第9話 妖魔
町にやってきたクララとライリー。そこでは、妖魔が2匹、ウニョウニョと動いている。
「う、うわー」
何回見てもこの光景には慣れない。クララは、ついうっかり本音を口に出してしまう。
(妖魔が嫌われている理由って、この動き方にもあるんだろうな……)
ため息をつくクララ。妖魔のこんな光景、あまり見たくない。
「クララ様、いける?」
「えぇ、いつでも」
クララは大きく頷く。早く倒そうという自信に満ちた目で、口角を上げている。その自信に満ちた表情は、ライリーを安心させた。
ライリーも、クララに頷き返した。お互い、堂々とした態度で妖魔の前に立ちはだかる。
「じゃあ、いくよ!」
「えぇ!」
勢いよく飛び出した2人は、前へと風を切って進んでいく。その間にライリーが、指先に魔力を込める。その間に妖魔の目を引きつけるクララ。ライリーとは違う方向に走っていく。
スー。ウネウネ。
妖魔は、体をうねらせながらクララの方へとやってくる。見ていられないほどの気持ち悪い動き方だ。
しかし、こちらに寄ってくるのを見たクララは、心の中でガッツポーズをしていた。
(よし! 思惑通り!)
クララは、ライリーに向けて視線を送る。目が合うと、ライリーは一瞬笑いかけてから妖魔の方に向き直る。
「ヤァッ!」
勢いよく飛び出す、赤く光る球。——ライリーの手のひらから発されたものだ。
「!?」
不意を突かれてしまった妖魔たちは、ライリーの発した赤い球に反応しきれない。
ドンっ!
球が、左側にいた妖魔に当たった。道にドンと倒れた妖魔は、もう動かなくなってしまった。
自分に危機が迫ったと気づいたらしい右側にいた妖魔は、いそいそと逃げ出そうとしている。その様子もまた、気持ち悪い。
「逃がさないわよ!」
勢いよく駆けていくクララ。妖魔の前へと立ちはだかる。急に目の前にやってきたクララに驚いた妖魔は、またしても動きを止めてしまう。
(チャンスだわ!)
クララは先程以上に自信に満ちた笑顔を放つ。今のクララに迷いはない。
「!?」
クララが手を振り上げると、地面から這い上がってきた魔力を含んだひもが妖魔の体に巻き付く。動けなくなる妖魔。驚きと恐怖感でさらに体が余計に固まってしまったようだ。
「意識を妖魔に向けて……よし」
クララは、空中で指をくるくると回す。すると、指先から細い水が螺旋状を描きながら浮かんでくる。
その様子はまるで水のロープでできた螺旋階段のようだ。
『スパイラル』
澄んでいて響く声を発すると同時に、クララは指先を妖魔に向ける。螺旋状になった水は、すごい勢いで妖魔めがけて進んでいき、螺旋状のまま妖魔にぶつかった。
水ははじけ飛び、妖魔は切り刻まれたのだ。戦いの終わった道ばたには、細かく切り刻まれた妖魔の体と、はじけ飛んだ水、そして先程ライリーがやっつけた妖魔の死体が落ちている。
「成功……よね?」
「うん。無事、妖魔をやっつけることができた」
ふたりは、お互いを見合って微笑む。周りの景色がひどい景色だが、ふたりにはそんなこと関係なかった。
「妖魔は脇に置いといてっていわれてるから、この妖魔を寄せたら終了だね」
「分かったわ」
クララは大きく頷くと、道ばたに落ちている邪魔な妖魔の死体に手のひらをむけ、魔力を込める。
ゆっくり手を上に上げると、妖魔はぷかぷかと浮き始めた。
「物体操作魔法か……」
「えぇ」
クララは、道の脇に妖魔の死体を寄せる。しっかりと寄せられたのを確認すると、ふたりが同時にふうっとため息をついた。
「終わり……で、いいんですよね?」
「あ、敬語」
「……いいんだよね?」
クララをからかうライリー。少しイラッとしたクララは、言い直した部分をわざと強く言って強調する。
そんなムキになっているクララの姿にライリーは笑ってしまう。その笑った顔も、クララを余計にいらつかせた。
「もう! さっさと帰るよ!」
「はーい。クララ様」
無事に妖魔を倒すことに成功したふたりは、少しだけ、仲を深めることができた……のだった。
つづく
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