第30話 シェイラの部屋へ

 クララの家の前、つまりマレイド王国の王宮の前で、ライリーは深呼吸をしながら立っていた。


『じゃあ、行ってくる』

『えぇ。私は部屋にいるから、合図をお願いね』

『うん、分かってるよ』


 先に王宮の中に入り、自分の部屋で待機中のクララと思念通話魔法で会話をしてから、もう一度深呼吸をするライリー。


 よし、と自分を奮い立たせてから門に立つ衛兵に話しかける。


「すみません」

「? 何だ?」


 学生に話しかけられたのが珍しいのか、あまり警戒せずに話を聞いてくれている様子だ。


 心の中で順調だと言い聞かせながら、ライリーは話を始める。


「俺、王立貴族学園の生徒会所属のライリー・ステラと申します。シェイラ様が現在ご病気と聞いて、お見舞いをと思ったのですが、面会することは可能ですか?」


 出来るだけいかにも生徒会のメンバーだと思ってもらえるよう、背筋を伸ばし、スマートな笑顔を向けるライリー。


 それを見た衛兵たちは、この者は嘘をついていないと判断したようだ。


「分かった。シェイラ様のお仲間だというのなら、入れ。ただし、面会時間は40分だ。いいな?」

「はい」

「それじゃあ、シェイラ様の部屋への行き方は城の中にいる者に聞いてくれ」

「分かりました。ありがとうございます」


 スマートな笑みは崩さず、そのままライリーは門をくぐる。


 そこからしばらく歩いて行くと、お城の入り口が見えてきた。


「すみません」


 ちょうど目の前を通った侍女に声をかけるライリー。クララが声をかけたときと違って、ライリーが声をかけたらすぐに反応した。


「何でしょうか?」

「あの、俺は王立貴族学園の生徒会に所属している者で、シェイラ様のお見舞いに伺ったのですが、シェイラ様のお部屋に案内していただけますか?」


 生徒会所属と聞いて安心した様子の侍女。軽く何度が頷くと、シェイラの部屋のある方向を指さす。


「このまま真っ直ぐ行った一番先の部屋です。今はシェイラ様も起きていらっしゃいますし、侍女もついていないので、ゆっくりお話になれると思いますよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 また笑顔を向けて去って行くライリー。侍女の視界から外れた途端、ライリーは早歩きでシェイラの元へ向かう。


『ねぇ、ライリー様? もう姉様の部屋についた?』

『もう少し。準備を始めておいて』

『分かったわ』


 歩いている途中、クララからの思念通話魔法が。


 ライリーは瞬間移動のために魔力を残しておかなければならないのに、魔力を使っているところに突っ込みたい気持ちを抑える。


 そして、部屋の前に辿り着いたライリー。


「すみません。シェイラ様。ライリーです。今、入っても良いですか?」

「へ!? あ、ライリー君? 良いわよ。入ってちょうだい」

「ありがとうございます。失礼します」


 ドアを開けるライリー。


 中に入ると、シェイラは布団の中で起き上がっていた。


「ライリー君が来るなんてびっくりしちゃったわ。今日はどうしたの?」

「シェイラ様のお見舞いです。あと、もう一つ。仲間の手伝いを」

「……手伝い?」


 首をかしげるシェイラ。そのうちに、ライリーは思念通話魔法を飛ばす。


『クララ様。今なら大丈夫』

『了解! 行くわよ……瞬間移動ワープ


 クララは自分の部屋から姿を消す。


 そして次の瞬間には、シェイラの前に姿を現していたのであった。


「姉様! お体は大丈夫ですか!?」

「く、クララ!?」


 驚きで目を見開いているシェイラ。作戦が成功したクララとライリーは、顔を見合わせて笑顔になった。


                               つづく

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