第32話 思い当たること

 シンとした空気が流れ続ける。


 シェイラがなぜ魔力不足症になってしまっているのか。その手がかりなど、毎日一緒に過ごしている人でない限り、すぐにはわからない。


 だからと言って他に信頼できる人がいない今、自分たちで考えるしかない。


 思い出せ、思い出せ。


 脳に向かってそう命令をしながら、記憶を辿り、魔力不足症の原因を探ってみる。しかし、なかなか思い当たる記憶は出てこない。


「やっぱり……すぐには出てきませんね」

「うん。私も何も思いつきません……」


 ライリーとクララは先程まで組んでいた腕をほどき、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「そう……やっぱりそうよね。私でも何も思いつかないのだもの。二人はもっと分かりにくいわよね」


 しょぼんと肩を落とすシェイラ。そんな様子を見たクララとライリーは、慌てて弁護をする。


「あ、でも、関係がありそうなところは全て話してみませんか? もしかしたら気づくことがあるかもしれないですし!」

「そうですね。試しに言ってみましょう」


 クララの意見に賛成するライリー。


 シェイラはクララとライリーの顔を交互に見ると、うん、と大きく頷いた。


「そうね。確かに、それは大事だわ。じゃあ、まずは病気が発症した頃の話をしてみるわね」


 少し前のことに思いを馳せるシェイラ。少しでも役に立ちそうなことは全て口に出す。


「そうね……。まず、発症したときはひどい熱が出たの。それを心配したお父様とお母様がお医者様を呼んでくださったわ」


 ここまでは、何も怪しいところがない。両親が子供を心配するのは当たり前だ。


 クララとライリーは、まずはひっかるところがないことをアイコンタクトで確認する。


 最も、クララは自分とシェイラへの両親の態度の違いを考慮した上でのこの考えなのだが。


「それで、お医者様に見てもらったら『魔力不足症』だと診断されて……。私のことが心配だからと、一週間ぐらいずっと私の部屋に両親がへばりついていたわ」

「「……!?」」


 この国の国王と王妃がシェイラの部屋にへばりついていたという事実を初めて聞いたクララとライリーは、目を見開いて固まってしまう。


 なぜ国王と王妃が娘の部屋に一週間も居座るのか。そんなことをしては、政務が全く行われない上に国の存続が危うくなる可能性だってあるのに。


 特に他国の王子であるライリーは隣国がそんな国だということを知って恐ろしくなった。


「そうよね……。一週間もへばりついているのはおかしいわよね」


 二人の驚く表情を見て、言わんとしていることを察したのか、シェイラは苦笑いを浮かべている。


 その苦笑いにクララとライリーも応じた。


「はい。父様も母様も何を考えているのやら」

「うん、俺が聞いてもおかしいと思う」


 うん、とクララの言葉に強く頷くライリー。こうしていると、シェイラの魔力不足症が治らないのは両親のせいなのではと思ってしまう。


「これは……色々調べてみる必要がありそうですね」


 クララが腕組みを始め、頭の中で考えを巡らせる。そんなクララに、シェイラは疑問の言葉を投げかけた。


「何を調べるの?」

「例えば……父様と母様の行動、学校で危険そうなところの捜索、それから、侍女たちの行動を探るといったところですかね」


 調べる対象の例を挙げてみるクララ。


 ここで疑惑を向けられる対象になっている両親は必ず調べるとして、そのほかに魔力を奪えそうなのは学校か、王宮で働く者たちだろうと考えたようだ。


「それはいいかも。じゃあ、監視魔法でも設置しとく?」


 監視魔法とは、日本における防犯カメラのような役割を持つものだ。


 それを各所に設置しておけば、調査も楽に行えるという意見だろう。


「そうね。姉様、それでいいですか?」

「え、えぇ。協力してくれてありがとう、二人とも」


 シェイラがふわっとした微笑みを浮かべる。


 それを見たクララとライリーはお互いを見合わせて頷くと、話を進めた。


「じゃあ、準備を進めておきますね。絶対、姉様を苦しめる原因を突き止めます!!」


 クララが力強く意を述べる。


 こうして、シェイラの病気の原因突き止め大作戦が始まったのであった——。


                            つづく

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