焼き肉パーティー

 夏休みに入っても、私達の活動は変わらなかった。


 朝6時に迷宮前に集合し、50層に転移。そこから迷路を抜けてミノタウロスの間に向かう。着いたら、ミノタウロスを倒して61層から帰還。後は各自のんびりしたり、集まって宿題したりする感じだ。

 ちなみに、夏休みくらい集合時間を遅らせようかとも考えたのだけど、リンちゃんが「習慣を乱すのはダメだと思う」と言ったから、6時集合のままになった。


 さて、ミノタウロスの肉が毎日ドロップするので、少しずつ冷凍庫を圧迫して来た。そこで、8月の第一日曜日と8月の第四日曜日に四家族合同の焼き肉パーティーをした。場所はそれぞれ臨海キャンプ場と山の中のキャンプ場だ。



「うん、これは美味い。魔法少女最高」


 リンちゃんが何かを美味しそうに食べていた。


「え、ちょっとリンちゃん? それ、焼けてなくない?」


「うん。ヒメは知らない? ユッケってやつだよ」


「ちょ?! それって禁止されてる奴だよね?! 食中毒が大問題になって提供禁止になったやつだよね?!」


「そうだけど、あの事件で問題だったのは衛生管理。そもそもユッケで問題になったO-157、滋賀毒素を作る大腸菌は腸にしか存在しない。だから、ユッケにO-157が含まれてたのは、杜撰な衛生管理によるところが大きい」


「な、なるほど。け、けど危険はあるんじゃあ……」


「そりゃあね。実際、店で売られてるものは『焼いて食べてくださいね』っていう前提で衛生管理している訳で。まさか生でガツガツ食べられるとは思ってない。だから、店で売られてる牛肉を生で食べるのはおすすめしない。けど、これはダンジョン産。謎空間から生み出された肉。だから、衛生管理は完璧だってヒメも言ってたじゃない」


「そういえば。確かにそうだったね」


 ドロップアイテムに病原体が混入する事は無いからね。

 そういう訳で、私もユッケとやらを食べてみたけど、ちょっと私の口には合わなかった。


※何度も言いますが、店売りの物はしっかり焼いて食べましょう! 生で食べてOKなのはダンジョン産の物だけです!!

※ちなみにO-157の「157」とは大腸菌の表面にある抗原の番号、分かりやすく言うと血液型みたいな感じらしいわ。人間の血液にA型、B型なんかがあるみたいに、大腸菌には1型、2型、……、157型なんかがあるみたい。



 一方その頃、ハルちゃんとユズちゃんはシェフごっこに興じていた。


「へい、お待ち! ハル特性、ほっぽが落ちそうになるステーキだよ!」


「こっちはハンバーグです~♪」


 二人が調理して、親御さんや兄弟姉妹に振舞っている。そういえば、ユズちゃんは料理が上手いんだっけ? 私もハンバーグ貰いたいな。


「あ、ヒメちゃん! ヒメもどうぞ!」

「ハンバーグだよ~! どう、美味しいかな……?」


「ありがとう、二人とも。うん、美味しい! ハルちゃんも食べた? 焼くの代わろうか?」


「ありがとう、でも大丈夫だよ! 今日は私たちがシェフだから!」


「ヒメちゃんに喜んでもらえてよかった♪ ところでヒメちゃん。リンちゃんってこっちに来ないかな?」


 ユズちゃんはもじもじとそう尋ねてきた。彼女の手にはハンバーグが乗ったお皿が。


「んー、どうだろ。ちょっと今、一人の時間にふけってるから。連れてくるね」


「え、いや。うんん、大丈夫、そこまでは」


「でもそのハンバーグ、リンちゃんの為に焼いてんでしょ?」


「う、うん///」


「だったら食べてもらうべきだよ。連れてくるね」



 私はぼーっと空を眺めているリンちゃんの所に戻り、声をかける。


「リンちゃん? 向こうで一緒に食べない?」


「いや、いい。騒がしいのは苦手だから」


「まあ、リンちゃんはそう言うよね。けど、今ユズちゃんがハンバーグを焼いててね。リンちゃんにも食べてほしいって言ってるの」


「……分かった。じゃあ、行く」



 その後、ユズちゃんは「どう、美味しい? 私、立派なお嫁さんになれるかな?」とリンちゃんに尋ね、それに対しリンちゃんは「なれると思うよ」と返すというラブコメ展開があった。近くで見ている私まで恥ずかしくなった。


 そういえば、その現場をニコニコ顔で見ている親世代は、二人のことをどう考えてるんだろう?



 こんな風に時折レクリエーションを挟みつつも、毎日コツコツと練習に励み……夏休みが終わる頃にはミノタウロスを卒業できるくらいにまで成長した。


「明日からはまた別の場所で戦うよ」


「新しいスキルを使うんだね! 楽しみ!」

「マジカルフィーバ、だっけ?」

「ミノタウロスさんともお別れか~。牛肉、美味しかったね。最後に挨拶しておかない?」


 ユズちゃんの提案に私たちは頷き、ミノタウロスの間に向かって一礼した。


「「「「ごちそうさまでした」」」」



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