危機を救え!
「タイタニック号……! それって沈没するやつだよね?」
「そんなあ~! この船、沈没しちゃうの?」
すがるように私を見る3人。そんな3人に私は答えを言う。
「リンちゃん、正解だよ。この物語はタイタニック号の悲劇を基にしたストーリーなの。タイタニック号ではないけどね」
「? 違う名前なの?」
「うん。ちなみに、この船の正式名称は後で知ることができるわ」
「後で?」
「クリア後って意味」
「そっか」
とそこでユズちゃんが何かをひらめいたように手をパンと打った。
「ねえねえヒメちゃん? もしかして私たちの使命って、この船の沈没を防ぐってことだったり?」
「そうだよ、ユズちゃん。ユズちゃんが言ったように、私たちはこの船に迫る危機を対処しないといけない。全員を守り抜けたらハッピーエンドよ」
「でも、どうやるの?! みんなに避難するように呼び掛けるとか?」
「なるほど~! じゃあ、さっきライブをしたのって、顔を知ってもらうため?」
「いや、そんなまどろっこしい事をしなくても。そもそも沈没しなければいいんだから、沈没の原因を消せばいいんじゃないかな」
「リンちゃん正解。その通りだよ」
「じゃあ、氷山をマジカルバーストで壊せば……」
「うん。でも、それはタイタニック号の話。この船は氷山が原因で沈没するんじゃないの」
「じゃあ、何が原因で……?」
「それはね、たぶんそろそろ……」
ガコン!!!
ちょうどその時、船が大きく揺れた。
「な、なに?」「なんだ今の揺れは!」
「ママ、怖い……」「おい、今のはなんだ!」
ざわめく乗客たち。このパニックに飲み込まれて迷子にならないよう、私はハルちゃんとユズちゃんの手を握った。リンちゃんはユズちゃんに捕まっている。
「おい、あいつって船長じゃあ?」「おい、船長! 今のはなんだったんだ」
「この船は大丈夫なの?!」
「皆さん、静粛に! 静粛に! 各自、急いで自室に避難してください! この船は先ほど、巨大な魔物の攻撃を受けました! そして今、その配下と思われる魔物が集団でこちらに向かっています!! 繰り返します……」
「な、なんだと!」「に、逃げろ! 食われるぞ!」
「きゃああああ! あそこ、あそこに魔物の大群が!」
「あの、ヒメ?」
「これって……」
「攻めてくる魔物を私たちが倒せばいい感じ~?」
「そういう事! 3人とも、属性を土にして! 船長さん!!」
「君たちは……! 確かアイドル志望の?!」
「はい! 私達で魔物を倒します!! ですので、もし可能でしたら……」
「分かった、魔力回復薬を用意しよう! おい、聞いたな!! すぐに手配しろ!」
◆
ぐぎゃあ、ぐぎゃあ!
ぐぎゃあ、ぐぎゃあ!
ぐぎゃあ、ぐぎゃあ!
空を羽ばたく多数の魚の群れ。……誤字じゃないよ、本当に魚が飛んでるんだよ。
「ハル知ってる! あれってトビウオだよね?」
「いや、トビウオはあんなんじゃない」
「あいつらの名前は『空飛ぶギャングフィッシュ』よ! さあ、船を守るよ!」
ミュージックラビリンスで流れている音楽がどこからともなく鳴り響き始めた。
つまり、あれの出番だ。
「ハルちゃん! 手をつないで」「うん!」
私とハルちゃんが手をぎゅっと握る。
「ユズ、一緒に踊ろ」「はい……///」
リンちゃんとユズちゃんも手を握った。
「「〈マジカルフィーバ〉!!」」
迫りくる魔物の大群に向かって、私たちは音符を飛ばした。
一曲が終わる頃にはいつの間にか他のNPCも攻撃に参加していた。魔法の弓を放ったり、魔法の
「アイドルさん、バフをかけますね! 〈マジックブースト〉!」
「ありがとうございます! まだまだ行くよ! 〈マジカルフィーバ〉!」
…
……
………
対魔物戦が始まってどれだけの時間がたっただろうか。1時間くらいだろうか? それともまだ数10分しかたっていない?
