」
「えーどうだろ? それだけじゃあ足りない気もするし、余分に布を提供して余った分は好きに使って頂く、とかどうでしょう?」
「え? 糸だけで十分だと思うけど~」
(だってあの糸、相当高額だよね?)
「そうなんですかね? でも、私達、刺繍とか縫物とかあまりしないんで、持っていても豚に真珠、猫に小判、犬に論語なんですよね……」
(シルクは【魔法少女】とか【魔女】みたいな☆3レベルのジョブでも取りに行けるから、そんなに貴重じゃないしね)
「そ、それでも……。うんん、なんでもない。じゃあ、それで」
あの糸を売ればそこそこの値段になるんじゃあ、と言おうと思ったけど、それは言わなかった。この子たちはアイドルを目指してるって言っていたし、おそらくこの糸や布は衣装製作のために誰かから譲ってもらった物。まさか貰い物を売り払う訳にはいかないよね~。
そこまで考えて「あれ、なんで現金じゃなくて現物で報酬をもらってるんだろう?」という疑問も抱いた。けど、よく考えたらこの子たちはまだ中学生。芸能界やダンジョン関係者じゃない限り、収入を得ることは出来ないはず。だから、報酬を渡せない代わりに現物報酬を渡している、って事なのかなあ?
まあ、ユズも楽しそうにしてるし、あまり気にしないでおこうと思った。
ただなんだろう。何か重大な勘違いが起こっている気がする。まあ、気のせいかな?
「じゃあ、また布と染料、それと糸を集めてきますね~」
……集める?
◆
部室にて、私は部長にこの話を持ち掛けた。部長の親は大手ファッションブランドの社長であり、部長自身もファッションに造詣が深いの。
「……という訳でして~。お願いできませんか?」
「そうね。本当ならきちんとお金を貰うべき案件だけど、私もまだ高校生。部活の一環ってことで、タダでやってあげるわ。……? ってちょっと待って、この糸って迷宮の深層でしかドロップしないシルクじゃない?」
「はい、多分そうだと思います~」
「な、なるほど。こんなものを提供されたら、逆に私がお金を支払うべきだと思うのだけど……?」
「妹たちは『自分じゃ使わないので~』って……。貰い物らしく、売り払う訳にもいかないそうで~」
「なるほど、それで使いこなせる人に渡そうって訳なのね。で、布はどんな物なの? ……! ちょっと待って、この肌触り、まさか一反木綿のドロップアイテムじゃあ……」
「えーっと、そういえば一反木綿みたいなことを言っていた気もします~」
「……これ、極深層(90層より上)でしか落ちないドロップよ? しかも、その中でも特に倒すのが難しい部類に入るはず……」
「そ、そうなんですか~?」
「ええ。父に鑑定してもらえば分かるのだけど……」
この後、これはかなりの値段であることが判明した。「もっと供給できない?! 言い値で買うわよ!」と部長から聞かれたけど、姫香ちゃんは「あー、安定供給は難しいですね」と言われた。そりゃあそうよね。
◆
ヒメ「あ、ミカンさんからメッセが来た。『もっと一反木綿が欲しいのだけど、安定供給は無理かな?』『言い値で買うって言ってるのだけど』だって」
リン「言い値で買う。一度言ってみたいね」
ヒメ「だね! とは言っても、こんな雑魚敵のドロップアイテム、どれだけ上手く交渉したとしても、どうせそんなに高くはならないだろうし……」
リン「私たちが目指すのはもっと上。『夜桜の香り』を人口に膾炙させ、富と名声を
ハル&ユズ「「おー(なんかカッコいい! 意味はよく分からなかったけど)」」
ヒメ「そうだね。じゃあ、ミカンさんには申し訳ないけど断ろっか。『すみません、安定供給は難しいです』っと」
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