第7話 クララとシェイラ
クララとライリーの協力関係が生まれた日の夜。クララは、シーンと静まるこの王城の自室にて1人で夕食を食べていた。
本来、夕食——に限らずご飯の時間全般——は家族全員で城内食堂にそろって食べるはずなのだが、国王であるクララの父親は公務で忙しくあいている日は週に一度ほど。王妃であるクララの母親もお茶会や舞踏会などの出席で忙しい。その上、使用人たちがシェイラのことをクララから守るために距離をおこうとしているため、いつしか各自自室で食べるようになっていた。
(慣れてしまったけれど……姉様と食べれないのは悲しいわね……)
クララは、フォークを置くと、はぁ、とため息をつく。最近、余計につらさが増してきた。疲れも多くたまっている。何より、学園に行き始めたことにより、自分がかなり嫌われていることがはっきりと分かってしまう。その上、ライリーの相手もしなければならないのだ。
疲れてぼーっとしていると、部屋のドアをたたく、トントンという音が鳴った。
「クララ、今大丈夫?」
「は、はい! どうぞ!」
ガチャ。
部屋の扉が開く。中に入ってきたのは、普段使用人達が遠ざけようとしているせいで会えないはずの姉、シェイラ。
驚いたクララは、ばっと席を立つ。驚いて口をポカンと開けていたが、少しだけ微笑んでいるように見える。シェイラが目の前にいることが、うれしくなっていた。
「姉様! 使用人達に気づかれずによくここまでたどり着けましたね!」
「ふふっ、あなたの隣、図書室になっているでしょう? 図書室に行くと伝えたら、全く疑われずに来ることが出来たのよ」
シェイラは、ニコッと微笑むと、クララに向かってウィンクをしてみせる。そして、テーブルの椅子に座ると、ポケットから何かを取り出した。
ハンカチにくるまれているそれは、手のひらの半分ほどのサイズ。シェイラはそれをクララの手のひらにのせる。とても軽い。シェイラはうれしそうにニコニコ笑っているだけだ。
「開けてみて」
クララは、少しだけ疑いながらもわくわくしながらハンカチを開いていく。開いた先に出てきたのは、「おめでとう」と書かれた小さなカードと、ハート型の瓶。クララは、びっくりしてシェイラの方に振り向いた。
「どう? 驚いた?」
「は、はい……」
「ふふっ。それなら良かったわ。それ、学園の入学祝いよ。その瓶の中に入っているのは、自作の香水ね」
うれしすぎる。誰もプレゼントをくれなかったどころか、気にもとめていなかった中で、覚えていてくれたのだ。
「お父様もお母様も、どうせ何も送っていないのでしょう? だから、せめて私だけでもって思って。もう少し早く送りたかったのだけれど、使用人達の目を盗んで来るのがなかなか難しくて……」
シェイラは、申し訳なさが残る、可愛らしい笑顔をクララに向ける。それだけで毎日のストレスが拭い取られていった気がした。
(姉様の笑顔には、人を幸せにする魔法がかかっているのではないかしら)
目から涙がこぼれでそうになる。長らく多くの人から無視されていたことに次ぎ、最近かなり忙しくなってしまっていたことが相まって、少しだけ忘れてしまっていた。——いつも、唯一の味方でいてくれた、姉の存在を。先程までつらさで嘆いていた自分を殴りたい。
そう思うだけで、こらえようとした涙が大粒になって出てくる。クララは、感動とうれしさの詰まった涙で顔がぐちゃぐちゃになりながらも、丁寧に大事な姉からのプレゼントをそっと手のひらで包む。この姉からの小さな優しさが、とてもうれしい。
「姉様、ありがとう、ございます」
「どういたしまして。クララ」
うれしさで涙を流し続けるクララを、シェイラは見守り続ける。時には、背中をさすってあげたりもする。クララは、ちょっとした時間がうれしかった。
そんな2人を見守るかのように、夜空にはたくさんの星が輝き続けていたのだった。
つづく
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