第14話 帰り道

 そっとベッドから降りたクララは、ベッドの横に置いてあった自分の鞄を取る。


 「送るよ」と言っていたライリーは、先生たちにクララが起きて今から帰るということを伝えに、職員室まで行っている。


 このあと、バレないように裏門で待ち合わせをすることになっていた。


「そろそろ……いきますか」


 クララは立ち上がると、ゆっくり歩き出す。はじめは少しふらついたが、医務室を出る頃にはふらつかなくなっていた。


 周りに人がいないことを確認しながら、廊下を歩いていくクララ。


 警戒しすぎな程に警戒していたためなのか、誰とも鉢合わせすることはなく、とりあえずほっとする。


 裏門につくと、先に医務室を出て行ったライリーが立って待っていた。


「ライリー様、待たせちゃったわね。ごめんなさい」

「大丈夫。人目につく前に早く出よう」

「え、えぇ」


 ライリーは、クララが頷いたのを確認するとそそくさと出ていく。クララの通学路とは違う方向に行っているものの、クララもそれについていった。


 歩いて行く途中、綺麗な花がたくさん咲いていたり、ステンドグラスがとても素敵なお家があったりして、クララの目には輝いて見えた。


 そんな道を歩いていくと、クララの普段使っている通学路の道に辿り着いた。


「こんな抜け道があるのね。知らなかったわ」

「この方が、人に見られないで歩いていけるでしょ?」

「えぇ。あなたって、よく知っているのね。この国の出身じゃないのに」


 純粋に褒めるクララ。それを聞くと、少しだけ照れるような仕草をしたライリーは、控えめに微笑んだ。


 何かあるような笑みだったが、何も気にしないことにしたクララは、ゆっくりと歩いて行く。後ろからは、ライリーがついてきた。


「クララ様って、勉強できたんだね」


 唐突に学力の話に変えてくるライリー。クララの様子を見て、もうその話をしても良いと、判断したのだろう。


 クララは、ライリーに顔を向ける。そして、少しだけ後ろに下がると、ライリーの横に並んでみる。


 周りに誰もいないため、少しだけなら並んで歩いていても噂にならないだろうと判断してのことだ。


「そうね。あれはちょっとびっくりしたわ。私としては、20位位を狙っていたのに」

「じゃあ、よっぽど周りの人たちの出来が悪かったのかな」

「あら、それを言うとあなたもということになるわよ。何せ、あなたと私は1点差なんだもの」


 少しだけ意地悪っぽく言ってみるクララ。するとライリーは、ムッとした表情で言い返す。


「でも、倒れるくらい驚くのは、ちょっと大げさすぎる気がする。普通、あそこで倒れない」


 言い返されてイラッとしたクララは、プイッとそっぽを向いて反論する。


「しょうがないじゃない。今まで『落ちこぼれ王女』としか呼ばれて来なかったのよ。褒められるのなんて、慣れていないのよ」

「あの場に立っていた人たちは褒めてなかったけど?」

「そ、そこは関係ないわ!」


 顔を真っ赤にしているクララ。そんなクララを見たライリーは、プッと吹きだしてから大声で笑う。


「その顔、赤くしすぎ……!」

「な、何よ……プッ、あははは!」


 ライリーにつられてクララも笑う。


 二人でしばらく笑っていると、城のすぐ近くまでやってきていた。


「あ、もうついたみたい。俺がいると迷惑かもしれないから、もう帰るね」

「えぇ。ありがとう。ライリー様」

「どういたしまして。じゃ、また明日」

「えぇ、また明日!」


 笑みをうかべてライリーに手を振るクララ。ライリーも、去って行きながら手を振っていた。


 そうして、クララが城の中に入ろうと体の向きを変えたそのとき——!


「クララ様……? 今のは……?」


 クララにとっては聞いたことのある声が後ろからかけられる。


 声がした方向に立っていたのは、買い出しに出ていたクララの専属嫌がらせをしてくる侍女だった——。


                              つづく

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