第26話 本当の自分

 クララが3人の侍女たちにファッションの指導をしてもらっている間、クララを自分の家に呼んだ張本人であるライリーは、優雅に自室で紅茶を飲んでいた。


「ライリー様はクララ様に付き添わなくてよろしいのですか?」


 執事のジェイはカップに紅茶を注ぎながらライリーに問う。ライリーは、カップを手に取ってから首を横に振る。


「俺がいたら、クララ様は着替えられないでしょ」

「ですが、クララ様のドレス姿、見たくないんですか?」


 真剣な眼差しを向けてくるジェイ。ライリーは、いつもよりグイグイくるな、と思いつつも紅茶を口に運んだ。


「ライリー様?」

「そりゃあ見たいけど、ファッションの指導が終わってから見に行けばいいだろう? なんで今日はそんなに積極的なんだ?」

「まぁ……ライリー様と、クララ様のためです」

「俺と、クララ様のため……?」


 笑顔と微妙に何かを隠しているようなその言葉になかなかピンとこないライリー。


 なぜ自分たちのために積極的に行動してくるのか、見当がつかない。ちょっと考えてみようと思ったが、どうしても答えが出せず、考えるのを放棄することにしたのだった。



***



「クララ様、今度はこちらを着てみていただいてもよろしいですか?」

「は、はい!」


 侍女の1人、ラナに差し出された服を受け取ると、横で待機しているルーナとスーファに渡す。


 スカート部分は水色が基調の水玉模様でカラフルな仕上がりになっているものに、黒いベルトを合わせている。


 それに合わせて上に着るのは紺色の布地に濃いめの水色のリボンを首の辺りに結んだ服だ。


「……クララ様には、水色が似合うのかもしれませんね。そのお洋服、よくお似合いですよ」


 服を着せられたクララの様子を見て、笑顔で言うラナ。その言葉に、ルーナもスーファも頷いている。


 しかし、自分の格好を褒められたことなどないクララは何が良いのか分からない。


 頭の上にハテナマークが並んでしまっているクララの頭に、ラナは手に取った髪飾りをつけた。


「クララ様はこの国で虐げられてしまっていると聞いています。ですが、私はクララ様は素敵な方だと思いますよ」

「え……?」

「だって、初対面の私たちに当たり散らしたりせずにちゃんと話を聞こうと耳を傾けてくださいました。噂の通り悪女なのでしたら、今頃ここで当たり散らしているはずですもの」


 クララを安心させるための微笑みを向けるラナ。他の二人も、とっておきの微笑みをクララに向ける。


「そうですよ、クララ様。私たち、悪い人は徹底的に排除する派なんです。そんな私たちに認められている時点で、誇って良いことなのです!」

「ルーナ、さらっと怖いこと言わないほうが良いですわ。まぁ、本当の事ですけれど」


 2人の微笑ましい会話を背にラナはクララの手を握ると、クララの目をしっかり見つめながら話を続けた。


「クララ様は、いつも苦労されております。ですから、こういったお節介をさせていただく際は、のびのびと本当の自分で過ごしてくださるとうれしいです」

「ラナさん……」


 そんな仲良くしてくれている3人の優しさがしみるクララ。控えめに微笑みながらうれしそうにラナがつけてくれた髪飾りに触れた。


「3人とも、ありがとう。そうね。せっかくあなたたちが協力してくれているのに、私が乗り気じゃなかったら意味が無いわ。

それに、急にこちらに連れてきたライリー様を驚かすぐらいでなくては。3人とも、色々教えてちょうだい」

「「「はい!」」」


 今日一番の元気の良い発声で返事をするラナたち3人。


 こうしてこのファッション教室は1時間にもおよび、先程の上着に薄ピンク色のワンピースを合わせて着ることに決めた。


 この日の夜、クララに話を聞いてみると、着替え終わったところを見に来たライリーはなぜだか顔を赤らめて「かわいい」と感想を言ったそうだ。


 そしてその様子をニヤニヤしながら見ていたジェイも印象的だったと語っていた。


 そして、クララがジェイのニヤニヤ顔の意味を知るのはもう少し先のお話——。


                              つづく

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