第34話 調査開始

「よし、設置完了っと…‥」


 自分の部屋の前の天井へ、通りかかった人物にバレないような位置に設置し終えたクララ。


 すでに他の場所も設置済みなので、これで調査のための準備は完了したことになる。


「さぁ、これからデータの収集に入りますか」


 監視魔法のデータ収集。それは、使用者本人のみが行うことのできる作業で、脳内で一連の動きを早送りにして見ることができる。


 もちろん、気になるところがあれば、自分の意思で巻き戻したり止めたりすることもでき、ステータス画面のような感じで周りの人に見えるようにすることもできるのだ。


 今回、クララがクララの部屋の前とシェイラの部屋の前の監視を、ライリーが城の前の監視と他にこういった症例がないかを調べるといった役割分担だ。


「録画記録の再生〈発動〉」


 クララの透き通った声が部屋中に響き渡る。


 すると、クララの体全体からやんわりとした魔力の光が発せられると同時に、クララの脳内で監視魔法による録画映像が再生された。


(えーっと、どこか変なところは……)


 注意深く流れてくる映像を見ていく感じ取っていくクララ。10分程度見ていたのだが、あまり変なところが見つからない。


(今日のところは大きな動きはないようね。ひとまず安心だわ)


 ほっと胸を撫で下ろすクララ。と、ここで忘れてはいけないとライリーに思念通話魔法を送る。


『ライリー様』

『お、クララ様。何か動きはあった?』


 すぐにライリーからの返答が返ってきた。


 しかし、特に伝えるべきことが無いクララは、それを正直に伝える。


『いえ……特になかったわ。ライリー様は?』

『こっちも全然。症例の方も本を2冊くらい読んでみたけど、全く見つかんなかった』

『そう……』


 ライリーも特に目立ったことを見つけられなかったと聞いて、気落ちするクララ。それをくみ取ったライリーは、クララに慰めの言葉をかける。


『まぁ、まだ設置したばかりだし。これからも引き続き調査をしていこうよ』

『……えぇ、そうね』


 仲間がいるのはとても心強い。クララは、少し前向きに考えられるようになったようだ。


『じゃあ、学校でまた話し合うから、屋上で会おう』

『分かったわ! 屋上ね。じゃあ、また明日!!』

『うん。また明日』


 こうして、クララとライリーの会話は終了する。自分の目的もあるのに手伝ってくれている仲間のためにも、クララは頑張ろうと気を引き締めるのであった。




***



 数日後。


 クララは、いつものように教室で準備をしていた。


 未だにわざわざ廊下から文句を言ってくる生徒もいるが、クラスではなんともないためたいして気にしないようにしている。


 そんな中、人だかりをかき分けかき分けクララの元へ向かう人物の姿があった。


「クララ様!」


 1年C組に、他クラスの生徒の声が響く。滅多に他クラスの生徒が来ない教室なので、クララのみならずクラスメイトたちもそちらに顔を向けた。


「ら、ライリー様?」

「ごめん、クララ様があまり目立ちたくないのは知ってたけど、早めに伝えた方が良いと思って」

「何が、あったの?」


 ライリーの慌てように大事な内容だと悟ったクララ。驚いた表情から真剣な表情へと切り替える。


「ここだと話しづらいから……ちょっとついてきて!」

「え、えぇ……」


 クララの腕をしっかりつかむと、ライリーはまた人だかりをかき分けて走って行く。


 普段なら絶対にしない行動に、クララはもちろん、その二人の様子を見た学園の生徒たちも固まってしまうほど驚いてしまったのであった——。



***



 二人がやってきたのはカフェテリア。始業前なので普段なら人がたくさんいるはずのこの場所も、今はシンとしている。


「あ、あの、ライリー様? 何があったの?」


 この場所で立ち止まったライリーに声をかけるクララ。ライリーは、少々息切れしながら話を始めた。


「監視魔法、設置、したでしょ?」

「え、えぇ」


 大きく頷くクララ。それを見たライリーは、そのまま話を続ける。


「やっと、動きが、あったんだ。王宮の、入り口の監視魔法に、引っかかるところが」

「……!!」


 それは、クララが待ち望んでいた言葉。もしかしたら、シェイラを助けられるかもしれない。


 そう思ったクララは、食い入るようにライリーの目を見つめるのであった——。


                              つづく

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