第19話 学園からの評価②

「は、針……」


 驚いたあまりに言葉が出てこないクララ。じっと自分の椅子の上を見つめたまま、固まったように動かない。


「なんで針が……?」


 不信感が募っていく。先程座ろうとした際に当たった針の痛みも、まだ残っているようだ。


 そんな風に驚いて固まってしまったクララが珍しかったのか、最近は悪口を言ってこなかったはずのクラスメイトたちからの悪口合戦が始まる。


「あら、なんで針が椅子の上にあるのかしら?」

「この前帰るときに落としていったのではなくて?」

「それは傑作だな。針を落としたのに気づかないだなんて」


 一人、一人と悪口を言う生徒が増えていく。それに伴い、少しずつクララの心が追い詰められていく。


 それでも、まだ考える余裕だけはあった。


(私、この学園に針なんて一度も持ってきていないわ! 私ではないはず……。なら、他の誰かが……?)


 そう、声に出して言いたいのに、声が出てこない。いきなりのことで、体がこわばってしまっているようだ。


「なんだよ。弁解の余地もないってか? 自分でやったことなのに大声を上げたことに対して?」

「ち、違……」

「違ったら誰がやんだよ。こんなこと!」


 絞り出してやっと出した声なのに、罵声に自分の声がかき消されてしまう。


 ここまで問い詰められてしまうと、辛さの反動で涙が出てきてしまいそうだった。


 それでもクララは、涙をこらえようと必死になる。涙を出してしまったら、またそれをいじられてしまいそうだったからだ。


「やっぱり、あのテスト結果はインチキだったんだわ。あのクララ様落ちこぼれ王女が定期テストで2番だっただなんてこと、あるわけないもの」

「そうよ! きっと王族の権力を行使して教員を買収したに違いないわ!」

「「「そうだそうだ!」」」

「「インチキ王女!」」


 どんどんヒドい罵声になっていく。もう、これ以上涙をこらえるのはできそうにない。


(何よ。ちょっと頑張りすぎただけじゃない。私だって、狙ってたのは10番位よ!)


 追い詰められていく辛さとちょっとした反抗的な考えが頭の中で混ざり始めてきたクララ。


 だんだん、こんがらがってきている。


(頑張ったことの何が悪いの? 頑張ったら責められなくちゃならないって、どういうことよ?)


 こんがらがった頭の中に、さらには怒りという感情も混じってくる。今度こそ、爆発してしまいそうだった。


「見ろよ。全く反論してこないぜ? 痛いところ突かれたみたいだな!」

「ふん! ざまあみろ!」

「インチキ王女なんて、この教室にいる資格はないわ!」

「そうよ! 出て行きなさい! この落ちこぼれ!」


 とうとうクラスメイト全員がクララのことを罵り始める。しかしこのとき、クララは悲しさではなく怒りの方が強かった。


 うつむいていた顔を少しだけ上げると、にらみつけるようにクラスメイトたちの顔を見る。


 クラスメイトたちはその顔を見てぎょっとした。何せ、いつものクララからは想像することのできない、今まで見たことのないような剣幕だったからだ。


 ——そう、クララの怒りは、沸点に達していたのだ。


「何よ! 私が良い点を取って何が悪いって言うの!? 私はあなたたちの人形じゃあなくて、人間よ! それに、私はインチキなんてしていない! そういうあなたたちの方がインチキじゃあないの!」


 今までおとなしくうつむいていただけのクララは、もうこの場にはいなかった。


                              つづく


 

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