ひたすら私たちは魔物を殲滅し続けた。時に攻撃を当てそこなって魔物が船に乗り込んでくることもあったが、それは剣士のNPCが倒してくれた。時に怪我を負うこともあったが、それはヒーラーのNPCが治してくれた。
その甲斐あって、私たちもNPCも誰一人として死ぬことなく、空飛ぶギャングフィッシュを倒しきることができた。
誰かが「終わったか?」と言った。それに対して別の人が「バカ! それはフラグ……」と言った。
ザバーン!!
海が揺れる。船が揺れる。その衝撃に人々がざわめく。
海から何かが現れた。巨大な巨大なそれは、赤みががった魚だった。
「おっきな……
「50メートルはありそう」
「怖い……!」
今回の騒動の諸悪の根源、この巨大な鯛の名前は「サカナ王国の王・タイ=マンイータ=サカナ」。その名の通り、
グオオオオオォォォォ!
タイ=マンイータ=サカナが咆哮すると、その口から炎の弾幕がはなられた。私はマジカルバーストで相殺しようとするが、結局その攻撃は船に直撃してしまう。また攻撃しても、その頑丈な鱗の前では歯が立たない。
「くっ!」「なんて強さだ」
「ははは、俺たちもここまでか……」
船上に悲壮感が漂う。しかしそんな中、一人の男が覚悟を決めた表情で巨大な鯛の前に立った。
「船長……?」「いったい何を……?」
その男とは船長だった。彼は天を仰ぎながら周囲のものに聞こえるように宣言した。
「今から俺は『キャプテンたるもの、皆を守れ』というユニークスキルを発動する。これは自身の今までの経験値を全て消費することで、強力な攻撃を放つスキルだ」
「なんだって?!」「そんなものが……!」
「これを使うと、俺は【ジョブなし】になる。つまり、もはや船長ではいられない。この船の指揮は副船長に任せることにする」
「?!」「経験値を消費するってそういう事かよ……」
「今までの努力を全部棒に振るのかよ……」「そんなスキルが……」
「まさか本当にこれを使う時が来るとはな。死ね、悪しきものよ! ユニークスキル『キャプテンたるもの、皆を守れ』発動!」
キャプテンがまばゆく光る。光はどんどん強くなり、どんどん強くなり、そして……。
◆
〔こうして、一人の男が今までの努力を犠牲にしたことで「サカナ王国の王・タイ=マンイータ=サカナ」は討伐され、この船の安全は守られたのでした〕
〔特殊階層『タイパニック号』を攻略しました〕
〔再挑戦可能になるまであと1年です〕
〔討伐した「空飛ぶギャングフィッシュ」の数:378体〕
〔「サカナ王国の王・タイ=マンイータ=サカナ」に与えたダメージ:0%〕
〔攻略ランクはCです〕
〔報酬『タイパニック号の思い出』を入手しました〕
〔条件を満たしました、【アイドル】に昇進することができます〕
気が付くと私達は東京中央ダンジョンの入り口に立っていた。特殊階層をクリアすると、ダンジョンの外に出されるのだ。
ポカーンとしている3人に向かって私はこう言った。
「という訳で、さっきの船の名前は『タイパニック号』なのです!」
「「「ここにきてダジャレかーい!!」」」
◆ あとがき ◆
特殊階層を無事クリアし、同時に【アイドル】の条件を満たしました。これにて第一章『魔法少女が行く』の幕を閉じ、次話からは新章『アイドルが駆ける』が始まります。
第二章では、四人は【アイドル】として活動を始めていきます。今までレベル上げ(練習)に特化した攻略をしてきましたが、今後は写真映えやレクリエーションを兼ねた面白おかしいダンジョン攻略が中心となるようで……。
さて、明日は日ごろの感謝と二章開始を祝って5話まとめて投稿します!(19:05以降、5分おきに投稿します)
今後ともヒメ達を応援して頂けると嬉しいです。
最後に作者からの感謝とお願いです。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂けたならブックマークや評価、レビューをして頂けるとすごく助かります。
よろしくお願い致します。m(_ _)m
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