第29話 作戦実行

 そして次の日。


 クララとライリーの二人はシェイラの病気について知るため、シェイラに接触する方法を話し合おうと放課後に学園の屋上へやってきていた。


「で、ライリー様。何か案は思いついた?」


 クララはライリーと向き合うと、真剣な目でライリーに問いかける。しかし、一方のライリーは頭のてっぺんをカリカリと掻きながら苦笑いをした。


「ごめん。考えたんだけど、あんまり良い案が思いつかなくて……」


 自分も考えてみるといった矢先、結局思いつかなかったことを申し訳なく思っている様子のライリー。


 それに対し、クララは腕組みを始めた。


「そう……ライリー様でも簡単には思いつかなかったのね……」

「そういうクララ様はどうなの? 何か思いついた?」


 自分ばかり責められているような気がして口をとがらせているライリー。


 そんなライリーと目が合ったクララは、当然じゃないと言いたげな笑みを浮かべた。


「えぇ、良い案があるわよ。ただ、古代術式を使わなくちゃならないけど……」

「古代術式!?」


 ライリーがクララから聞いて驚いている「古代術式」とは、昔使われていた魔法の術式のことで、現在は魔力消費の観点や使いやすさの観点から使われなくなってしまっているものである。


 最近では使われなくなっているが故に改良も全くされていないので、相当な魔力量が必要になってくるため、古代術式と聞くとマイナスのイメージのみが定着してしまっているのだ。


「えぇ。私が考えたのは、私たちが自分から姉様のところへ行くこと。ただし、直接ではなく、古代術式の瞬間移動を使って、ね」

「瞬間移動……?」

「そう、瞬間移動。自分が行きたいと考えたところへ行ける魔法の術式を見つけたのよ。ただ、魔力の消費がものすごく激しいらしいけど」


 昨日図書室で読んだ本の内容を思い出しながらクララは答える。クララは、どうにか気づかれずにシェイラの部屋に行く方法が無いか考えたのだ。


「それって……大丈夫なの? シェイラ様の部屋に人がたくさん集まっていたら危なくない?」


 ライリーはクララの案の欠点について質問を投げかける。しかし、その質問が来ることを予想済みのクララは、誇らしげに返事を返す。


「大丈夫よ。策はちゃんと考えてあるの」

「……本当に?」

「本当よ。なんで疑っているの?」


 疑われてしまったことが気に入らないクララ。ライリーから顔をそらすと、頰を膨らませている。


 すねてしまったクララを見て、ライリーは内容をちゃんと聞かない状態で疑ってしまったことを反省すると同時に、クララの事をなだめる。


「ごめんごめん。それで? 具体的にどんな策なの?」

「……まず、ライリー様がシェイラ姉様のところへお見舞いに行くの。花束でも持ってね。そうしたら、ライリー様に中にいる使用人たちを追い払ってもらう」


 若干ふてくされながらもクララは話を始める。先程の反省を生かしてなのか、ライリーはより一層クララの話に耳を傾けた。


「それで、私に思念通話魔法を送ってもらえれば、後は私が部屋から瞬間移動をするから。そうすれば、人が集まることなく私が瞬間移動をすることが出来るでしょう?」

「あぁ、なるほど……」


 クララの説明を聞いて、良い意見だと感じたライリーは小さく何度も頷いている。


 それを見て、クララは得意げになった。


「どうかしら? 私としてはかなり良い案だと思うのだけど」

「うん、かなり良いと思う。俺は賛成だよ」

「本当!?」


 うれしそうな表情を浮かべてライリーに問い返すクララ。ライリーはそのクララの笑顔に、もう一度大きく頷いた。


「そうと決まれば、早く行くよ、クララ様。今から行けば今日中にシェイラ様に会うことが出来るよ」

「え、えぇ! 早く行きましょう!!」


 二人とも勢いよく立ち上がる。向かうのはシェイラのいる部屋。


 シェイラの現在の状態を確認するために、勇ましく歩いて行く二人なのであった。


                               つづく

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