狂気の花畑
ミカンさんに一反木綿のドロップアイテム『一反の木綿』を渡すと、「すっご~い! 肌触りがいい~!」と喜んでいた。が、「これで服を作ってほしい」というと、「え、この真っ白な布で? じゃあ、下着を作る?」と聞かれた。
そうだよね、真っ白な布だけ渡されても困るよね。せめてもう何色かは必要だよね。ただ、迷宮では色付きの布はドロップしないのよね。代わりに、「布に色を付ける染料」ならドロップする場所がある。
「はい、そういう訳で今日向かうのは!126、127、128層にある花畑エリア、通称『
「どういう訳だよ」
「花畑って言うと、『養蜂のフラワーガーデン』もお花畑だったよね?」
「うん、説明するね。まずユズちゃんが言ってくれたように、23層にもお花畑があったよね。けど、あそこのお花は採取できなかったでしょ?」
「魔物じゃないから、切っても何もドロップしない、だっけ?」
「そうそう。だけど今日から向かう『狂気の花畑』はそうじゃなくて、花が魔物なの。だから、倒せばドロップアイテムを得ることができる」
「花の魔物……。どんなだろ~? きれいなのかな♪」
「いやいや、ユズちゃん。きっと人食い花とかだよ!」
「私は食虫植物みたいなのだと思う」
三人がそれぞれ、どんな魔物とエンカウントするか予想している。ユズちゃんは可愛らしい想像を、ハルちゃんはおどろおどろしい想像を、リンちゃんは真面目に予想しているね。
「三人とも正解だよ。きれいな魔物で言うと『愛は青より出でて青より愛し』って魔物は青色のきれいな花で、ハートマークを飛ばしてくるよ。当たると混乱の異常状態になったり、
「ん? 待ってヒメ。今、変なことを言わなかった? 青は藍より出でて藍より青し、じゃないの?」
「ことわざではそれが正解だね。でも、登場する魔物の名前は『愛は青より出でて青より愛し』なの」
「紛らわしい名前にしないでよ……」
「私に言われても」
なお、青は藍より出でて藍より青しは「青色の布は藍という染料で作られるが、藍そのものよりも美しい青である」という事から、「弟子が師匠を超える様子」を表しているわ。
「ハルちゃんが言ったように、人食い花も現れるよ。ツタを伸ばしてしばりつけて、そのまま大きな口で丸呑みしようとする『パクパクフラワー』とかね」
「こわー! 縛られたら、どうやって脱出するの?」
「火魔法を何度か当てたら、倒すことができるよ。特に口の中が弱点だから、わざと食べられそうになって倒す、なんて戦法もあるけど、これは玄人向けね」
「ほへー! それ、スリリングだけど面白そう!」
「面白い、かなあ? で、リンちゃんが言ったような、食虫植物っぽいのもいるよ」
「どんなやつ? ウツボカズラ? ハエトリグサ? モウセンゴケ?」
「モウセンゴケに近いかな。べたべたで私たちを捕まえようとしてくるわ」
「それは恐ろしい」
◆
121層~125層で植物型の魔物に対する対処法を練習した後、私たちは本命の「狂気の花畑」へ足を踏み入れた。
「なんだか、おどろおどろしい空間。ヒメが撮影には適さないって言ったのが分かったよ」
ここに来る前、リンちゃんに「撮影しないの?」と聞かれたから「ここは撮影には向かないかな」と伝えたの。そしてその理由が目の前にある。
ここは確かに花畑だけど、断じて綺麗とは言えない空間なの。咲いている花は色鮮やかなのだけど、その異常な色合いはもはや毒々しささえ覚える。
「あ、あそこ! 赤色の大きな花が咲いてる! あれってもしかしてパクパクフラワー?」
「うん、その通りよ。ハルちゃんが指をさしてる場所に生えているのが人食い花『パクパクフラワー』だよ!」
リンちゃんはそれを見て「おお、ほんとに人食い花だ」という感想を言い、ユズちゃんは若干怯えながらそれをみて「よかった~想像よりもグロテスクじゃない~」と言った。
「リンちゃんはどんなのを想像してたの?」
「こう、歯がいっぱいあってそこから血がぽたぽた落ちてるような?」
「あーなるほど。少なくともこの階層にはそういうホラーな魔物はいないよ」
「よかった~。あれ、『この階層には』って事はほかの階層にはいるの……?」
「えーっと。お化け屋敷階層って言うのがあるわね。そこには魔物が出現しない代わりに、お化けが驚かしてくるの。結構怖いよ」
「うう……。行きたくないけど、ちょっと気になる~!」
ちなみにパクパクフワラーのドロップアイテムは「染料(スカーレット)」よ。
「ヒメちゃん、向こうで何かがキラキラ光ってるよ~!」
ユズちゃんが指さす方を見てみると、確かに何かがキラキラと光を反射していた。この階層でああいう見た目なのは……。
「あれは……ラメランかな? 胡蝶蘭っぽい見た目の魔物で、体がキラキラ光ってるの。ドロップアイテムは『胡蝶蘭の鱗粉』っていうラメだね」
胡蝶蘭の鱗粉は食べ物に使うもよし、アイテム製作に使うも良しの便利アイテムね。
「倒せる?」
「うん。私たちの実力なら安全に倒せるはずだよ」
「あ! ほらみんな、あそこ。青色の花が咲いているのが見える?」
「おおー! 大きい!」
「アレが噂の?」
「うん、『愛は青より出でて青より愛し』だね。もうちょっと近づけば青色のハートマークを飛ばしてくると思うから、水魔法で防御してね」
「水魔法で?」
「そう。恋心を水に流す、的な意味なのかなあ?」
こんな感じで私たちは染料を集めて回ったのだった。
◆ あとがき ◆
第二章開始記念の二日目、4話更新は楽しんで頂けたでしょうか? もし少しでも楽しんで頂けたなら、ブックマークや評価、レビューをして頂けると嬉しいです!
明日からは通常通り一話ずつに戻ります。ご了承ください(汗)
今後ともヒメたちを応援して頂ければ幸いです。
よろしくお願い致します。
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