第17話 両親の評価②
夕食の間。
今日は珍しく、クララたちマレイド王族一家が勢揃いしている。そんな珍しい日にも関わらず、この空間には物々しい雰囲気が漂っていた。
「……クララ」
「なんですか? 父様」
何を言われても動じなさそうなツンとした顔で言葉を返すクララ。それに対し、エルリッヒの方もクララをにらみつけた。
「また、騒動を起こしたんだってな」
「今日は、同級生の男子生徒と帰宅……だったかしら。アイーヌからは、友達でも何でもない男と聞いたわよ。なんて不謹慎な!」
エルリッヒにつづいて、セフィーラもクララに向けて悪口を言う。その表情は、まるでゴミを眺めているかのようだ。
しかし、そんなことを言われてもクララは眉をピクリともさせない。ただ、ジッと聞いているだけだ。
シェイラも、控えめにうつむいて凜とした表情でこの話を聞き流していた。
「どうした? もう嫌になったのか? 全く、辛抱ができない奴め」
「そうよ。もっと辛抱する力をつけた方が良いわ」
エルリッヒの横でうんうんと頷くセフィーラ。それでも、クララはだまり続けている。
「……クララ! なんとか言ったらどうなんだ!」
言い返してきても、嫌な顔もしていないクララにいらついたエルリッヒは、ガタン! と席を立ち上がると、クララに怒鳴り込んだ。
すると、クララはゆっくり顔を上げ、ジッとエルリッヒの方に向き直る。
「いえ。私からは今日お話しすることはありません。アイーヌから聞いての通りです。どんな会話をしていたのかなどはお任せいたします」
冷たい目をしたまま、ゆっくりと頭を下げたクララ。そう言うと、ゆっくりと立ち上がり、テーブルに夕食を残したまま、部屋を去っていった。
そのとき、ほんの少しの間にクララとシェイラが目配せをしていたことには、本人たち以外誰も気づいていなかった——。
***
30分後。
クララが部屋で待っていると、コンコン、と部屋の扉を叩く音が鳴る。
クララは、ゆっくり扉に近づいて扉を開けた。
「クララ。はい、持ってきたわよ」
「姉様、ありがとうございます!」
扉を開けると出てきたシェイラが持っていたサンドウィッチを見て、笑顔をうかべるクララ。
そう、これがクララとシェイラの考えた作戦なのだ。
***
時は遡り、夕食前の時間。
シェイラに相談し力添えを頼んだクララは、シェイラを自室に招くと、自分の身に何が起こっているのかを、正直に話した。
ライリーが家まで送ってくれたこと、それがアイーヌにバレて嫌みを言われたこと、そして、両親にバレてしまいそうでもしかしたらシェイラにも迷惑が及んでしまうかもしれないこと。
そうやって話している間、けなしたり笑ったりせず、真剣に耳を傾けてくれたことにとてもうれしく感じるクララ。
話が終わると、シェイラは腕を組みながら答える。
「つまり、お父様とお母様とあまり接触しないようにすれば良いのね……?」
「はい。父様も母様も、私がいなければ普通に過ごしていますので」
大きく頷くクララ。そのクララの返答に小刻みに頷きながら、シェイラは組んでいた腕を外す。
「なら、クララが部屋を早めに出てちょうだい。夕食が終わった後に、私がクララの分を持って行くから。そうすれば、あまり接触しないまま夕食の時間を過ごすことができるでしょう?」
優しく微笑みながら、シェイラは言う。そんな微笑みを見て、クララは少しだけ慌てる。
「そんな! 姉様のことを煩わせるわけには……!」
「良いのよ。ほら、言ったでしょう? たまには頼りなさいって。今回、クララに頼ってもらえたことがうれしいんだから」
とびっきりの笑顔をクララに見せるシェイラ。それだけで、クララは感極まってしまった。
「姉様! ありがとうございます!」
***
「姉様、今回、協力してくれてありがとうございました」
サンドウィッチを食べる前に、軽く頭を下げてお礼を言うクララ。そんなクララを見たシェイラは、またニコッと微笑んだ。
「良いのよ。それより、お腹すいてるでしょう? 早く食べなさい」
「はい! 姉様!」
うれしそうな表情をうかべながら、クララは思いっきり頷く。
こうして、両親からの嫌み攻撃は上手くかわせることができたのだった。
——そう、このときは。
つづく
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