チャンネル名を決めよう

「ヒメ、動画を撮影するって言ってたよね?」


「うん、言ったね」


「それってYouPipeとかを利用するの? ならアカウントを作らないとだけど、中学生でも作れるんだっけ?」


「あ、そうだったわね! 事前に調べたのだけど、チャンネルの開設は何歳でもOKみたいだけど、収益化は16歳以上になってからみたい」


 この辺りは日本にいた頃とは制度が違っているみたいでちょっと緩い。ただ16歳未満が投稿する動画にはコメントを残すことができないらしく、おそらく若い少年少女がアンチコメントに心を痛めるのを防ぐためと思われる。


「ふむ」


「それからSNSもだね。つぶやいたーといんちゅたも始めたいね。あれ、三人は嫌?」


「うんん、問題ないよー! 友達もやってるし!」

「問題ないけど、恥ずかしくはある」

「友達に知られるの、恥ずかしいな~。有名になったら学校で『サインください!』って言われたりするのかな~♪」


 三人とも問題ないようで何より。

 それに、おそらく顔写真付きで投稿しても、身元がばれることはないんじゃないかな? だって髪色、目の色、雰囲気が普段と全然違うし。


「で、肝心のチャンネル名はどうする?」


 そう、これが一番の問題だ。後から恥ずかしくならないネーミングにしないと!



「はい!」


「お、ハルちゃん。どうぞ!」


「全員の頭文字をとって『ヒハユリ』とかどう?!」


「え、なんて?」


「ヒハユリ」


「ヒハユリ?」


「うん、ヒハユリ」


「……もーちょっとひねらない? このままだと語感がよくないし……」


「確かに……。じゃあ『ヒメユリ』とか!」


「それだとハルちゃん要素が……」


「むー確かに! 名前って難しいね」



「ねえ、私もいいかな~?」


「お、じゃあユズちゃん!」


「『マジカルバースト』は? 私達らしさが出てない?」


「……あの、ユズちゃん? アイドルはみんなマジカルバーストを使えるんだよ?」


「あ、そっか~!」



「ふふ、私に任せ給え」


「リンちゃん! 自信満々だね」


「うん。最近知ったんだけど、なんでもドイツ語にするとかっこいい」


「どうしよう、まだ聞いてないのに嫌な予感が」


「このグループのリーダーはヒメ。姫は英語で『プリンツェッシン』だから『プリンツェッシン』でどうかな」


「うーん、それだと私だけみたいでなんか嫌だなあ……」(あと、ここでドイツ語にしたら、あとから黒歴史になりそう)


「そう、私はイイと思ったんだけど……」


「ま、まあもうちょっと考えてみよっか!」


「じゃあ、ヒメはどう思うの? 何か案、ある?」


 ギク! 不味い、私も何にも思いついていないんだよね。

 私は取り繕うように話の流れを変えた。


「こほん。まずは全員の名前をリストアップしてみるね」


・姫香 ←ヒメ

・春陽 ←ハル

・結月 ←ユズ

・凛華 ←リン


「「「ふむふむ」」」


「名前を使うっていう案はとってもいいのだけど、そのまま使うのは避けたいって思ったの。だから、ここから連想できるものを考えてみよう! 例えばハルちゃんの『春』とリンちゃんの『華』から想像できるものと言えば……」


「分かった、桜!」

「桜。確かにきれいな名前だね」


「でも、桜だと私とユズちゃん要素がないでしょ? ユズちゃん要素を入れるなら……」


「『月』要素を入れて『夜桜』とか」


「いいね、リンちゃん! 最後に私の要素も入れて……」


「『夜桜の香り』だね!」

「いいんじゃない?」

「私もいいと思う~」


「あー。でも私だけそのままっていうのもなあって」


「いいじゃん、ヒメがリーダーなんだし」

「うんうん。それに考えるの面倒だし」

「リンちゃん、本音が出ちゃってるよ~!」


 そんなわけで、私たちのユニット名は『夜桜の香り』になった。



「あー、チャンネルヘッダーとかアイコンとか作らなくっちゃ……」


 早速チャンネルと各種SNSのカウントを作ったのは良いものの、写真類を全く用意できていない。「ここで撮る?」という意見も出たが、それをすると身バレの恐れがあるのでやめておくことにした。


「それじゃあ、どこで撮るの? やっぱりダンジョンの中?」

「養蜂のフラワーガーデンがあった階層、綺麗だったよね~! どうかな?」


「そうね……。でもフラワーガーデンは夜とは合わない気が……。そうだ! せかっく『夜桜の香り』って名前にするんだし、あやかしの里の中にある『桜吹雪の蝶々廻廊』に行こう!」


「「「桜吹雪の蝶々廻廊?」」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る