第3話 ライリー・ステラ①

 クララの力が覚醒したあの事件から数年。

 クララは16歳になった。ここ、マレイド王国での16歳というのは、貴族であれば学園へと通い始める年齢。クララもまた、今日からここ王立貴族学園の生徒になる。同じように今日から学園に通い始める多くの生徒は、貴族学園の生徒になれること、そして、この学園の制服を着れることを、心の底からうれしく思っていた。


 ——しかし、そんな生徒の中には例外もいる。その例外の生徒が、クララである。学園だろうがどこだろうが自分への扱いは変わらないことを知っているクララに、楽しみなんてなかった。それどころか、今日入学したばかりなのに、早く卒業したいとまで思っている。


 ちなみに、クララの努力の結果、強い力を持っていることは今のところ誰にもばれていない。だから、クララのクラスは1年C組。成績順にクラスが分けられるこの学園の生徒の中でも特に成績が芳しくない落ちこぼれの生徒が入るクラスだ。


(ここまでは順調ね!)


 ここまで自分の実力を隠すことが出来ていることから、クララにはある種の自信がついてきていた。このまま隠し通せれば、自分は自由に、平穏無事に生きていくことが出来る。他の生徒とは違った意味で心を弾ませながら、クララは入学式の会場である、ホールへと足を踏み入れた。



***



 入学式は、思っていたよりも退屈だった。


 ずーっと立ったり座ったり。ほとんど自分たちがすることがない。学園長挨拶なんか、ほとんど寝ていたようなものだ。学園長挨拶以降の内容については、全く何も思い出せない。それは、周りの生徒も同じだったようだ。クララは、唯一楽しみにしていた入学式のプログラムのひとつ前で起きると、大きなあくびをした。


 やっとクララが楽しみにしていたプログラムにはいる。とある生徒が壇上に上がると、クララと生徒たちの表情が明るくなる。それどころか、キャーという歓声のようなものも聞こえてきている気がする。——壇上に上がってきたのは、この学園の生徒会長を務める、クララの姉。シェイラだった。


「皆さん、ご入学、おめでとうございます。今日から皆さんは、この学園の生徒になりますね。私たちも、大変うれしく思っています。これから——」


 シェイラは、在校生代表生徒だ。可愛らしい声で、入学のお祝いの言葉を述べていく。その可愛いながらも凛としているまさに人々のお手本の様な存在のシェイラに1年生全員が見とれる。そして、このことに関してはクララも例外ではない。


(姉様、ここでも慕われているのが分かるわ……!)


 周囲に全く目を向けようとしていないクララなのだが、実は姉にだけ敬意を払っている。


 周囲から落ちこぼれと言われ続けているクララ。しかし、シェイラだけは対等に接してくれている。そのことから、密かにシェイラのファンとして毎日の生活を送っていた。


 そして、シェイラの挨拶が終わると、次は新入生代表生徒の挨拶だ。この代表生徒には、比較的地位も高くて、成績の良い生徒が選ばれる。クララは地位的には問題ないのだが、成績がすこぶる悪いことから、代表生徒には選ばれていない。それでは、誰が選ばれたのか。


 代表生徒として壇上に上がってきたのは、隣国からの留学生、ライリー・ステラだ。ライリーは、壇上のちょうど真ん中に立つと、にっこりと微笑む。ずいぶんと整った顔だ。背丈もスラッとしている。これだけイケメンな要素がつまっている男だ。会場内にいる女性や女生徒が見惚れて、顔が赤くなっているのが分かる。


 ライリーは、全体を見回している。クララは、なるべく相手に見られないように身を縮める。しかし、ライリーはめざとかった。ライリーはある一点を向くと、そこから目を離さない。


 そのとき、ライリーの視線にさっと反応したクララは、すぐに目をそらした。

 ——このとき、目が合ったライリーが微笑んだような気がするのは、気のせいだと思うことにした。


                              つづく


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