電子森林

 ミュージックラビリンスで練習を始めて1か月が経とうとしていた。ハルちゃんとリンちゃんもマジカルフィーバに慣れてきて、一人なら安定してフルコンボ、オールパーフェクトを出せるようになってきた。


 そこで私たちはボス戦に挑むことにした。80層ボスの名前はトロボーンという名前だ。マグロの骨格標本の形をしたトロンボーンである。トロマグロのボーンって事ね。

 え、なんでミュージックラビリンスのボスが魚をモチーフにしているのかって? うんうん、確かに音楽と魚って全く共通項が無いように思うよね。ふふふ、でもこれには深い訳があるの。詳しくはまた後程~。


 さて、トロボーンの倒し方は至ってシンプル、マジカルフィーバを使って攻撃すればそれだけで倒すことができる。属性耐性もないから、好きな属性のコスチュームで戦えるわ。

 ハルちゃんとリンちゃんは一人ずつ、私とユズちゃんは一緒にマジカルフィーバを発動し、無事全員がフルコンボを出す事が出来た。そして、トロボーンはパッパー!という音と共にドロップアイテムへと変わった。


「オルゴールがドロップしたね」

「これ、貰っていい?」


「リンちゃん、音楽好きだよね。私は要らないよ」


「私も、食べ物じゃないならいらないかなー!」

「どうぞどうぞ~」


 オルゴールはリンちゃんのコレクションとなった。



「それでヒメちゃん、今日は残りの時間何するの?」


「うん。これから85層にある『巨大桑の電子森林』に向かうよ」


「85層!」「巨大桑?」「電子森林~?」


「うん。桑と言えば何を思い浮かべる? あ、桑と言っても植物の『桑』ね」


「地図記号!」

「桑……? うーん、あんまりイメージがわかないかなあ~」


「そっか。うーん、知らないかな、とある産業に関わってるんだけど……。リンちゃんは分かる?」


養蚕ようさん業」


「そう、正解! あ、ハルちゃんとユズちゃんは養蚕って分かる? 『蚕を養う』って書いて『ヨウサン』って読むんだよ」


「へー!」「知らなかった~! 二人とも賢いね~! 憧れちゃう♪」


 ユズちゃんから尊敬のまなざしを受ける。な、なんだか照れくさい……。


「こほん。という訳で、残った時間は絹をゲットするよ!」


 びしっと指を点に掲げて私は宣言する。が、三人は顔を引きつらせていた。


「蚕って芋虫だよね……」

「……」

「気持ち悪いのはちょっと嫌……」


 あーうん。何も説明してなかったらそう思っちゃうよね。けど安心してほしい。


「大丈夫、このゲーム世界に気持ち悪い敵はいないわ。それに81~90層は森林フィールドではなくて電子森林だから。虫はいないよ」


「「「電子森林?」」」


 三人がきょとんと首を傾けた。





 ピコピコ!


   ピロピロ!!


 ピロロロ!



 81層に足を踏み入れるや否や、騒々しい電子音が耳に飛び込んできた。フィールド一面に生えているのはピカピカ光るモニュメント。


「すごいよね! まさに未来都市って感じだよね!」


「かっこいい!」

「ええ……。やっぱりダンジョンって謎」

「ちょっと怖いかも……」


 ハルちゃんはこういうSFな雰囲気が好きみたい、目を輝かせている。逆にユズちゃんは苦手みたいだね。リンちゃんは相変わらずダンジョンの謎に頭を悩ませている。

 物珍しそうに周囲をきょろきょろ見ながら進むこと数分、私は敵を見つけた。


「さっそく魔物のお出ましよ!」


「どこ? わあ、かっこいい!」


 私たちの前に現れたのは大きさ一メートルくらいのロボットカブトムシ。ちなみに弱点は水だよ。〈コスチュームチェンジ〉〈マジカルバースト〉!


 ビビビビビッ!

 キュイイイインー! ボオオオオオ!


「角から炎を噴いた!?」

「おお!」

「すご~い!」


 こうしてロボットカブトムシとの戦闘が始まった。ここでは音楽が流れていないからマジカルフィーバーでコンボを続けるのは至難の業。だから代わりにマジカルバーストを使って倒すわ。

 ちなみにドロップアイテムはネジとか電子部品とか。どうしよう、これ……。



 さてと。時間もないし無駄な戦闘は避けて先を進まないとだね。

 それから20分ほどで私たちは85層に到着した。ここにいる敵は蚕をモチーフにした機械たち。そのドロップアイテム「シルク系アイテム」を狙うよ!


「本物の蚕はちょっとグロテスクだけどこれならそんなに怖くないでしょ?」


 ウィーン!

 シュシュシュッ!


 この魔物の名前は『機械仕掛けの蚕』、そのままの名前だね。動きはのろまだけど、下手に近づくと口から糸を吐いて私達を縛ったり首を絞めたりする怖い魔物よ。

 ただ、火魔法を使えば糸を焼き切ることができて、しかも上手くいけば火が糸を伝って蚕を体内から焼く事ができるわ。そういうわけで、この子の弱点は火属性ね。


 難なく機械仕掛けの蚕を倒し、その勢いで私たちは30匹の蚕を倒すことができて、その内シルクを落としたのは4匹だったわ。


「きれいな糸だね~! それで、この糸を何に使うの? やっぱりお洋服にしたり?」


「うんん、今回は違うよ。その糸でマジックバッグを作りたいの!」


「マジックバッグ?!」

「作れるの?」

「すっごく高い奴だよね?」


 マジックバッグ。見かけの大きさよりも多くの容量を入れる事が出来る鞄で、ダンジョン攻略に限らず普段使いも出来る便利なアイテムよ。

 そんな便利な物が世の中に普及していないのには理由があって、とにかく値段が高い。なんでだろ、作るのもそんなに難しくないのに……。




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