桜吹雪の蝶々廻廊

 91~100階層は妖怪をテーマにした階層だ。全体的に薄暗いフィールドで魔物を見つけるのが難しいという特徴がある。

 ただし「百鬼夜行」と呼ばれる妖怪の群れを見つけることができれば、一気に経験値を稼ぐことができるから、百鬼夜行が進む順路を覚えていることが重要ね。


 けど、今日は経験値稼ぎに来たんじゃない、写真撮影だ。だから百鬼夜行と鉢合わせないルートを通って、95階層に向かった。そしてそこにある巨大樹のうろから96階層に下ることで入ることができる隠しエリア「あやかしの里」。そこで桜印の入った魔物を倒すことでドロップする「桜石」を祠に供えることで「桜吹雪の蝶々廻廊」という場所に入ることができる。


「きれいだねー」


 廻廊というだけあって一本の道の上だけが通行可能なエリアなのだが、その両側には満開の桜が生えている。


「来年のお花見はここでしたいね!」

「すごい」

「きれい~! ダンジョンの中じゃなかったら写真、撮れたのに……」


「ロボマネージャーで写真を撮れるよ?」


「そうだった~!」


「っとちょっと待って。ここのエリアについて説明するね。ここには『魅惑の蝶々』っていう魔物が飛んでいるわ。それが発する鱗粉を浴びると魅了の異常状態になって、攻撃が一切できなくなるの。だから」


「蝶を見かけたら先制攻撃?」


「そういう事。ついでにここで〈私の歌を聞いて!〉の試し撃ちもしてみよっか」


「なんの歌を歌うの? 前に歌った『君もアイドルよ!』を歌うの?」


「そのつもり。ロボマネージャーに収録されている曲は、ダンジョンで出会った曲だけだから。さっそくだけどロボマネージャーさん、『君もアイドルよ!』をかけてくれる? で、いい感じの写真を撮ってくれるかな?」


 ピコ

    ピコ

 ピコ

    ピコ


 四体のロボマネージャーがこくりと頷いた(ようにみえた)。


「みんな、マイクを召喚して! 〈マイク召喚〉」

「「「〈マイク召喚〉!」」」


「それじゃあ、せーので〈私の歌を聞いて!〉を発動するよ! せーの!」


「「「「〈私の歌を聞いて!〉」」」」


 私たちが魔法を使うと同時にロボマネージャーさんから曲が流れ始める。

 すると私たちの周囲に音符が舞い踊り始めた。リズムに合わせてぴょこぴょこと跳ねる音符たちは、まるで私達と一緒に曲を楽しんでいる観客のようにも見える。

 そして歌が始まると、音符の数は増え、現れた魔物に向かって自動的に飛んで行って迎撃するようになった。

 私たちは歌っているだけで魔物が勝手にドロップアイテムへと変わっていく。前世ではこの様子から「アイドルは歌っているだけで魔物を浄化するんだ! つまり、アイドルは固定砲台なのだ!」などと言われていた。


 ちなみに魅惑の蝶々のドロップアイテムは桜の花びら。だから、蝶々に音符が当たると、蝶々がはじけて桜吹雪に変わるように見えるの。これがなんとも魅力的で、絵になるのではないかと私は思っている。


 私は歌いながら横目で三人の様子を見る。

 ハルちゃんは元気いっぱい、楽しそうに歌を歌っている。彼女の顔に湛えられた可愛らしい笑みは太陽のよう。もしかするとハルちゃんはアマテラスオオミカミの生まれ変わりなのかもしれないわ。(別にそんなことはない)

 普段はあまり笑顔を見せないリンちゃんも、今はちょっと楽しそう。よかった、楽しんでくれて。ちなみに後から聞くと「人目を気にせず大声で歌うって気持ちいいね」と言っていた。

 ユズちゃんはなんというか、アイドルとして様になっていた。幼さと色っぽさの両方を兼ね備えている彼女の可愛らしい笑顔は、見る人すべてを魅了すると思う。ああ、彼女の笑顔をこんなに近くで見ることができるなんて、私は今最高に幸せなのかもしれない。


「ワン、ツー、スリー、フォー! せーの、〈マジカルフィーバー〉!!」


 一番近くにいたハルちゃんの手をぎゅっと握った私は、マジカルフィーバを起動した。ハルちゃんは少し驚いた表情をしたが、すぐに私の意図を理解してくれたみたい。手をつないだまま、一緒に歌い、一緒にリズムを奏でた。

 二番のサビ前では、リンちゃんとユズちゃんが〈マジカルフィーバ〉を使った。私とハルちゃんは一歩後ろから二人が踊っているのを見て楽しんだ。


 色とりどりの音符が私たちの周囲を取り巻き世界を華やかに彩る。これこそがこのゲーム世界における「アイドル」。ダンジョンはアイドルのステージなの!



 曲が終わるころには、桜吹雪の蝶々廻廊の先にあるセーフティーエリアにたどり着いた。一息ついたところで、私は大きな声で「すっっっっごく楽しかった!」と叫んだ。

 その勢いで私は三人を抱き寄せた。ハルちゃんは楽しそうな、リンちゃんは照れくさそうな、ユズちゃんは嬉しそうな顔をしていた。


「私、三人と一緒にアイドルを目指して本当に良かったと思う! これからもよろしくね!」


「うん! よろしく、ヒメちゃん!」

「よ、よろしく///」

「私もすっごく楽しい~! こちらこそこれからもよろしくね、ヒメちゃん♪」


 そんな私たちの様子を、ロボたちは邪魔しないよう遠くから見守っていたのだった。



 ピコ、ピココ!


「あ、ロボちゃん。……写真! 送ってくれる?」


 ピコ

  ピココ

 ピコピコ

  ピコココ


・アイコン.JPG

・YouPipeヘッダ.JPG

・つぶやいたーヘッダ.JPG

・いんちゅたヘッダ.JPG

・編集済みLongVer.MP4

・編集済みShortVer.MP4


「あ、すごい! 編集も終わってるんだね。ありがと!」


 ピココ!

  ピココ!

 ピコ!

  ピコピコ!


「すっごーい! ベストショットが用意されてる!」

「え。こんな風に編集してくれてるの? 思ったより有能でびっくり」

「すごい、ヒメちゃんのこのショット、お姫様みたい!! ああ、こっちの写真ではリンちゃんが笑ってる~!! この写真、幾らで買えますか?!」


「メンバーなんだから無料だよ?」


「額縁に入れて飾るね♪」




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