第10話 昼休み
クララたちがこの学園に入学して約1ヶ月が経った。
妖魔を倒したことは、ライリーが倒したと全面的に言っていたため、クララのことはバレていない。
そのおかげとも言えようか、今現在もクララは周りから避けられ続けている。しかし、そんなことはお構いなしに毎日を過ごすクララ。その様子を見ていた周りは、避け続けているものの悪口を言う回数は少なくなってきていた。
ただし、それは
「はぁ……」
「? どうしたの? クララ様」
お昼休みであるこの時間に、人がほとんど寄りつかない屋上に集まっているクララとライリー。
クララは屋上に着いた途端にため息をついた。それを心配したライリーは、クララの顔を少し覗き込むようにして話しかける。
「どうしたもこうしたも無いわよ。周りの人たち、よく悪口を言っているヒマがあるなと思って」
「あぁ、確かに」
あきれたようにため息交じりの嘆きを発するクララ。ライリーも苦笑いをしている。
「もうすぐテストだってあるのに、うちのクラスはまだいいとして、他のクラスの悪口を言ってくる人たちは全力を出せるのかしら」
「ま、周りの人はどうでもいいことだと思うよ。自分たちの成績さえ良ければ」
さらっと言い放つライリー。周りの反応など、どうでもいいようだ。
ライリーの答えが他の人と全く違う考えだったため、少し面白いと思ってしまったクララ。控えめに笑う。
「あなたらしいわね。そんな様子を見ていると、ときどきあなたが隣国の王子だってことを忘れそうになるわ」
少しだけ嫌みのように言ってみるクララ。王子様と呼ばれているのに、周りとは違うので、少し安心したのを隠そうとしての行動だ。
「クララ様には言われたくないな。周りからは嫌われてるし、国の平和のためにどうするべきかを考えないし」
真顔で言い返すライリー。そのクララの言葉に、少しはカチンときたようである。
「私はどうでもいいのよ。大きくなったらこの国を出て行くつもりだし」
少々頰を膨らませながらも、同じく真顔で言葉を返すクララ。ライリーの顔を見る気にはなれず、そっぽを向いてしまう。
しかし、ライリーはそんなクララの態度を気にしていなかった。
「そっか。国を出て行く、って簡単に言えちゃうのはクララ様らしいね」
優しげに微笑むライリー。優しげなライリーの声に反応して顔を見たクララは、照れてしまったようで少し赤くなってしまう。
「な、なによ。そんなことより、ライリー様はどうなの?」
少しばかり頬を膨らませながらも、言い返してみるクララ。顔は赤いままだ。
そんな様子を見て、余計に笑ってしまうライリー。クスッと笑った後、クララの顔に自身の顔を向けると、口を開く。
「俺の場合、兄さんが王太子として色々やってくれているから、魔導師なんかになろうかなって思ってる」
ライリーはそう言うと、チラッと空に目を向けた。青色に薄い紫色がかかった様な色をしている、この世界の空。
異世界の研究をしている魔導師によると、他の世界の空は青色をしているらしい。
しかし、ライリーはこの少しだけ違う空の色が好きだった。だから、なぜその違いが出ているのかを、研究してみたいと思ったのだ。
「へぇ。いいんじゃない? ライリー様、強い力の持ち主だし、いい魔導師になれるわよ」
クララは、笑顔を浮かべる。いい魔導師になれる、と言ったのは、皮肉とかではなくて、心から思ったことだ。
思っていた答えと違った答えが返ってきたライリーは、少しだけ顔を赤らめ、うれしそうに笑った。
「クララ様に言われると、ちょっと照れるかも。俺よりクララ様の方が力強いのに」
「あら、それはどうも」
「……謙遜しないんだね」
「えぇ」
当然のように頷くクララ。と、そのとき。
空気中の魔力素を使って動くスピーカーより、鐘の音が聞こえてきた。昼休みの終わりを告げる合図だ。
「もう予鈴がなったの!? ライリー様、先行くわよ!」
「一緒に行こうって言わないんだね」
「そりゃそうよ! 周りに見られたくないもの! じゃあね!」
そう言うと、クララは電光石火の勢いで屋上から出ていく。ライリーは、そんなクララを見て微笑んでから、自身も階段を駆け降りていった。
つづく
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