第35話 新たな動き

「監視魔法に、やっと動きがあったんだ」


 クララが何日も何日も待ち望んでいた言葉が、やっとライリーの口から発された。


 うれしさで舞い上がりそうなクララは、ライリーの目を食い入るように見つめる。


「今までは無かったんだけど、ここ数日、毎回同じ時間に映像が映らないときが合ったんだ」

「それって……ライリー様の魔法を妨害できる人が現れたってこと……?」


 クララは腕組みをしながらライリーの話を聞いている。


 ライリーは、そんな真剣なクララの返事に大きく頷いた。


「そういうこと。そして、犯人は俺たちの動向に気づいている。監視魔法を妨害すると言うことは、その人が犯人。つまり……」

「犯人は、王宮に出入りしている」

「うん」


 再び大きく頷くライリー。それを聞いたクララは、少しホッとする。


 これで、シェイラの病気はただの病気ではないということが明らかになった。しかし、その正体は一体何なのか。


 まだ不透明なところが多すぎる。


「それで、クララ様の方にも何か引っかかっていないわよ。毎日見ているけど、なーんにも。だから、ライリー様が来たときにすぐに気づけなかったの」

「……じゃあ、犯人はクララ様の監視魔法には気づいていないのかな」

「多分……」


 首を傾げながらもクララはとりあえず頷いてみる。やっぱりわからないことが多い。


 でも、クララとライリーの現在の状況を考えれば、犯人はクララの監視魔法に写っているということであり、頑張れば特定できるかもしれないということだ。


「この人怪しそうだな……って人は?」

「いなかったわ。というか、そんなこと言ったら私にとっては姉様とライリー様以外の全員が不審な人よ。まだいじめは続いているのだから」


 急にクララの顔が暗くなる。


 最近は直接的な攻撃は減ったとはいえ、遠回しに嫌味をいってくる人は何人もいるのだ。それに、今まで負ってきた傷は簡単には癒えない。


 クララの人間不信は未だ健在なのだ。


「そっか……じゃあ、写っている人を片っ端から調査していこうか。クララ様が信じられない人、全員」


 クララが安心できるように、笑顔で話しかけるライリー。


 一方、そんなことを言ってもらえるとは思っていなかったクララは、驚きのあまりこれでもかというほど目を見開いている。


「……いいの?」

「うん。信頼できない人は片っ端から調べていった方がクララ様が納得するでしょ?」


 その通りだ。人間不信になってしまっている者にとって、証拠が無ければ何も信じることは出来ない。


 ライリーは、それを察してこの提案をしてくれたようだった。


「……ありがとう。ライリー様」


 クララの最上級の微笑みが、ライリーに向けられた瞬間であった。



***



 クララがライリーに連れられてカフェテリアにいた頃の学校では——。


「ねぇ! なんであの落ちこぼれ王女クララ様ライリー様王子様と仲良くしてるのよ!!」

「信じられない。今はシェイラ様が苦しんでいるというのにあの落ちこぼれは……。一体何を考えているんだ!」


 クララへの不信感は大きくなるばかり。明らかにライリーが声をかけていたはずなのに、いつの間にかクララが悪いことになってしまっている。


「ライリー様、きっとあの落ちこぼれに脅されたんだわ。あぁ、お可哀想に。私たちであれば絶対にそんなことしないのに」

「ホントよ。あの王女、ヒドいことをするわね」


 本当に悪いことをしているのか分からないのに——いや、明らかに何もしていないのにとんでもなく悪いことをした人間のように扱われている。


 今ここにクララがいたら、またもや怒って魔法を爆発させてしまっていただろう。


 ちなみに、1年C組の人たちは悪口を言わずに黙り込んでいる。クララがすごい魔法を使えると、身をもって経験しているからだ。


 しかし、他の人にそれを言う勇気は無いため、クララの助けには入れないでいた。


 そんな時、更に事を大きくする人間が現れる。


「皆さん、これで分かったでしょう。クララ様がどれだけヒドい人間か」


 人々の真ん中に立つ一人の女性。クララの良くない噂が流れ始めたときに噂に乗っかろうと発言していた人物だ。


 彼女の言葉に、不信感を募らせている人物全員が顔を縦に振る。


「ですから、私は思うのです。彼女を、この学園から追放させるべきだと。皆さんも、そう思いませんか?」


 無害の人間を追い出そうとする。そんな考えを表明した彼女は、不気味なまでに笑っていたのであった——。


                               つづく

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