迷宮階層
数日の練習の後、私達全員が二属性の魔法を使いこなせるようになった。という訳で、今日から次のレベリングスポットに移ろうと思う。その場所の名前は……。
「「「ミノタウロスの間?」」」
「そう。50階層から60階層の間は迷宮階層なんだけど……」
「ヒメ、ストップ。迷宮階層って何?」
リンちゃんにストップをかけられてしまった。そうだね、三人は迷宮に詳しい訳じゃないから、ちゃんと説明しないとだね。
「ああ、ごめんごめん。えっと、今までの階層は広場か一本道かだったよね。けど、迷宮階層では違うの。いくつもの分岐があって、ぐちゃぐちゃと入り組んだ道を進む必要があるの」
「それは怖いね。でも楽しそう」
「地図が必要だね~」
「ハルのお兄ちゃんが言ってた! マッピングが大事って」
「そうそう。まあ、今回は地図が事前にわかっているから、マッピングは必要ないけどね」
「そっか! 流石ヒメちゃん、用意シュート!」
「なんだ、残念」
「けど、それなら安心だね~♪」
ハルちゃん、シュートじゃなくて用意
「コホン、話を戻すわね。50階層から60階層の間は迷宮階層なんだけど、その先にあるのが『ミノタウロスの間』って訳だね」
「ミノタウロスってギリシャ神話か何かに出てくる化け物だっけ?」
「確かそのはず。牛の頭と人の体」
「ラビリンスに封印されてる、だっけ?」
「三人とも詳しいね。そう、ミノタウロスは簡単に言うと牛の化け物で、迷宮の奥にいるわ。神話では悪い奴として描かれているけど、この世界のミノタウロスは良い奴よ」
「そうなの?!」
「魔物にいい奴なんているの?」
「優しいとか?」
「違う違う。この世界のミノタウロスはね。なんと……」
「「「なんと?」」」
「牛肉をドロップします! ステーキにするもよし、ハンバーグにするもよしの肉です!」
「食べるんかーい!」
「良い奴は良い奴でも、性格ではなく味が良い奴」
「牛肉~! それは凄いね!」
「まあ、今日は50層まで進んで終わりかな? ミノタウロス討伐は明日以降になるわ」
◆
「そんな訳で30層、40層、50層の三体のボスをサクッと倒した私たち。今日はいよいよ、ミノタウロスの所へ向かいます」
51層のチェックポイントに転移した私は、空に向かってそう説明する。
「ヒメちゃん、誰に向けて話してるの?」
ハルちゃんが当然の疑問を呈する。あはは、確かに傍から見たら変だよね。でもちゃんと理由があって。
「ほら、将来一流アイドルになった時は、こういうナレーションが必要かなって」
「なるほどー! じゃあ、ハルも『今日は頑張ります! みんな、応援よろしく!』」
きゃあー! 可愛い! これは投げ銭がいっぱい飛んできそう!
あれ、そういえば中学生とか高校生でも収益化って出来るんだっけ? 地球では18歳以上だった気がするけど、この世界ではどうなんだろ? 後で確認しないと。
「こほん、話を戻して。改めてここが51層! 迷宮への入り口だよ!」
私達の目の前に広がっているのは、洞窟……いえ廃坑に近い見た目の空間だった。地面は平坦、壁は垂直に切り立っている。
「昨日見た時から分かってたけど、薄暗いね……」
「ザ・ダンジョンって感じ」
「なんだか、歩きやすそうだね。思ったよりも楽ちんそう♪」
「甘いねユズ」
「リンちゃん?」
「いい。確かにここは歩きやすそうな整備された道。だけど、それはつまり、似たような場所が幾つもあるって事」
「そう言われてみれば~」
「つまり、正確な地図が無い限り、ここを突破する事は出来ない。下手したら、一生出られないかも」
「そ、そんなあ!」
「それは怖い~!」
互いに抱き合ってブルブル震えるハルちゃんとユズちゃん。リンちゃんの声色がかなり真剣だから、余計に怖いのだろう。
「いや、正確には餓死すれば地上でリポップするかな」
「「ひぃ!」」
「こらこら、リンちゃん。怖がらせないの。でも、リンちゃんの言う通りこういう単調な道が続く迷路は凄く難しいわ。けど、安心して。ここの階層は比較的狭いから壁を伝っていれば、そのうちゴールにたどり着けるし、そもそも私の頭に地図が入ってるから」
基本的には道なりに進んで、分岐に来た時は右・右・左・直進・直進・左・左。はい、階段見っけ。
「敵はいないの? さっきからなんにもいない……いや、二回だけスライムに会ったっけ? それ以外はいないけど」
「いないよ」
「そっかあ」
「だから、ミノタウロスの所まで、魔力を温存できるね」
◆
なんやかんやあって無事58層まで進むことができた私達。58層でも下層へつながる階段を見つけたのだけど……。
「あ、階段発見!」
ハルちゃんがびしっと指をさす。可愛い。
「と思うでしょ? けどね、あれは罠なの」
「わ、罠?!」
「踏んだらヤバい?」
ハルちゃんはビク!っと体を震わせ、リンちゃんは興味深そうに階段の方を見つめていた。あー、うん。罠って言い方は良くなかったかな。
「うんん、命の危険はないよ。けど、あの階段を降りると59層に行ってしまうわ。そしたら、お肉とは戦えない」
「「「?」」」
「言ってしまえば、そっちは正規ルート。けど、ミノタウロスがいるのは隠しルートの方なの」
「か、隠しルート!」
「カッコいい響き」
「なるほど~! このまま先に進むと、お宝には巡り合えない。興味深いね!」
「という訳で、まだ進むよ。こっちこっち!」
…
……
………
「あ、また階段。けど、今度は上向きの階段?」
「ヒメ、これってスタート地点の階段じゃない? 景色も似ているし」
「もしかして迷子になっちゃった?!」
「大丈夫だよ。ここはスタート地点にそっくりだけど、違う場所だから。先を急ぐよ」
私は上向きの階段に足をかけた。
「え、でもそっちは……」
ユズちゃんが私に待ったをかける。そりゃあ、そうだよね。だって私、階層を戻ろうとしているのだから。でも、こっちで正しい。
「うんうん。そう思うよね。でも大丈夫。こっちであっているの」
三人はきょとんとした表情になる。が、ユズちゃんがなるほどと言うように手をポンと叩いた。
「な、なるほど~! つまり、ミノタウロスの間に行くには、階層を上がったり下がったりしないといけないって事ね♪」
「ユズちゃん、正解!」
そう。ミノタウロスの間へたどり着くには、ただ階層を降りるだけではだめなのだ。
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