音ゲーの特訓

 意外なことに、〈マジカルフィーバー〉を最初に使いこなせるようになったのはユズちゃんだった。私よりも遥かに上手い。


「ユズちゃん、すごいね! もしかして、音ゲー経験者とか?」


「そ、そう~? ありがとう♪ 音ゲーはやったことが無いけど、昔ダンスを習ったことがあったの! だからリズムを刻むのはお任せあれ~!」


 しかしながら、ハルちゃんとリンちゃんは物凄く苦戦している。少し不安になるレベル……。


「ひ、ヒメちゃーん! 難しすぎる! こんなのできないよおお!」

「もうちょっと初心者向けのは無いの?」


「えーと、これが一番簡単な物で、アイドルになるともっと難しいギミックが出てくるよ……」


 その場で一回転とかね。


「ひええええー!」

「無理だ。私、アイドルは諦める」


「まだ一日目だし! 二人とも諦めないで!」



 こうして、長きにわたるマジカルフィーバ特訓が始まったのだった。


「ヒメちゃん! なにかコツとか無いの?」


「そうね……。ひたすらリズム感覚を鍛えるしかないかなあ。ユズちゃんはどう思う?」

「う~ん。判定線を注視しない、とか?」


 なるほど、それはいいアドバイスかもしれない。音ゲーの攻略法として、判定線よりも上をぼやーと眺めてノーツの配置を理解し、実際に押すのはリズムに頼る、なんて方法があるらしい。



 そして放課後。ダンジョンには行かない代わりに、ユズちゃんに誘われてダンスを練習する事になった。二人一組で踊るタイプのダンスだ。私はハルちゃんと組み、そして……。


「ユズ。今日はよろしく」


「はわわ。よ、よろしくね、リンちゃん!」


 ユズちゃんはリンちゃんと組んだ。リンちゃんに抱き着かれ顔を真っ赤にしているユズちゃん、かわいい! ちなみに、そんな状態でもユズちゃんはしっかりとダンスを踊れていた。



 次の日の朝、ダンジョンにて。


「まずはハルちゃんとリンちゃんの練習からしよっか。二人の魔力量が少なくなったら、今度は私とユズちゃんで〈マジカルフィーバー〉のデュエットを練習しよー!」


「今日こそ成功させるよ!」

「はあ、失敗する未来しかみえない」

「デュエットってことは、ヒメちゃんと手を握って発動するんだよね? 楽しみ~♪」



「まずは、ハルちゃん。丁度敵が出てきたし、早速やってみよう! 今朝話したコツは覚えてる?」


「判定線を見過ぎず、音符の流れをぼんやりと把握する、だよね? やってみる!」


 チャンチャララ、チャララチャラララ~


 音楽に合わせて音符型の魔法を敵に飛ばすハルちゃん。最初は緊張しているのか体が硬かったけど、徐々に慣れてきたのかリズムに合わせて体を動かすようになってきた。

 今の所、パーフェクト(誤差0.01秒以内)が5%くらい、セーフ(誤差0.025秒以内)が90%、0.05秒以内が5%ってところかな? ちょっと危ういけど、上手くリズムを刻めているように見える。少なくとも昨日よりは格段に上手になっている。


「あ、魔物が! やった!」


 そして、なんとハルちゃんは一人で魔物のHPを削り切る事に成功した。まだまだ完璧とは言えないけど、悪くないわ!


「ヒメちゃんー! やった、倒せたよ!」


「おめでとう、凄く上達してたね!! あと一か月もすれば、フルコンボ達成も夢じゃないかな?」


「あ、あと一か月……頑張る!」



 次はリンちゃんの番だ。リンちゃんは自分の心臓に手を当てて深呼吸している。


「スーハー。スーハー。大丈夫、私なら出来る。私なら出来る」


 リンちゃん、凄く緊張してる。このままじゃあ、自分の実力を発揮できないかもしれない。どうにかして緊張をほぐしてあげないと。そうだ!


「ユズちゃん、出番だよ!」

「え?」

「リンちゃんに正面からぎゅって抱き着いてあげて」

「そ、そんな事出来ないよ~!」

「いいからいいから」


 私はポンとユズちゃんの背中を押す。ユズちゃんは少し躊躇った後、覚悟を決めたのかトテトテとリンちゃんの横に向かった。


「何、ユズ?」

「あ、あの! リンちゃん!」

「?」

「そ、その~。えい!」


 ユズちゃんはギュッとリンちゃんに抱き着いた。突然の行動に驚くリンちゃん。


「急に何?」

「リンちゃん、緊張してたから……。ごめん、嫌だった……?」

「そんな事は無い。ちょっとびっくりしただけ。うん、ありがと。おかげでだいぶ緊張がほぐれたよ。ありがと、ユズ」

「リンちゃん……! リンちゃん♪」

「ちょっと///」


 なんか最近、こういう展開多くない? いや、今回のは私がけしかけたんだけどさあ。なんだか悔しかったので、私は隣にいたハルちゃんに抱き着いた。


「ヒメ?」


 上目づかいで私を見上げてくるハルちゃん。は! 私ってば、何を……。

 ごまかすために、私はハルちゃんの頭をなでる。


「よしよしー!」

「えへへ、ヒメちゃん、くすぐったいよー!」



 この後、リンちゃんがマジカルフィーバーを使った所、魔物を倒すには至らなかったけど昨日よりははるかに良くなっていた。

 本格的に活動を始めるのは高校生以降のつもりだからまだあと2年以上ある。焦らずコツコツ練習しても十分間に合うと思う。



「さて、ハルちゃんとリンちゃんの魔力も減ってきてるし、そろそろ交代しようかな。ユズちゃんと私でマジカルフィーバーの同時使用を練習するわね! ユズちゃん、よろしくね」


「こちらこそ、よろしくね♪」


「うん。じゃあ、手、握るね」


 ユズちゃんの手を握り、顔を上げると目の前に彼女の顔があった。すべすべしたお肌、少し赤らんだ頬、くりくりした目、長いまつげ。やっぱりユズちゃんって可愛い……。そして私の目線はユズちゃんの唇へ。ふっくらして柔らかそうな唇はとっても魅力的で、私はつい……。

 って、駄目よ私! ユズちゃんはリンちゃんと百合を育んでいるの! その間に割り込もうとするなんて万死に値するわ!


==========

 NTR、BSSを無くそう。



   ダメ。ゼッタイ。



 脳破壊防止センター

==========


「そ、それじゃあ、私から使うね。一人バージョンよりも難易度が上がってるけど、頑張ろうね!」


「う。うん。任せなさ~い♪」


「〈マジカルフィーバー〉!」



 難易度が上がってもユズちゃんはほぼノーミスで魔法を使っている。私の方が精度が低いくらいね。なんとかフルコンボは達成できたけど、もっと精進しなくっちゃ。


 ちなみに、横から覗き見ていたハルちゃんとリンちゃんの顔が引きつっていた。大丈夫、すぐに二人も出来るようになるから!




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