動物園
ワンワン!
も~
パオーン!
ピヨピヨ
ソトトトト!
にゃー
コケコッコー
「という訳で、101~110層は動物園だよ!」
「ちょっと待って。一匹、よく分からない生き物の声があったような」
「あーうん。多分、変わった鳥の鳴き声か何か……だと思う」
ゲームでも外野の動物の鳴き声までは作られてなかったからね。この世界には私の知らないこともあるみたいね。
「ねえ、ヒメちゃん。この柵の向こうにいる動物、みんな敵なの?」
「え~! 可愛いのもいるのに~!」
人懐っこそうなコーギー(犬種)を見ている二人が、「このどう見ても無害そうなワンちゃんが敵になるはずがない」という目線を私に向けてくる。
「心配しないで、向こう側にいる動物は襲ってこないから。ただ、柵を乗り越えて向こうに行ったら『なに俺たちの領域に足踏み込んでるねん!』ってな具合に襲い掛かってくるから、乗り越えないようにね」
「はーい!」
「それじゃあ、敵はどの子なの?」
「それはね……あ、ちょうど向こうにいるね」
グルルルル……
「な、何か邪悪な気配がするワンちゃん!」
「狼っぽい?」
「あの狼さん、柵のこっち側にいるよね?」
「そう、邪悪な動物は柵を乗り越えてこっち側に来るの。私たちの役目はあれを倒すことよ」
「あ、よく見ると邪悪な狼ににらまれた動物さんが怯えてる!」
「うん。私たちがあれを倒したら、みんな安心してくれると思うよ。じゃあ、いくよ、〈マジカルバースト〉」
実は【アイドル】に昇進したことによって私たちの能力値はかなり上昇している。だから雑魚敵が相手なら〈マジカルフィーバ〉や〈私の歌を聞いて〉を使うまでもなく倒すことができる。
狼(正式名称マッドウルフ)を倒すと、周りにいた動物たちが嬉しそうに鳴き始める。
くるっぽー! くるっぽー!
わんわん!
キョロコッポ!
ちゅーちゅー!
「わあ、みんな嬉しそう!」
「なんだかやりがいがあるね~♪ にぎやかで楽しい階層だね~!」
◆
その後、私たちはマッドウルフ×9、マーダーベア(凶暴なクマ)×5、ブラッディーホース(肉食の馬)×4、蛇猫(毒牙を持った猫)×3、噛みつきカピバラ(凶暴なカピバラ)×3、その他×5を倒しつつ、110層まで到着した。
110層のボスはビッグカピバラという5メートルサイズのカピバラだ。眠たそうな目つきがなんとも可愛らしいのだが、いかんせん大きさが大きさだから直で見ると恐ろしい。使ってくる魔法は水魔法だから土属性での攻撃が通りやすい。
「全員黄色? 見づらいと思うのだけど」
「んーそうなんだよね……」
ゲームではそういうのは気にしてなかったのだけど……。
ピココ?
「ロボちゃん、どう思う?」
ピコ
ピココ
ピコピコ
「みんな黄色でも、いい感じに
ピココ!
ピコピコ!
ピコココ!
「ということだから、全員黄色でもいいと思うよ」
「そう。ならいっか」
私がロボたちと会話(?)していることにツッコミを入れなかったし、リンちゃんも徐々にスルースキルを身に着けてきたのかもね。
この後、ビッグカピバラ戦の映像を見せてもらったけど、すっごくよく撮れていた。なんというかすごいの。「奇跡の一枚」って言葉があるじゃん? 物凄く綺麗に映っている写真の事だけどさ。この映像はね、一瞬一瞬が全部「奇跡の一枚」なの。
あとカメラワークすごい。私はそこまでカメラや映像技術に詳しいわけじゃないけど場面の切り替わりとかが本当にきれいなの。
アニメを見ているような感じって言えばいいのかな? 普通、実写だとアニメみたいな柔軟なカメラワークは不可能じゃん? それをこのロボたちは可能にするの。
◆
私は『夜桜の香り』のチャンネルとSNSに今日撮った動画をアップロードする。ちらとMVのほうを見ると、視聴回数は……5だった。
「最初はこんなものよね……」
私たちはついこの間【アイドル】になったばかりで、まだまだ強いとは言い難い。そんな私達の動画に面白いものがあるか? 残念ながら否だ。
自分の動画を改めて見返す。ロボたちが編集したそれは、一見非の打ち所がない動画だった。しかし、しかし足りない。歌って踊る【アイドル】らしい華やかさが、魔法をぶっ放す【アイドル】らしい躍動感が足りない。
一朝一夕で最強になれるほど、【アイドル】はチートな存在ではない。レベル上限である120はまだまだ先だ。そしてそこに到達しても、まだまだ先がある。
もっともっと多くの人にこのチャンネルを知ってもらって、有名になって、いっぱい稼いで親孝行しないと。けど、どうせ今は収益化できないのだから、焦らなくってもいい。ちょっとずつ、コツコツと努力を重ねて最強になればいい。
頑張ろう。私は虚空に向かってつぶやいた。
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