第11話 定期テスト

 さらに3週間が経った。


 今日は、年に3回行われる定期テストの日。1年生にとって初めてのテスト、と言うこともあってか、生徒達の間には、いつもと違うピンと張り詰めた空気が漂っていた。


(やることは……やったわ。あとは、解くだけ)


 いつも強気なクララだが、この日ばかりは緊張していた。


 ここの学園は魔法の実力を重視しているため、テストの点数が高かろうが実力が低いと下のクラスに入ることになる。それは別にいい。しかし、いくら実力重視だからと言ってテストで赤点をとると退学となってしまうのだ。


 学園卒業の資格も持っていない令嬢など、まともな企業は雇ってくれないため、国を出るつもりのクララは、卒業資格をゲットしなくてはならないのだ。


(落ち着いて解けば、大丈夫)


 気持ちを落ち着けようと、深呼吸を始めたところで、鐘が鳴る。最初の科目の5分前を告げるものだ。


 そのせいで、やっと落ち着いてきていたクララの心臓も、またまたバクバクと鳴り始める。


「それでは、テスト用紙を配ります」


 担当の先生が入ってくる。周りの人たちからも、余計に緊張感が漂ってきていた。


(とにかく、のびのびとやった方が良い点になるわよね)


 そう、自分に言い聞かせるクララ。それでも、心臓のバクバクは止まらない。クララは、暗示をかけるように何度も何度も深呼吸をする。


 そんなときに、テスト用紙が配られた。また心臓が跳ね上がりそうになるが、言い聞かせていたことで、少しだけ心が軽くなったような気がする。


(よし、やれるわ)


 こうして、なんとか気持ちを取り戻したところでテストが始まったのだった。



***



「これで、テストの全課程を終了します。皆様、お疲れ様でした」


 1年生たちだけに限らず、他の2、3年生のクラスの人たちまでも友達同士での話を始める。


 今回のテストのここが難しかっただとか、とても緊張しただとか、そういった話が学校中飛び交っている。


「さっさと帰ろう」


 もちろん自分のクラスに話す相手などいないクララは、さっさと荷物をまとめて教室を出ていく。さすがに今日はあのライリーもクララのところにはやってこなかった。


 しかし、だからといって何も言われないわけではない。


 校庭を歩いている際も、「落ちこぼれ王女のくせに」だとか「あなたがいて良い場所じゃないのよ」などと悪口を言われた。


 しかし、言われ慣れているクララは、何も気にせず早歩きで歩いて行った。そんなとき。


「クララ」


 後ろから、ぽんと優しく肩を叩かれる。クララが後ろを振り向くと、そこにはシェイラが立っていた。


「姉様!」

「もし良かったら、一緒に帰ってもいいかしら」

「は、はい! 姉様とならいつでも!」

「そう、ならよかった」


 素敵な微笑みをうかべるシェイラ。それにつられてクララの顔も笑顔になる。仲良しの素敵な姉妹に見える空気が一帯に漂っていた。


「クララ、今日が初めてのテストよね。どう? 手応えは?」


 好奇心旺盛な様子でクララに問いかけるシェイラ。クララは、少しだけ考えた後、またニコリと微笑みをうかべる。


「えーっと、少なくとも、全教科赤点は回避できたと思います。姉様はどうでしたか?」

「私はいつも通りよ。でも、良かったわ。クララが大丈夫そうで」


 無邪気な笑みをうかべると、シェイラは機嫌が良さそうに歩きにステップを加える。スキップのようなその歩き方に、クララは少し笑ってしまう。


「あの、姉様でもそんな風に歩いたりするのですね」

「そりゃあそうでしょう。私だって人間よ。クララと一緒」


 その一言に、クララは少し泣きそうになる。自分の憧れの存在であるシェイラが、自分と一緒と言ってくれたのだ。


 涙を抑えようとしながらも、クララは心の中で舞い踊る。ますますシェイラのことが好きになった。


「ありがとうございます。姉様」

「どういたしまして。さあ、早く家に帰りましょう! クララがイヤな目に遭ってはダメだから、入るときは別々でね」


 クララに軽くウィンクをするシェイラ。迷惑がかからないようにと配慮をしようとしてくれているシェイラにまたも感動したクララは、大きく頷いた。


「はい! 姉様!」


 こうして、仲良し姉妹の2人は、楽しげに話をしながら帰って行ったのだった。


                                つづく

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