マジックバッグが欲しい!
「それでヒメちゃん、マジックバッグってどうやって作るの?」
「というか作れるの?」
「うん、簡単だよ。ほらミノタウロスから偶に牛革がドロップしたじゃん? あの革を材料にバッグを作って、最後にこのシルクの糸で魔方陣を縫い込めば作れる……はず」
ゲームの設定資料集に書いてあっただけで、実践はしたことがないのよね……。
「それだけ? 【アイテム職人】とか【魔道具職人】じゃなくても作れるの?」
「お、詳しいねリンちゃん。そうだね、私達が見よう見まねで作るよりも、職人さん、この場合は【アイテム職人】に作ってもらったほうが遥かに高品質なものが作れるはずだよ。そもそも私たちだと革をカバンにする時点で厳しいよね」
「じゃあどうするの? ヒメの知り合いに【職人】がいるの?」
「……いない」
「「「……」」」
あはは、どうしよう。
とりあえずそろそろ帰らないとまずいわね。マジックバッグについては後回し!
◆
その日の放課後、私たちはユズちゃんの家にお邪魔していた。
「えっとなになに。【アイテム職人】は日本では50人しかいない……?!」
「依頼は一年待ち~?!」
なんてことだ、まさかアイテム職人がこんなにも少ないなんて。ええ……。一年も待つのはさすがにねえ。
「ヒメ、ユズ。それより依頼料の欄を見てよ。『マジックバッグの作成、100万円~』だって」
「「は、払えるかあー!!」」
ほ、本当にどうしよう。
と悩んでいると玄関のドアが開いた。
「ただいま~。あ、姫香ちゃんたち来てたんだ~」
「お邪魔してます、ミカンさん」
「あ、ミカンさんー!」
「お邪魔してます」
玄関に現れた、おっとりしてて優しそうで可愛いこちらのお姉さんはユズちゃんのお姉さんの美柑さんだ。現在高校一年生、お嬢様学校に特待生として通っている優秀な人だ。
そうそう、ユズちゃんにはお姉さんが一人、妹が一人いて、両親を合わせて5人家族なの。ちなみに妹さんの名前はライムちゃんである。
「どうしたの、なんだか険しい顔をして?」
「それが……略……という訳でして。知り合いでアイテム職人がいたりしません?」
優秀なミカンさんなら何か知っていたりしないかな、と思って相談してみたものの、ミカンさんは残念そうに首を横に振った。
「ごめんね、私の知り合いにはいないわね~」
「ですよね……。そもそも、友達価格になったとしても、私たちに払えるか……」
「あ、でもでも~。私、家庭科部だから、バッグを作ることならできるよ~」
「?! そうなんですね。あ、もしかして刺繍とかもできます?」
「できるよ~。ほら、こんな風に♪」
ミカンさんは私たちにハンカチを見せてくれた。ハンカチには可愛らしい花の刺繍があしらわれている。
「綺麗ですね!」
「すごー!」
「綺麗です」
「うん、お姉ちゃん、こういうのすっごく得意だもんね♪」
「いやあ~それほどでも~。えへへ♪」
照れくさそうに笑うミカンさん。よし、このままの勢いで頼もう!
「ミカンさん、素晴らしいです! もし嫌じゃなければ【アイテム職人】になってみませんか?! それで私たちを助けてください!」
いないなら
作ってしまえ
職人を
◆
「そりゃあ、【アイテム職人】になれたらうれしいけど~。私には無理だよ~」
「いえいえ、簡単になれますって!」
「簡単になれたら、今頃アイテム職人であふれてるよ~」
うーむ、ミカンさん、なかなか頷いてくれない。何が不満なのだろうか?
「ちなみにミカンさん、今のジョブは?」
「無いよ~」
ジョブなしみたいね。学生だし、ジョブなしはなんらおかしな事ではない。というか、ちゃんと職に就いている大人であっても、【ジョブなし】の人はいる。
「じゃあ、取り合えず【アイテム職人】を目指してみません? あ、もしかして将来の夢が他にあって、【アイテム職人】は論外って感じだったり?」
「そんなことはないよ~。なれるならなりたいかな~。将来安泰だし~」
「じゃあ、お時間ある時だけでも、【アイテム職人】になる練習をしてみましょう! ね、ユズちゃん。ユズちゃんもミカンさんが【アイテム職人】になってくれたらうれしいよね?」
「うん、お姉ちゃんの作るものなら安心だし♪」
「わかったわ~! 妹の頼みだもの、私、頑張っちゃうよ!」
そうこなくっちゃ!
「じゃあさっそく、この糸を使ってこの魔方陣を刺繍してもらえますか?!」
さささっと魔方陣を書き上げてミカンさんに見せる。
もちろん糸は先ほど取ってきたシルクだ。実はこのシルク、魔力伝導率が高くて魔道具を作るのに欠かせない素材なの。
「ええ、いきなり~?! それにこの糸、すっごく高そうじゃん~」
「まあ、絹ですからね……。けど大丈夫です! 足りなくなっても補充できるんで!」
「き、絹~?!」
遠慮するミカンさんを「まあまあ」と言いくるめ、とにかく魔方陣を縫い込んでもらうことにした。ちなみに今書いた魔方陣は「発光」の術式が書かれていて、その名の通り魔力を込めたら光るはず。
「……せっかくだし、姫香ちゃんたちも刺繍してみる~?」
ジーっとミカンさんの手元を見つめていると、ミカンさんがそう問いかけてきた。あーどうしよう?
「うん、やってみたいです!」
「じゃあ、お願いします」
「やってみる~!」
私が答えるよりも早く、三人が賛成の意を示した。よし、じゃあ私もやってみようかな?
「は、針が指に刺さったー!」
「ハルちゃん?! 大丈夫?」
「大丈夫……。けどもう無理! ハルは家庭科をあきらめる!!」
えーっと。ハルちゃんは縫物が苦手みたい。リンちゃんとユズちゃん、そして私はまあまあって感じ。
そしてミカンさんは……。
「いや、綺麗すぎでしょ! あなたは人間ミシンですか?!」
「それほどでも~。えへへ~。それで、これがどうなるの?」
「使ってみてのお楽しみです。さあ、さっそく魔力を流してみてください」
「う、うん。……どうやるの~?」
「魔力を流すぞーって考えれば魔力を込めることができるはずです」
「む、難しそう……。ま、『魔力を流すぞ~』ってわあ!」
「「「おお~!!」」」
ミカンさんの手の中にある布がまばゆく光り始めた! 成功したみたいだね!
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