第37話 侍女と、転入生

 一日目。キョロキョロと周りを見渡してからシェイラの部屋に入ったアイーヌ。手には小さな白い袋を持っていた。


 二日目。アイーヌの部屋から不気味な笑い声が聞こえてくる。隣の部屋の侍女から苦情が来ていた。


 三日目。アイーヌが部屋から小さな白い袋を持って出てくる。シェイラの部屋に入る際も引き続き白い袋を持っていた。


 四日目、五日目も同じような様子が監視魔法を通して発見されている。


「うーん。これはアイーヌさんが犯人とみて間違いないかもしれないね」


 クララからの報告を聞いて、ライリーが腕組みをしながらつぶやく。


その報告をした当人であるクララも同じ見解に達していた。


「そうなの。明らかに怪しいところが多くて……。まだ犯人だと確信できる証拠は無いけれど、白い袋は怪しいと思わない?」

「うん。確かに怪しい」


クララの言葉に、強く頷くライリー。クララもライリーも、お互いの意見が一致していることを知って確信が持て始めたようだ。


「俺も、得た情報を共有するね」

「えぇ、お願いするわ」


ライリーは数日の間、アイーヌと仕事をしていたと考えられる人物や最近接触した可能性のある人物にアイーヌの様子を聞いて回っていた。


聞いた人物の証言全てに共通していたのは、最近のアイーヌの様子がおかしかったということ。


そして、怪しいと思って後を付けてみたら、アイーヌが白い粉を白い袋に詰め、それをシェイラに飲ませていたと証言する人物もいた。


その白い粉は、明らかに医者から出されている薬ではなかったらしい。


「じゃあ……アイーヌが姉様に何かを持っているということかしら?」

「今までの話を合わせて考えると、そういうことになるね」


さらにアイーヌが犯人の可能性が高まった。あの白い袋は、何らかの薬品なのだろう。


とにかく、シェイラの体をむしばむ何かだ。その正体が何かさえ分かれば、後はアイーヌを問いただすだけになるのに。


「シェイラ様に、聞いた方が良さそうだね」

「そうね」


アイーヌにどんな薬品を渡されているのか、シェイラに尋ねようと決心すると、二人はしっかりとうなずき合う。


こうして、二人の次にやるべき事が決まっていったのであった——。



***



 朝早くから屋上で話をしていたクララは、教室に戻って来た。


「あ、クララ様。おはようございます」

「おはようございます」


とびっきりの笑顔でクララに話しかけてくる男子生徒。彼は、先日この1年C組に転入してきたエリック・スレア。


1年C組は比較的穏やかに過ごせる場所とは言えど、彼は転入初日からクララによく話しかけに来ているのだ。


「今日も実技がありますよ!! クララ様、頑張りましょう!」

「え、えぇ……」


エリックの元気な声に腰が引けてしまっているクララ。しかし、エリックは明るさを保ったままクララに話しかけ続けている。


そんなエリックの心境は、こういったものだった。


(だって、クララ様が本当の実力者だと知っているのだから……。なぜ隠しているのかを突き止めるまでは、僕もこの場を離れられない。

兄さんに見つかる前には帰りたいけど)


クララはすでにエリックに実力者だとバレてしまっている。


クララはそのことには気づいていないのだが、なぜかエリックから熱い視線が向けられていることだけには気づいたよう。


(エリック様は……なぜ私と仲良くしたがるのかしら。それに、どこかライリー様と似ているような……)


クララは、何か引っかかるような気がしながらもシェイラのことに気を取られ、エリックの正体に気がつかないまま一日を終えたのであった——。


                               つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 金曜日 07:20 予定は変更される可能性があります

美しき輪舞〜平穏無事に生きてみせます!〜 蔵樹紗和 @kuraki_sawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