第15話 嫌がらせ

「あ、アイーヌ!?」


 アイーヌ・リスター。彼女は、クララの専属侍女であるにもかかわらず嫌がらせを多くやっている一人。この国の子爵家の中でもかなり有名なリスター子爵家の三女だ。


「クララ様、先程のお方は……?」

「え? え、えぇっと……」


 これはまずい、と思った。専属侍女の中でも特に嫌がらせが多いアイーヌのことだ。ここで答えなければ、何をされるか分からない。その上、きちんと答えたとしても嫌がらせをされるだろう。


 クララは、上手くこの状況を打開する方法はないか、思考を巡らせる。話題を変える方法があれば、大丈夫だろうと考えてみた。


 しかし、焦っているところに良い案など出てくるはずもなく、打開するどころがそのままより問い詰められそうな案ばかり出てくる。クララの頭の中は、ほとんど真っ白になっていた。


「……クララ様……?」


 にらみつけるようにクララを見つめてくるアイーヌ。そんなアイーヌの声ではっと気がついたクララ。諦めがかなり含まれているため息をつくと、とりあえず本当のことを話してみることにした。


「彼はね、ライリー・ステラ様と言って、私が倒れたのを心配して、家まで送ってくれたのよ」

「はぁ……」


 精一杯の笑顔を向けるクララ。しかし、アイーヌは疑いの表情をうかべる。先程以上ににらみつけている。


「あら、信じられないのかしら。本当のことしか言っていないわよ? 信じられないのなら、先生方やライリー様に問い合わせてもらっても良いわ」


 笑顔のまま、真剣にアイーヌの目を見つめてみる。「問い合わせてもらってもいい」という言葉を発したことにより、先程よりはアイーヌからの疑いの目が晴れたようだ。


 しかし、クララが他の人と帰ってきたというだけでも気に入らないアイーヌ。とりあえず、クララに嫌みを言ってみる。


「そうですか。別に、友だちでも何でもないと言うことですね。なら、私は安心いたしました。……クララ様に、お友だちなど似合いませんから」


 その嫌みにイラッとくるが、クララは一生懸命その気持ちを飲み込む。気持ちを無にして、愛想笑いをうかべた。


「とりあえず、このことは国王陛下と皇后陛下にお伝えいたしますので、そのおつもりで」

「え? ちょっ、父様と母様に伝えるの!?」

「はい。クララ様が倒れられて、お方に送ってもらわれていた、ということを」


 わざと「友だちでも何でもない」の部分を強調して語るアイーヌ。これも、アイーヌからクララへの嫌がらせの一種だ。


 しかし、そんな小さな嫌がらせを気にしていないクララ。そんなことよりもこのことを両親に伝えられることの方が問題だ。


(どうしよう。また父様から嫌みを言われるわ。それに、ライリー様にも迷惑がかかってしまうかもしれない。それに、姉様にも)


 そう考えると、まずいことだと思った。今までは自分だけで済んでいた両親からの嫌みだが、今回ばかりは被害を自分だけで抑えられる気はしない。


 被害を抑えるためには、アイーヌに両親への報告をされないようにすることだ。どうにかアイーヌの気を変えることはできないのだろうか。


 クララは、アイーヌの様子を伺って、アイーヌの気を変えることができないか考えてみる。


 しかし、アイーヌの意思は堅いようで、アイーヌの気を変えることはできそうにもない。


「それでは、私は失礼いたします。クララ様落ちこぼれ王女様


 最後に、また嫌みを言い放ち、その場から去って行くアイーヌ。


 城の前に置いて行かれたクララは、両親の嫌みをどう交わすかで頭がいっぱいだった。


                              つづく

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