気づき
お正月は実家に帰ったり親戚と集まったりするようで、ダンジョン探索はお休み。私はというと今後の予定について真剣に考えていた。
今更だが、三人はゲームのキャラクターではなく自我を持った人間だ。しかもまだ中学生、延々とレベル上げをするのは退屈になるだろうと思うの。少し「楽しむ」ことを重視したダンジョン攻略を考えたほうがいいかもしれない。
例えばミニゲーム。ダンジョンには色々なミニゲームギミックがあるのだけど、これがなかなか面白い。ただ、今のところ一種類しか遊べないのよね……。もう少し開放してから三人に紹介するべきか、それとも今教えちゃうか……。
それか、前に海鮮を集めたときは楽しそうだったから、あんな感じで「〇〇集めツアー」みたいなのを定期的に開催するのもいいかしら? でも、こっちもそんなにネタがないんだよね……。レベルをもっと上げれば「宝石ザクザクツアー」とか「おしゃれな小物ツアー」とかできるんだけど……。
あーでも「可愛いお洋服ツアー」ならあそことあそこと、それからあそこでできるかも? 布や糸を集めて、それから【アイテム職人】のミカンさんに服に仕上げてもらえば……。
とここまで考えたところで、私はふと思った。ミカンさんのレベルってどうなってるのだろう、と。
前提として、ミカンさんの、というか【アイテム職人】のレベル上限は60だ。ただしこのレベルは戦闘ではなく生産活動をすることで上げることができる。
さて、ゲームでは職人さんは主人公のレベルに応じて勝手に上昇していた。主人公のレベルアップと同時に「アイテムショップで提供できるアイテムが増えましたよ!」というポップアップが現れるんだよね。
私はそれを当たり前のように受け入れていたが、ちょっと待ってほしい。ゲーム内のアイテム職人さんは本当に「勝手に」レベルが上がったのだろうか?
おそらくそうではない。ゲーム内ではいちいち描かれていなかっただけで、「プレイヤーのレベルが上がる→より深い層のアイテムを職人さんに渡すようになる→職人さんのレベルが上がる」という裏設定があったのだと思う。
「つまり、ミカンさんにアイテムを供給しないと、ミカンさんのレベルは上がらない……?!」
どうして私はこんな当たり前のことに今まで気が付かなかったのだろうか。いや、今気づけて良かったと思っておこう。
「方針決定。ミカンさんにレベルを上げてもらおう。で、その過程で出来る小物やお洋服をみんなで着て楽しむ。うん、そうしよう」
◆
お正月が明け、みんなでダンジョンへ潜る日となった。私は三人にミカンさんに素材を提供したいという旨と、それで可愛い服を作ってもらおうという話をした。
「うん! ハル、ちょうど新しい服が欲しかった!」
「いいね、私も賛成」
「お姉ちゃんのために? ありがとね~!」
「今日は91~100階層でお化け退治をするよ。狙うは一反木綿、だけど他のついでに倒そうと思うわ」
「百鬼ヤコーが居るところだね!」
「魑魅魍魎が跳梁跋扈する恐ろしい階層、をただの資源とみているヒメは素直にすごいと思う」
「ち、ちみもうりょう? ちょうりょう? リンちゃんって勤勉だよね~!」
「それほどでも」
リンちゃんのこれは勤勉というよりはただの中二病……。まあきっかけは「カッコいいから」という理由でも、知識をインプットする事は良い事だと思うよ。かくいう私も魑魅魍魎って言葉、かっこいいと思うし。
百鬼夜行の通るルートを逆向きに歩いていると、早速妖怪の行列を見つけることができた。
人間
憎い
人間
殺す
ウラメシヤ
ウラメシヤ
表、コンビニ
表、コンビニ
「妖怪の住む場所の裏にはレストランがあるみたいだねー!」
「表にはコンビニがあるんだ~。便利そう!」
「いやいやユズちゃん、コンビニが近いってことは治安も悪いじゃん」
「確かに! 不良さんが群れてるかもだよね……」
「いや、『ウラメシヤ』って『恨めしや』だから! 『裏、飯屋』じゃない!」
「リンちゃんナイスツッコミ! っと向こうも私たちに気が付いたみたいだね。戦闘開始だよ! これだけいるし、〈私の歌を聞いて!〉を使おうかな? 〈ロボマネージャー召喚〉〈マイク召喚〉」
百鬼夜行が私たちに近づいてくる。私も百鬼夜行に向けて一歩近づく。
ウラメシヤーー!
ウラメシヤーー!
百鬼夜行が私たちに向けて火の玉や冷気、泥の塊を投げてくる。私たちは〈私の歌を聞いて!〉を発動して、大量の音符を百鬼夜行に向けて放った。
ギャアアー! ナンテ良い歌声ナンダー
浄化されるーー!
いい歌だったぜ、ベイベー!
状況は私たちのほうが遥かに優勢。100層までは☆3キャラ(魔女や魔法少女)でも突破できる難易度だからね、☆4である【アイドル】のスキルを使えば無双できてしまう。
「いや、なんで妖怪がベイベーって言うの……」
「褒めてくれてありがとな、ベイベー!!」
リンちゃんは苦虫をかみつぶしたような顔を、ハルちゃんは元気いっぱいな笑顔を浮かべていた。
◆
「なんだか、妖怪さんたちも楽しんでくれたみたいだね♪」
「そうだね。なんにせよ、これで『一反の木綿』ゲット!」
「他のドロップアイテムはどうするの~?」
「必要そうなものだけ持って帰って、要らないものは道の端に寄せておくよ」
「この刀、なんだかカッコいい!」
「提灯、なんかよく分からない古本、桶、鎌……。どれも心惹かれない」
「きれいな石~!」
私たちは地面に落ちているいろいろなアイテムの中から面白そうなものを探す。まずハルちゃんが刀を見つけた。
「ハルちゃんが持ってるその刀は『春雨』って言って、攻撃に水属性が乗る剣だね。そこそこレアなドロップだよ! でも武器は迷宮の出入り口にある武器庫的なところに預けないといけない覚えが……」
ちなみに他にも『夏火』『秋風』『冬夜』という刀もあったはず。私たちは使わないから売る専用アイテムだね。でもなあ、ここって浅層だし、あまり高く売れないんだよね……。どうしよう。
「そっかー、それなら要らないや。まあ、持って帰ってもどうせすぐ飽きるし! というか危ないし!」
「一応、持って帰れば売ることができるかもだけど」
「そうなの?! でも、武器を売るってなんだか怖いような……」
「私も同感かな~。宝石ならともかく、武器はちょっと……」
「『死の商人』みたいに思われたくない」
という事で売るのは却下となった。
さて、リンちゃんは引き続き小物類を物色しているようだ。
「小物類は時々いいものが見つかったりするよ。あ、そこの傘とか」
「おお! 確かに、古風でかっこいいかも。これは使える」
「うんうん。で、ユズちゃんの持ってるその石は『霊石』って言ってポーションの材料になったり、砕いて磨いてビーズにすれば小物を作ったりできるはずだよ」
「へ~! じゃあ持って帰る?」
「そうね。ミカンさんに渡そうか」
「うん! お姉ちゃん、ビーズ細工も好きだったはずだから!」
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