第12話 結果と戸惑い
定期テストが終わって2日後の朝。クララは、いつも通り通学をしてきていた。
しかし、校舎に入ってみると、いつもと様子が違っていることに気づく。
「あら? 何かあったのかしら」
廊下の壁のとある一角に人だかりができているのだ。
しかも、そこに並んでいる生徒たちは、口々に「信じられない」や、「なんで……?」といった言葉を発している。
それを見て気になったクララは、人だかりの一番後ろに行くと、ジャンプをしながら壁に貼ってあることの内容を見ようと試みる。
しかし、並んでいる生徒が男子生徒ばかりのためか、なかなか前を見ることができない。
(ここで魔法を使って奥を見るわけにもいかないのに……。どうしようかしら)
と、そのとき。後ろから聞き慣れた声がかけられる。
「あれ、クララ様。どうしたの?」
「ラ、ライリー様」
振り向くと、そこには学園での数少ないクララの味方であるライリーが立っていた。
クララは、さっと周囲の視線を確認すると、ライリーの方に一歩だけ近寄った。
「周りに人がいるときはあまり話しかけないでって言ったじゃない」
クララは小声でライリーに話しかける。周りにはその声は聞こえていないようで、仲良くしているとは思われなかったようだが、いつバレるかは分からない状態だ。
「あ、そっか」
はっと口に手をやるライリー。ふたりは、何事もなかったかのように前を向くと、一歩分間を開け、前を見ようと背伸びをする。
しかし、ふたりの会話はこっそり続いていた。
『それで、この人の集まりはなんなの?』
『それが……。私にも分からないのよ』
思念通話魔法。それは、心の中を通じ合わせることで口に出さずに会話ができるという魔法だ。
高度な魔法だが、習得してしまえば少ない魔力量でできるので何かと便利な魔法。恐らく、学園卒業生のうち30%ほどの生徒は習得してから卒業する。
しかし、魔導師になる場合、この魔法を習得していない者は必ずと言っていいほど魔導師試験で落とされる。
高度な魔法であるというのにそれだけ重要視されている魔法だ。
『あ、もう少しで見えそう』
『ホントに? 見えたら何が貼ってあるのか教えて』
『了解』
ライリーの首が少しだけ縦に動く。そして、変わらず背伸びをして前を見ようとしている。
しばらくふたりの会話に沈黙が走る。
しかし、その沈黙と背伸びの状態に終止符を打ったのは、やはり身長の高いライリーだった。
『学力考査、上位成績者……? って、えっ!?』
『?』
ライリーが少しだけ後ろに後ずさりする。その後、大きく目を見開き、口の辺りに手が添えてある状態で固まってしまった。
ライリーが驚いた意味が分からないクララ。不思議そうな表情でライリーの顔をのぞき込む。
『ライリー様? どうしたの?』
『あ、えっと……』
なんだかライリーの歯切れが悪い。何があるのかさらに気になってしまったクララは、にらみつけるかのように正面を見続けているライリーの目をジッと見つめる。
その目力に圧倒されてしまったのか、ライリーは観念して説明を始めた。
『今、壁にテストの成績が張り出されててね、1位は俺だったんだけど、問題は2位の方で……』
『? 2位の人がどうかしたの?』
『……クララ様が、俺と1点差で2位になってる』
『……へ?』
ライリーの通話から出てきた言葉は、落ちこぼれと言われているクララの生活からは考えられない言葉であった。
「そ、そんなの嘘でしょう!」
自分のことなのに信じることのできないクララは、思念通話魔法で会話をしていたことをすっかり忘れて、声に出してしまう。
その上、よっぽどショックだったのかクララは床へと倒れ込む。間一髪のところでライリーが受け止めることに成功したが、学園の廊下にはクララの「嘘でしょう」という言葉がこだましていた。
つづく
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