第4話 ライリー・ステラ②

 入学式が終わると、クララたちは教室に案内される。クララたち1年C組の教室は、3階の一番端に追いやられるように配置されており、他の1年生のクラスからも離れていた。


 実際、C組に配属された者は、3年間A組やB組の者に陰口を言われ続けて卒業する者がほとんどだ。そのため、大体のC組に所属する生徒は、地味で人との付き合いが苦手な人が多い。クララも、地味というわけではないが、人との付き合いが苦手——相手が話を聞いてくれないことの方が多いが——な一人だった。


 案内された後、教室では担任の挨拶と今後の学園での生活についての説明をされた。それが終わると今日の学校はおしまい。生徒たちは、そそくさと教室を出て行く。人付き合いが苦手な人が多いだけあって皆出て行くのが早い。クララは、結局一人教室に残されてしまった。


「早く帰ろう……」


 クララは荷物を持つと、さっさと教室を出て行く。この教室を出れば、もう誰にも会わなくて良くなるはずだった。しかし、クララが教室のドアを通ろうとすると何者かに危うくぶつかりそうになった。——今日、よく見たに。


「あの、そこをどいていただけますか?」

「その前に、俺の話を聞いてもらわなくちゃね」

「!?」


 ありえない。なぜ一度も話したことのない人で、しかも学校の王子様——新入生代表生徒ライリー・ステラの話を聞かなければならないのだろうか。クララは、先程驚いて見開いてしまった目を元に戻し、真顔になる。


「私には、貴方様に話すことは何もありません。失礼致します」

「あっ」


 ライリーの横に少しだけできていた隙間をこじ開けるようにして出ていく。ライリーはクララが強行突破をしてくるなど考えてもいなかったようで、クララの後を追っては来なかった。


(よかったわ……。追い払えて)


 よく話を聞かないまま教室を出てしまったことには少しだけ罪悪感を覚えるが、この学園を出た後の自由を手に入れるためには、ライリーと話しているわけにはいかないのだ。——そう自分に言い聞かせながら、クララは小走りで学園を後にした。



***



 一週間後。

 クララがライリーを追い払ってからのこと。ライリーは、毎日のようにクララに言い寄ってきていた。


 教室にはるばるやってきたり、廊下で一人ぽつんといるところに声をかけてきたり。無論、話を聞いてほしいという要求のためだ。


 そんなクララは、言い寄ってくるライリーから逃げ回っていた。教室に来たときは追い払い、廊下で話しかけられたときは適当に理由をつけて断る。


 いま追い払えるだけ追い払っておかないと、また「落ちこぼれ王女のくせに」などと言われかねない。もうすでに一部で話題になってしまっているようだ。しかも、留学生と仲良くなってしまったと思われてしまうと、留学生をこの国に留まらせるための「道具」として利用される恐れがある。

——そう、これはクララにとって自由に生きるための「戦争」なのだ。


 そして今日も、学園での一日が終わった。クララは、ライリーに言い寄られないよう、誰よりも早く教室を出ようとする。——しかし。


「っ!?」

「いい加減、逃げ回らないでいただけますか?」


 一足早く教室前で待ち伏せしていたライリーがクララの前に立ちはだかる。一応、笑顔ではあるが、目が微妙につり上がっていて、ピクピクしている。相当怒っているようだ。


「あれ……留学生のライリー様では?」

「なぜ、クララ落ちこぼれ王女様なんかに話しかけているんだ……?」


 ざわざわと周りがうるさくなり始める。どれもこれも、A組所属で自分たちC組とは縁のないはずの留学生がなぜクララに話しかけているのかという、クラスメイト達の疑問だ。


 クララは非常に困ってしまった。クラスメイト達にライリーから話し合いを要求されていたことがバレてしまったのだ。クラスメイト達の視線が、こちらに注がれる。もう、適当に断ることは出来ないようだ。


「……場所を変えましょうか」

「えぇ、そうしましょう」


 ライリーはニコッと微笑む。意地の悪い微笑みだ。

 ——このとき、クララは思った。この人、非常に執念深い人だと。


                              つづく

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