第38話 侍女の心境
最近噂のアイーヌは、今日も廊下をこそこそと歩いている。
最近はこのように歩かなければならない場合が多くなっていることに、アイーヌはだんだん嫌気がさしてきていた。
(本当は……こんな生活、したくないのよ。けれど、家を存続させるためには、家族を守るにはお金が必要なの。だから、私がやるしかない)
自分のやっていることがどんなに悪いことなのか、それは十分に理解している。しかし、今更引き下がるわけにもいかないアイーヌ。
悪いことをしているという自覚がある反面、自分のやっていることは正しいと、心のどこかに行動を正当化させたいという気持ちが存在しているようだ。
(どうせ薬を盛るなら、シェイラ様ではなくクララ様だったら良かったのに。そうしたら、落ちこぼれ王女の侍女からも解放される)
なぜかシェイラに薬を盛ることになってしまったアイーヌ。おそらくはクララを女王に据えて後ろで操ろうという考えなのだろう。
けれど、アイーヌはその作戦に対する不満の意を隠せない。
どうせなら、自分がとてつもなく
それだったら、自分が捕まってしまう可能性があるにしても喜んで受け入れたのに。
(しかし……今までクララ様をいじめろと言っていた依頼人は、なぜいきなりシェイラ様に毒を盛りたいと言い出したのかしら。
クララ様が命令したなどというのは絶対にあり得ないし……)
アイーヌは、幾度となくシェイラのことを慕うクララの言葉を聞いてきた。いくらクララを嫌っているとは言えど、そういうところは信用しているようだ。
(まぁ、私には関係ないわ。さっさと今日の分を終わらせてしまおう)
シェイラの部屋へ向かうアイーヌ。周りの人々の目線には十分に注意して、小走りで移動をしている。
そんなアイーヌも、依頼人の正体は知らなかった。
その依頼人が、まさかシェイラのすぐ近くにいる人物だったとは、誰も思っていないのだった。
***
「クララ様、今日、一緒に帰ることは出来ますか?」
朝、満面の笑みがクララのことを出迎えた。その笑顔の正体は、やはりエリックである。
クララは、いきなりの誘いに困惑した。
「えーっと……エリック様? どういうことかしら?」
「言葉通りの意味ですよ」
クララに問い返されてしまっても、めげずに笑顔を浮かべ続けるエリック。どうしてもクララと一緒に帰りたいらしい。
けれども、その優しい眼差しは、よりクララの頭の中を混乱させてしまった。
(……どういうこと? 私は普段通りに過ごしているだけなのに、なぜかエリック様が一緒に帰りたいと言っているわ)
「クララ様、それで、質問の答えは……」
全く答えの出ていないクララに、答えを急かすエリック。
そんなエリックに対し、混乱が解けていないまま、クララは勢いで言ってしまった。
「いいわよ。一緒に帰っても」
という、肯定の言葉を。
「わぁ!! 本当ですか!? ありがとうございます!! それでは、放課後、楽しみにしていますね」
あどけなさの残る笑顔を浮かべ、一礼してから去って行くエリック。
一方のクララは、エリックのこの言葉によってやっと自分が行動を誤ってしまったことに気がついた。
(あれ!? もしかして、肯定しちゃったかしら!? ……どうしよう。肯定するつもりなんて無かったのに)
しかし、今更慌ててもしょうがない。肯定してしまったという事実は、覆せないのである。
この日、クララはしぶしぶエリックと帰ることにしたのであった——。
つづく
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