ミュージックラビリンス

「という訳で、今日は70層を目指すよ。そして明日以降は71~80層、通称『ミュージックラビリンス』の攻略をします」


「ミュージックラビリンス?」

「直訳すると音楽の迷宮」

「音楽? なんだかアイドルっぽい~!」


「うん、ユズちゃんの言うように、ミュージックラビリンスはアイドルへの第一歩、音楽に合わせて魔法を撃ち込む練習をする場所なの」


 ミュージックラビリンスはレベリングではなく、操作の練習の意味で重要な階層なの。



 さて、ミュージックラビリンスに到達する為には、まずは61~70層を攻略しないといけない。ここも迷宮階層なのだけど、内部に魔物が住んでいるという点で51~60層と異なっている。


「これぞダンジョンって感じだね!」

「私としたことが、ワクワクしてしまってる」

「ふ、二人とも凄いね……。私はちょっと怖いよ~」


 この階層で出てくる魔物はゴーストタイプ。「ケケケ……」とか「オオオ……」とどこからともなく聞こえてくるわ。ハルちゃんとリンちゃんは耐性があるみたいだけど、ユズちゃんはびくびくしている。


「ヒメちゃんとリンちゃんはともかく、ハルちゃんも平気なの?」


「? 確かにお化けは怖いけど、ここにいるのは全部魔物じゃん! つまり倒せるから!」


 ハルちゃん、意外とメンタルが強いみたいね。


「ユズ、そんなに怖い?」


 リンちゃんが心配そうにユズちゃんを見る。ユズちゃんはうつむきながら申し訳なさそうに「うん……」と言った。


「はい、手。握ろ。そしたら怖くない」


「はわわわわわ///」


 リンちゃんはナチュラルにユズちゃんを抱き寄せ、手を握った。きゃーカッコイイ! ユズちゃん、良かったね。

 ところがどういう訳か、この後私もユズちゃんと手を繋ぐことになった。いいの、ほんとにいいの?


「私、今両手に花~♪」


 まあ、びくびくしてたユズちゃんが今は楽しそうにしてるし問題ないのかな?



 まあそんな感じでちょっとしたトラブル(ラブコメ?)があったものの、無事70階層のボス「ビッグバケバケ(直径3メートルほどの球形のお化け)」を討伐した。


「今日はこれで終わり?」

「まだ時間はある」


 そうねえ。まだ時間はあるし、ちょっとだけ71層を攻略してみようかな。


「じゃあ、ちょっとだけ71層を覗こうか。『ミュージックラビリンス』っていう名前の通り、ここではオルゴールの音色が流れているの。ここからでも薄っすら聞こえるよね、音色が。中に入ったら結構大きな音で聞こえるわ。それ以外は普通の迷宮よ。で、この階層はマジカルフィーバの練習にうってつけなの」


「出ました、獲得した物のまだ使ってない謎スキル! その秘密が今日明らかになるんだね!」


「そうよ。その効果はこんな感じ」


〈マジカルフィーバー〉

 一定時間、魔力を消費せずに攻撃を放つことができる。ただしその攻撃は一定のリズムを刻む必要があり、リズムを外すとフィーバーが強制終了される。

 なお、発動時に一定量の魔力を消費するから、元を取りたければフィーバを長い時間持続させる必要がある。


「魔力を使わないの~?! すごいね!」


「そうなの! そしてユズちゃんにさらに朗報。このスキルにはまだ秘密があって……」


「あって……?」


「両手を握った状態で発動すると、もう一人にも同じ効果が付与されるの。つまり、発動に使う魔力か実質半分になるって事」


「そ、それは楽しみ~♪」


 と言いながら、チラチラとリンちゃんを見るユズちゃん。か、可愛い! これぞ恋する乙女!

 一方リンちゃんは冷静にスキルを分析していた。


「『リズムを外すとフィーバーが強制終了』っていうのはどのくらいの誤差までオッケーなの?」


「プラスマイナス0.025秒以内に収まっているなら敵に大ダメージ、0.050秒以内の誤差なら敵に普通のダメージ、0.1秒以内のミスを10回したらゲームオーバー、0.2秒以内なら3回でゲームオーバー、それ以上の誤差は一発でゲームオーバーね」


「……音ゲーみたい」


「そうだね」


「このスキルが一長一短なのは分かった。じゃあ、このスキルを上手く使うためにはリズム感を鍛える必要がある訳だ」


「その通り」


「だからミュージックラビリンスで練習するんだね?」


「そういう事。ミュージックラビリンス内では、マジカルフィーバのテンポがオルゴールの音色と同調するからね。まさに音ゲーって感じなの。ちなみに、【アイドル】に昇進したら、自前で音楽を奏でられるようになるわ」


「分かった」


「ハルちゃんとユズちゃんも分かった?」


「つまり、ぴったりのタイミングで魔法を使えばいいんだね!」

「う~ん、ごめんね、まだイメージが湧いてない……」


「あはは、百聞は一見に如かず。まずは私が使うから、後ろで見てて」


 さあ、71層に突入よ!



 中に入るとすぐに魔物とエンカウントした。体が様々な楽器で構成されているロボット……のような見た目の魔物だ。


「じゃあ、早速私が。〈マジカルフィーバー〉!」


 現実世界で使うのは初めてだから、上手くいくか不安。けど、こっそり家で音ゲーをプレイしてリズム感を鍛えた私ならいける……はず!

 マジカルフィーバーが発動すると、私の目の前に直径1メートルほどの魔方陣が出現し、そこにノーツが流れ始めた。まんま音ゲーね。流石ゲーム世界。


「ちゃんちゃんちゃん♪ ちゃんちゃんちゃん♪ ちゃん♪ちゃん♪ちゃん♪」


 オルゴールの音色を聞きながら、私はタイミングよく魔法を使う。ちなみに、リアルとなった今、頭の中で「今魔法を使う」と想像するだけで魔法が発動するみたい。だから、ゲームよりもはるかに簡単ね。


「凄いー! 赤色の音符が飛んで行って、魔物をボコボコにしてる!」

「原理が謎過ぎる……。いや、もう諦めてるけど」

「ヒメちゃん、可愛い~!」


「あ、魔物が」


 魔物がドロップアイテムを残して消滅。それに気を取られた私はノーツを外してしまい、マジカルフィーバーが終了した。


「あああああ! パーフェクト逃しちゃった!」




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